ガラパゴス通信リターンズ

3文社会学者の駄文サイト。故あってお引越しです。今後ともよろしく。

「生きづらい」時代の若者たち

2008-12-07 08:43:37 | Weblog
最近うつやパニック障害だと名乗る学生が増えてきました。そのこと自体は、心の病気を隠さなくなったという点では、よい面もあります。しかし気になるのは、そうした病気を抱えながら、大学に出て来ることや4年で卒業することにこだわる学生が多くなってきていることです。

 身体でも心でも、病気になれば仕事や学校を休んで静養するのが一番の薬のはず。ところが大学を4年で卒業しなければ、人生の落伍者になるという強迫観念に、学生たちだけではなく親もまた囚われています。いや、親の方が出席や卒業にこだわる傾向が強い。まあ、「学校のことはいいから、ゆっくり休みなさい」というような親であれば、子どもの症状がひどくなることもないでしょうし、そもそも鬱病などにはなりにくいでしょう。

 子どもを追い詰める親には、教師、公務員、一流企業のサラリーマン等々、硬い職業に就く、エリートと呼ばれる人たちが多いように思います。こうした親たちはどうしても子どもに多くのものを求めてしまうからです。「休むこと」を「怠ける」ことだと考えるのもこうした人たちの特徴です。

しかし「新規学卒一括採用」という不条理な慣行が支配している現状では、「4年で卒業しなければ…」という焦燥も、杞憂や妄想だと片付けることはできません。一度躓くとやり直しがきかない。硬直的な日本社会のあり方も、若者たちを精神的に追い詰めている要因の一つにあげられます。

 ぼくの大学にも学生相談室があります。専任のカウンセラーは、若くてやさしい女性の先生で、大変評判のよい人です。そこに行けば症状が軽快するばあいが多い。しかし、どこの大学でも学生たちのなかには、カウンセラーに頼ることに強い抵抗感があるようです。若者たちは、「自立」や「自己責任」ということばに脅され続けて育ってきています。「20にもなって人に頼るなんて情けない」。そうした周囲の冷たい視線を、若者たちは感じてしまうのでしょう。


2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
グローバリズムに分裂させられた現代人 (hik)
2008-12-11 10:05:28
資本主義というよりも、それを延長させたグローバリズムに大きな問題があるのだと思います。
基本的に人間というものは社会動物であるという前提のもとで進化してきたのですが、これは食料を得るということを最大目的にしたものだったはずです。「食料を得る」これが消費にほかならないし、消費ということにほかならない。これがマーケット開発と称してグローバリズムは社会構成単位の家族というものを解体して個人という分子のレベルにまで分解してしまった。現在の消費はどんどんと個人消費を指向し最小単位である家族に依存しなくともよくなかった。そのよい例がカルトやオタクといったものではないでしょうか。消費が個人ベースで可能になった現在、収入を得るという作業に関しては社会性を強く要求される。本来ならば消費と収入は強く関連付けられているべき状態であるにもかかわらず分断され分裂状態にある。消費したいという欲求と社会性の元で働かないといけないという精神的な対置。これは迷っても仕方ない状態だと思います。
返信する
「早く大人になれ」対「いつまでも子どもでいろ」 (加齢御飯)
2008-12-11 11:35:00
 「消費が個人ベースで可能になった現在、収入を得るという作業に関しては社会性を強く要求される。本来ならば消費と収入は強く関連付けられているべき状態であるにもかかわらず分断され分裂状態にある」。

 hikさま。これは社会学者たちが「個人化」と呼んでいる現象ですね。「自己決定」が称揚されながら、巨大な社会の圧力の前に個人化した人々は抗することができません。こうした状況は個人に強い緊張感を強いるものです。またダニエル・ベルが指摘した資本主義の文化的矛盾ー生産者としては勤勉で賢くあれ、消費者としては愚かで浪費家であれーも人格の分裂を促進しています。そして、若い人たちはその上に「早く大人になれ」という圧力と「いつまでも子どもでいろ」という圧力の間に引き裂かれているようにもみえます。これでは欝やパニックに障害に陥らない方が不思議です。
返信する