ガラパゴス通信リターンズ

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空治国家

2008-04-12 11:43:07 | Weblog
 覚醒剤取り締まり法違反の容疑で逮捕され、一審で無罪になりながら拘留されていたスイス人女性に、二審の東京高裁でも無罪の判決がくだった。裁判長は彼女に「まことにお気の毒」と声をかけたというが、「お気の毒」ですむ話ではない。刑事訴訟法には、無罪の判決を受けた者を拘留してはならないと明記されている(345条)。無罪拘留は完全な法律違反である。

 彼女は不法滞在の外国人であった。釈放し、国外退去させてしまうと控訴審が維持できなくなる。それが無罪拘留の続けられた理由であった。被告側の異議申し立てに対して最高裁は、「罪を疑う相当な理由があるため控訴審で勾留しても問題はない」とこれを退けている。日本が批准している国連人権規約のなかには、有罪が確定するまで被告人は「無罪と推定される権利を有する」と明記されている。憲法第98条には、国際法の遵守義務が謳われている。スイス人女性を「有罪推定」した最高裁の判断もまた、法を無視したものなのである。

 最高裁判所までもが平気で法律を踏みにじっているのである。こんな国が、「法治国家」であるはずがない。法という普遍的な原理に頼れない国の民は、その場その場を支配する力関係に敏感にならざるをえないだろう。だから日本人は懸命に場の「空気」を読もうとする。力をもつ者たちから疎まれ、つまはじきにされることを何より恐れているのだ。自分が不当な迫害にさらされた時に、法による保護を求めることは不可能なのだから。日本は「法治国家」ならぬ「空治国家」である。

 「空治国家」日本で裁判員制度がはじまる。裁判員たちの苦労には並々ならぬ者があるに違いない。なじみの無い法律と格闘しなければならないだけではなく、法廷の場の「空気」を読まなければならないのだから。もし世間の「空気」に背く判断を裁判員たちが下した時、果たしてこの人たちの身の安全は保障されるのだろうか。裁判員制度のなかから、様々な圧力に屈することなく自分たちの信念を貫く「12人の空気をよまない男と女たち」があらわれることが、この国の希望である。