DALAI_KUMA

いかに楽しく人生を過ごすか、これが生きるうえで、もっとも大切なことです。ただし、人に迷惑をかけないこと。

遍歴者の述懐 その37

2012-12-13 12:48:39 | 物語

岩のドーム(Qubba al-Ṣakhra:Dome of the Rock)

「イスラエルという国が1948年に建国され、アラブ諸国との間で戦争が始まりました。私は、その前にエルサレムを訪れたことがあります。」

と、晃が語りだした。

「シリアのダマスカスからヨルダン国のアマンを経て、ヨルダン川を越え、聖地エルサレムに入りました。そこで、初めて岩のドームを見たのです。この岩は、一説によれば、マホメットが昇天した場所だとも言われています。また、岩の下には、ソロモン王の財宝やモーゼの十戒を刻んだ石板が埋めてあるとも言われています。真偽のほどはよくわかりませんが。」

このドームは、聖なる『アブラハムの岩』を保護するために、7世紀末に建設されたものだ。このドームの円頂閣に、ある文言が刻まれていることに晃は気が付いた。

「このドームに、『この世界に執着している者は、もう一つの世界を失う』と書かれてありました。これには驚きました。ぜひこの聖句を持ち帰りたいと思いまして、これを書き記した額とかそれに類似した土産物を売っていないかと尋ねましたが、それらしいものはありませんでした。今までに何千万人もの人々がこの地を訪れたと思いますが、この碑文には、だれも気が付かなかったみたいですね。幸い、私はアラビア語を解することができたので、その意味を読み解くことができました。」

晃は、アラビア語の聖句の隣に、古いヘブライ語に似た文字も見つけたという。書き写して、バクダッドやレバノンの大学教授、知識人など多くの友人や知人に聞いたが、いずれも読める人はいなかったという。

「この世の中には、私たちが、うわべだけでしか言葉を理解していないことがいかに多いことでしょうか。残念なことです。たとえば、『南無(namas)』というのは、サンスクリット語では『帰命』つまり『心から仏の教えに従う』という意味です。また、ヘブライ語では『厳粛なる宣言を行う』ということを意味します。私は、サンスクリット語で書かれた般若心経の英訳もしたのですが、古代へブルのカバラ哲学とよく似ているのですね。偶然なのかもしれませんが、とても面白いと思っています。こんなことに興味を持って、サンスクリット語やヘブライ語を学ぶのは、私だけなのでしょうかね。」

そう言って、晃は笑った。

民族を理解するということは、その言葉を理解することだと思われる。それを実践していった鳥沢晃という男のすごさを感じた。多くの情報が飛び交う世の中になり、私たちは、表面的な意味だけを解釈して、民族や人類を理解したと思い込んでいるのではないだろうか。

つづく


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