ガラパゴス通信リターンズ

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食い物のうらみ

2008-04-14 16:35:40 | Weblog
 少年の凶悪犯罪が実は昔に比べて減っていることは、よく知られるようになった。しかし、青少年をめぐる環境は悪くなっているのに、何故彼らが犯罪に走らないのか。このことについて、あまり語られていないのが不思議である。

 これはぼくは少子化のよい影響が出ているのだと思う。子どもを育ててみるとわかるが、上の子というのはおっとりしている。ごちそうがだされても、あっというまに下の子に食べられてしまうのだ。長男長女、それに一人っ子が増えた。おっとりした気質の若者が増えている。そのことと犯罪の現象は無関係ではあるまい。

 マクロでみてみよう。人口が多いとストレスがかかる。団塊の世代が「戦後少年犯罪のピーク」を築き、猛烈な若者の反乱を引き起こしたのも、その人口圧の高さ故だ。この世代が若い頃にかりに就職難に直面し、フリーターが激増していれば、どんな騒ぎが起こったことだろうか。権力者たちは、いまの大人しい若者たちと少子化に感謝しなければならないのである。

 ガストン・ブートーゥールというフランスの社会学者は、戦争は「延期された子殺し」だといっている。戦争は歴史的にみて人口急増地域で起こっているとブートーゥルはいう。人口が急激に増えた日本とドイツが20世紀前半の世界平和の撹乱要因になったことを想起すれば、ブートゥールの言は大いにうなずけるものだ。平和国家を標榜するこの国で、何故少子化を歓迎する空気が支配的にならないのか。不思議でしかたがない。

 プルーストの「失われた時を求めて」は、マドレーヌの匂いが過去の回想を喚起する場面から始まっている。フランスは人口の増えない社会だった。そのため軍隊も弱く工業も盛んにならなかった。しかし、子どもの数が少ないからこそ、優雅にマドレーヌの匂いを楽しむゆとりもあったのだと思う。子だくさんの20世紀初頭のドイツ人家庭でマドレーヌがおやつに登場すれば、兄弟姉妹間の壮絶なバトルが始まること必定である。強国への未練はさっぱり捨て去って、フランスのような繊細な文化大国の道を目指すのも悪い選択ではないと思うのだが。