建設現場の卵

建設現場からのエッセイ。「建設現場の子守唄」「建設現場の風来坊」に続く《建設現場の玉手箱》現場マンへ応援歌。

NHKラジオ出演(3)

2009-03-14 00:55:39 | Weblog
                …………………(NHKラジオ出演 3)…………

二見:その「やってられっか」が間違ってしまうと、どういう風になってしまうのか… 
私:まったくやる気のない建物が出来上がり、そこに住む人達が困るだけのものですね。
二見:つまり、責任はあるが権限がない所長さんのつらさは良くわかったンですけども
最近,欠陥住宅があちこちで出て来てますね。どうお考えですか?
私:バブルの頃からたくさん住宅を建てるようになって、職人さんの数が少ないのに数多く建てるにはスピードアップせねばノルマが達成できない。
  たくさん建てれば職人さんも儲かるから現場の作業を極力減らしてプレファブ化らしくバタバタと表面を仕上げて
 「住宅が出来ましたよ」
  と言い、お客さんが見に来た時は表面だけ見て、評価している。骨組みがしっかりしているかを見ないで住宅を評価したら4~5年経てば雨が漏る、建具が傾く、壁にヒビがはいる、地盤が下がる、水が流れなくなる等当然のように出て来ますね。
  コンクリートのマンションでもこのくらいならいいだろうとよく思うけれども
  「創って終わりではない」
  という事が頭に無い現場所長さんの建物ではね。
二見:完全な建物って出来ると思いますか?
私:否、自分が創った建物で満足する建物はあります。出来た時の満足とお客に渡す時の満足は違います。
   設計図とおりに創ることは原則だけれども、ここは後々の事を考えてお金がかかっても(追加工事代金が頂けなくても)設計の先生と話をして良い方法に変更することを認められて行けば、質の良い建物は自ずと出来ます。
   建てること、工期に間に合わせることに必死の現場に完全を求めることは出来ませんよ。

二見:一般の住宅を建てる人もビルを建てる話が当てはまる気がしますよね?
私:一般の人が住宅・マンションを買う時は、色々と現場を見て廻っていると思いまが、どこを見るかと言えば
  「キレイな所で仕事をしているか」
  と言う事なのです。
   玄関を入って見て、職人さんが土足でやっているのか上履きでやっているのかで、どこまで職人さん達が気をつけて仕事をしているか、土足でバタバタとゴミがあったりくわえ煙草だったり傷がつきそうだったりしているようでは当然、良い建物にはなりませんよね。
   入る時に
  「すみません、靴脱いで入るのですか?」
   とお客さんが言うくらいキレイにしておけば、創る方も良いお客さんが買ってくれるンだと気持ちが入りますよ。
   創るほうが土足、見る方も土足で入って表面だけ見てるのでは、仕事に愛情が湧かないのでは良い建物・部屋にはならないですよ。
   しかし、ゼネコンでも掃除片付けは、なかなか出来ないモノなのですよ。
二見:どうして?
私:職人さんは仕事をしに来ているのですよ。ゴミや切り屑は自分のものではないと思っているのですよ。
   自分は切って取り付ければそれでいいのだ、切れ端は誰か片付けてよとバタバタの積み重ねがどこかで失敗を招くのですよ。

二見:どんな建物でも創る人の愛情、そこに入る人の愛情がなければいい物は出来ないですね?どういうものが
   《欠陥住宅》というものになるのですか?
私:職人さんの腕が悪かったというものは別にして、私が思うのは四つあります。
   雨が漏ること、台所、トイレ、風呂場等の水が流れて行かないこと、建具が音を出すこと、建物が傾き始めた兆候)それと床が鳴る(歩くと床が揺れる・音がする)の四つです。
    私も(数年前に)建売住宅を買ったのですが、あまりにも床がギシギシ音がするので、床を剥ぐってみたのですね。
    そしたら自分が建築屋でありながら何という欠陥住宅を買ったのだと経験しましてね。
    自分のスタンスで考えてまさかこんなことはしていないだろうと思って、建売住宅を買ったのだから、私の場合でも不動産屋さんとは表面しか見ていないし、建てるところを見た訳ではないから、一般の人から見ると出来上がったものしか買っていないから、生活してみて始めて欠陥住宅だと言うのは手遅れなのですね。
二見:よほど注意して建物は買わなければならないのですよねえ
私:消費者の方から見ると何処を見れば良いのか分からないですよね。
   大工さんの創っている場所を見学するとか、建てた人からその職人さんの評判を聞いて、設計図を多くの人に見てもらうなど相談する窓口をたくさん拡げて余裕を持ってスタートして欲しいですよね。

二見:創る側の話を《建設現場の風来坊》と《…子守唄》の二冊に書かれていますね?
私:本の中にも書いていますが建築現場に入ってくる若い子たちは、はっきりいって勉強嫌いなのですよね。
  ホワイトカラーになれないし学校嫌いな茶髪のお兄ちゃん、暴走族上がりの人もいますが真面目に働いているのですよね。
  そこらの大学生が親からお金をもらって遊んでいるのを見ると、同年代の現場の中の若者たちがね、若くても生活臭さを持ってしっかり頑張っていますよ。根はやさしいのですよね。
   自分の人生をしっかり持っているからそういう人が集まっている所で、現場所長として若者を育てていきたい・応援したいのが私の生きがいだったのですよ。
  (現場の)若者達が学問よりも職人さんとして
  『自分の腕で自立』
   というポリシーを持っているから20~30代の若者は必死ですよ。
   技術(技)を習得するには親方のゲンコツにも耐え、汗水流して命を削って一つの物を創った時に振り返って見て、俺たちが創ったンだと思うと嬉しいでしょう。

二見:ここで東京江戸川区の大塚えりさんからFAXを紹介します。
   「学歴社会・徒弟制度も無くなってしまった。「勉強は嫌い」で働いて稼ぐ事の喜びが失われて行くのではないでしょうか。若い内は汗を流して働く事の大切さを忘れに…子供達の人気職は大工さん、子供達の考えが正しいのではないでしょか」
二見:生命保険会社が調べた今年の小学生のなりたい職業の一番が大工さんでしたね?野球・サッカー選手が同率4位、これ福本さんどう思われます?
私:いいことですね。もう少し頑張って建築屋さんになって欲しいですね。職人さんとして大工さん左官さん等が見えるのでしょうが、広く建築業界に目を向けてくれているのに私は嬉しく思いますね。
   ねじり鉢巻でカンナをかけているのをいいなあと思うのではなくてね、建物を世の中に残していくというロマンが分かってもらえればいいんじゃないかと思うのですよ。
二見:さて福本さんこれからどんなお仕事をされる?
私:私は創ることから今度は皆に教えるのでなくて応援する。建物を一生懸命創って完成させた時の喜び、建物に愛情を込めれる感性というものを教えて行きたいですね。
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話はまだ続きますが、放送時間はあっという間に終わった感じがしました。
新宿NHK放送センターから帰りのタクシーの中で携帯電話が鳴った。
「今、放送を聞いて本を頼みたいのですが…」
本の届け先のメモが終わると、次々と携帯が鳴り出して放送の余韻も消えてしまった。
   
電話の対応に追われながらも全国放送の威力に驚くと共に、本が広まるのも有り難いが、感想が送られて来るのも嬉しく、張り合いのある日々が今も続いていて感謝している。

                   《続く》
コメント
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