男は夢を見ていた。
必死になって目覚めようと思うのだけれども、金縛りにあったように体が動かなかった。
昨日見た湖底の様子が、フラッシュバックしていく。
古い記憶を整理しながら、何が起こっているのかを確認していった。
1994年から調べ始めた湖底の状態は、何か兆候を示していたのだろうか。
どうも湖底が沈んでいる気がしてきたのはこの頃だった。
ただ測定の精度に確信がなかった。
琵琶湖が沈んでいるということが記事になったこともあった。
もう一つ気になっていたことがあった。
湖底の泥が、固くなったり、柔らかくなったりしていたことだ。
なぜそんなことが起こったのだろうか。
もう少しきちんと記録をしておけばよかった。
漠然とした記憶は、その辺で止まった。
「起きて」
女が声をかけてきた。
また働くのか。
そう思うと、気が滅入ってきた。
ゆっくりと手足を延ばし、活動モードに入る。
琵琶湖。
そこは日本列島で最も負の重力異常が大きな場所でもある。
スカスカの地底。
不思議な場所だ。
ここを監視することが、男のミッションであった。
「さて、行くか」
そう自分を鼓舞して、男は起き上がった。
女は、それを見て微笑んだ。
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