ガラパゴス通信リターンズ

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感傷旅行(子どもも大きくなりました・声に出して読みたい傑作選84)

2009-07-03 10:28:19 | Weblog
 子どもの頃に雑種犬を飼っていた話は以前に書きました。妻の実家には猫がたくさんいました。ペットのいる生活もよいものだとは思います。とくに子どもにとってよい思い出になるでしょう。しかし、世話をするのは大変だし、亀や鶴や象は長命なようですが、大抵の動物は人間よりも短命である。そうするとかわいがっているペットとの死別という大変悲しい経験もしなければなりません。まあ、団地住まいで犬や猫を飼うことは物理的にも無理ですが、かりに大きな家に住んでいたとしても躊躇するところはあるでしょう。

 骨髄移植を受けた次の年の夏休みのことでした。子どもたちが祭りの夜店で、ザリガニを釣ってきました。最初、子どもたちは、「ザリガニだわーい、わーい」と騒いでいました。「ザーニー」という名前をつけたのは、骨子でした。水槽を買って来て、ザリガニを飼うことにしました。しかしなにぶん子どものこと。すぐに飽きてしまいます。いつしかザーニーの世話は、ぼくの仕事になってしまいました。

 ぼくは生き物を飼うのは好きでもないし、うまくもありません。最初はいやいやという感じでしたが、毎日のように水を換え、時には背中についた水垢を洗ってやっていると情が移ってきます。背中を洗ってやりながら、「うふっ」と微笑みながら頬ずりしたことさえありました。ところが冬を越して春になるころになるとザーニーは徐々に衰弱していきました。そして桜の花をみることもなく、あの世にいってしまったのです。

 丁寧に葬ってやりました。その時には涙がとまりませんでした。ペットロスということが実感できました。ザリガニでさえこんなに悲しいのです。犬や猫が死んだら飼い主の悲しみはいかばかりでしょう。この時、ぼくは傷ついた心を抱えたまま旅に出ようかとさえ思いました。人はそれを「センチメンタルザーニー」と呼ぶことでしょう。