≪尭帝が華という地に遊んだ。その時国境の番人が言うには、「ああ、聖王よ、貴方が長寿でありますようにお祈りします」と。すると尭帝は断った。「寿なれば(いのち長ければ)則ち辱(恥)多し」。すると番人は言った。「世が太平ならば衆人と共に生活を謳歌されゝばいいし、天下が治まらないならば、徳を修めて静かな生活を送られゝばいい。もしうんと長生きして世の中に飽きられたら、この世を去って天にのぼり、白雲に乗って天帝のおわします楽園にいかれゝばいいではないですか」、と。≫(「十八史略」)
<衰弱の妻、放置死の疑い 67歳夫「面倒くさかった」──衰弱していた妻の世話をせず放置して死亡させたとして、千葉県警匝瑳署は11日、保護責任者遺棄致死の疑いで、造園作業員伊藤勝容疑者を逮捕した。同署によると、伊藤容疑者は「面倒くさかった」などと供述している。逮捕容疑は、2008年9月下旬ごろから、自宅で寝たきりだった妻の幸子さん=当時(57)=に十分な食事を与えず放置。医師の診察も受けさせず、肺炎で死亡させた疑い。伊藤容疑者と幸子さんは2人暮らし。幸子さんは、死亡する約2年前から徐々に体調を崩していったとみられるが、その間一度も医療機関で受診した形跡はなかった。夫妻には長女(29)がいるが、県外で暮らし音信不通という。>(2/11 共同通信)
∇こういう報道を聞くのが一番こたえる。老老介護による「介護疲れ」での殺人事件は先月だけでも2件あった。19日に山口県で81歳の妻が84歳の夫の首をスカーフで絞めて殺害、30日には神奈川県で81歳の認知症の妻の首を85歳の夫がタオルで絞めて殺害した。山口の殺害容疑者の老妻は「介護に疲れてやった。自分も死のうと思った」と供述し、居間のこたつの上には「もう疲れた」などと書かれた紙が置いてあったという。神奈川の殺害容疑者の老夫は「妻は介護が必要で、将来を悲観してやった」と自供していたそうだ。前者は訪ねてきた長女(57)が見つけ、後者は普段利用している福祉施設のデイサービスに「妻の首を絞めた」と電話している。今日の朝刊に<30万部突破! 日野原重明先生が実践 長寿社会の国民的ベストセラー「100歳までボケない101の方法」(文春新書)>なる本が大きく宣伝されていたが、何か虚しい。2月7日の朝日新聞「声」欄に載った記事を再読しながら色々考えさせられていた。──
<「長寿ってちっともめでたくない」──「『介護疲れた』84歳夫を絞殺 容疑の81歳妻逮捕」(1月19日朝刊)を読み、私でなくてよかったと思いました。私の夫は87歳、もう6年余、病人の状態です。……被害者には妻もいて、娘も近所にいる、恵まれた環境と一見思われますが、81歳の老妻には24時間同じ屋根の下にいて、心休まる時間はなかったでしょう。私もすぐに82歳、わかるわかる。犯罪者になりたくないだけの冷めた気持ちでいるから。病人の訴えを、苦しかろう、自由に動きたいだろうなどと思って聞いていたら、とても24時間6年3ヶ月は務まりません。右の耳から左の耳に「うんうん」と言うだけで過しているから、私は犯罪者にならないで済みました。63年連れ添い、何とか人生の大団円(注:末期)を無事に迎えることができればという願いでいっぱいです。長寿ってちっともめでたくない! 心の叫びです。>(主婦 杉本令子 北九州市小倉南区 81歳)
∇今月11日に起きた、衰弱していた妻の世話をせず放置死させたとして、保護責任者遺棄致死の疑いで逮捕された67歳夫が、「面倒くさかった」と、供述しているそうだが、この事件にしても単なる道義的心情を以て、「何て非道い奴だ!」と非難するだけで済まされる問題ではない。<死亡する約2年前から徐々に体調を崩していったとみられるが、その間一度も医療機関で受診した形跡はなかった。夫妻には長女(29)がいるが、県外で暮らし音信不通という。>という記事の裏に潜む複雑な「家庭事情」を思いやると、沸々と同情心が湧いて来る。我が亡妻の2年間に亘る病魔との闘いの日々を重ね併せた。声の欄に投稿された上記・杉本さんの<私でなくてよかった>は、老生の気持ちの代弁を果たしてくれている。そして又、「長寿ってちっともめでたくない」も……。総務省統計局の資料によれば、今や65歳以上の高齢者人口(平成22年9月15日現在推計)は2944万人で、総人口に占める割合は23.1%。(5人に1人強!)
∇さらに、年齢階級別にみると、70歳以上人口は2121万人(総人口の16.7%)、75歳以上人口は1422万人(同11.2%)、80歳以上人口は826万人(同6.5%)。男女比では男性より女性の方が長生きの傾向があるため、自然に女性の方が高齢者の割合が大きくなる。女性は4人に1人以上が高齢者という計算。80歳以上の割合が男女で2倍近い差を見せているそうだ。又、家族構成は、国立社会保障・人口問題研究所の資料によれば昨年度統計で、「単独」世帯31.2%、「夫婦+子」世帯27.9%、「夫婦のみ」世帯20.1%、「ひとり親+子」世帯9%となっている。「単独」+「夫婦のみ」併せて5割に占める高齢者の比率は今後益々増えていく見通しである。「老老介護」「孤独死」の問題は、最早他人事ではない。高度な科学・医療文明を以て、“高齢化社会”を実現した国々総ての「帰結課題」である。「長寿ってちっともめでたくない」と思っても長生きしてしまう。どうしたらいいか?── 散歩する時間になったので、「21世紀の森と広場」をブラ/\歩きながら考えてみることにしよう。
<衰弱の妻、放置死の疑い 67歳夫「面倒くさかった」──衰弱していた妻の世話をせず放置して死亡させたとして、千葉県警匝瑳署は11日、保護責任者遺棄致死の疑いで、造園作業員伊藤勝容疑者を逮捕した。同署によると、伊藤容疑者は「面倒くさかった」などと供述している。逮捕容疑は、2008年9月下旬ごろから、自宅で寝たきりだった妻の幸子さん=当時(57)=に十分な食事を与えず放置。医師の診察も受けさせず、肺炎で死亡させた疑い。伊藤容疑者と幸子さんは2人暮らし。幸子さんは、死亡する約2年前から徐々に体調を崩していったとみられるが、その間一度も医療機関で受診した形跡はなかった。夫妻には長女(29)がいるが、県外で暮らし音信不通という。>(2/11 共同通信)
∇こういう報道を聞くのが一番こたえる。老老介護による「介護疲れ」での殺人事件は先月だけでも2件あった。19日に山口県で81歳の妻が84歳の夫の首をスカーフで絞めて殺害、30日には神奈川県で81歳の認知症の妻の首を85歳の夫がタオルで絞めて殺害した。山口の殺害容疑者の老妻は「介護に疲れてやった。自分も死のうと思った」と供述し、居間のこたつの上には「もう疲れた」などと書かれた紙が置いてあったという。神奈川の殺害容疑者の老夫は「妻は介護が必要で、将来を悲観してやった」と自供していたそうだ。前者は訪ねてきた長女(57)が見つけ、後者は普段利用している福祉施設のデイサービスに「妻の首を絞めた」と電話している。今日の朝刊に<30万部突破! 日野原重明先生が実践 長寿社会の国民的ベストセラー「100歳までボケない101の方法」(文春新書)>なる本が大きく宣伝されていたが、何か虚しい。2月7日の朝日新聞「声」欄に載った記事を再読しながら色々考えさせられていた。──
<「長寿ってちっともめでたくない」──「『介護疲れた』84歳夫を絞殺 容疑の81歳妻逮捕」(1月19日朝刊)を読み、私でなくてよかったと思いました。私の夫は87歳、もう6年余、病人の状態です。……被害者には妻もいて、娘も近所にいる、恵まれた環境と一見思われますが、81歳の老妻には24時間同じ屋根の下にいて、心休まる時間はなかったでしょう。私もすぐに82歳、わかるわかる。犯罪者になりたくないだけの冷めた気持ちでいるから。病人の訴えを、苦しかろう、自由に動きたいだろうなどと思って聞いていたら、とても24時間6年3ヶ月は務まりません。右の耳から左の耳に「うんうん」と言うだけで過しているから、私は犯罪者にならないで済みました。63年連れ添い、何とか人生の大団円(注:末期)を無事に迎えることができればという願いでいっぱいです。長寿ってちっともめでたくない! 心の叫びです。>(主婦 杉本令子 北九州市小倉南区 81歳)
∇今月11日に起きた、衰弱していた妻の世話をせず放置死させたとして、保護責任者遺棄致死の疑いで逮捕された67歳夫が、「面倒くさかった」と、供述しているそうだが、この事件にしても単なる道義的心情を以て、「何て非道い奴だ!」と非難するだけで済まされる問題ではない。<死亡する約2年前から徐々に体調を崩していったとみられるが、その間一度も医療機関で受診した形跡はなかった。夫妻には長女(29)がいるが、県外で暮らし音信不通という。>という記事の裏に潜む複雑な「家庭事情」を思いやると、沸々と同情心が湧いて来る。我が亡妻の2年間に亘る病魔との闘いの日々を重ね併せた。声の欄に投稿された上記・杉本さんの<私でなくてよかった>は、老生の気持ちの代弁を果たしてくれている。そして又、「長寿ってちっともめでたくない」も……。総務省統計局の資料によれば、今や65歳以上の高齢者人口(平成22年9月15日現在推計)は2944万人で、総人口に占める割合は23.1%。(5人に1人強!)
∇さらに、年齢階級別にみると、70歳以上人口は2121万人(総人口の16.7%)、75歳以上人口は1422万人(同11.2%)、80歳以上人口は826万人(同6.5%)。男女比では男性より女性の方が長生きの傾向があるため、自然に女性の方が高齢者の割合が大きくなる。女性は4人に1人以上が高齢者という計算。80歳以上の割合が男女で2倍近い差を見せているそうだ。又、家族構成は、国立社会保障・人口問題研究所の資料によれば昨年度統計で、「単独」世帯31.2%、「夫婦+子」世帯27.9%、「夫婦のみ」世帯20.1%、「ひとり親+子」世帯9%となっている。「単独」+「夫婦のみ」併せて5割に占める高齢者の比率は今後益々増えていく見通しである。「老老介護」「孤独死」の問題は、最早他人事ではない。高度な科学・医療文明を以て、“高齢化社会”を実現した国々総ての「帰結課題」である。「長寿ってちっともめでたくない」と思っても長生きしてしまう。どうしたらいいか?── 散歩する時間になったので、「21世紀の森と広場」をブラ/\歩きながら考えてみることにしよう。