'07/08/05の朝刊記事から
核廃絶と「核の傘」
ねじれ抱える日本 あす広島原爆の日
久間章生前防衛相の原爆投下「しょうがない」発言を機に、日本が抱える核兵器をめぐる問題が再び、浮き彫りになった。
被爆国として核廃絶を国際社会に訴えながら、「核の傘」の恩恵を受け、米国に戦後一度も原爆投下の謝罪を求めていない。
広島、長崎の「原爆の日」を前に、核問題で「ねじれ」を抱える日本の姿を検証した。
「先の大戦後、米政府に直接抗議を行ったことは確認されていない」
政府は7月10日に開かれた閣議で、久間発言を受けた社民党の福島瑞穂党首らの質問主意書に対する答弁書を決定。
戦後、政府が米国に対して原爆投下への抗議をしてこなかったことを公式に認めた。
対米関係悪化恐れて 謝罪求めず
答弁書には「米国に謝罪を求めるより、核兵器が二度と使用されることがないよう、核軍縮の努力を積み重ねていくことが重要だ」とも記しており、政府は今後も謝罪を求めない姿勢を鮮明にした。
久間氏の発言では、日本原水爆被害者団体協議会(被団協)が、政府に対し「原爆投下を正当化し続けている米国に抗議し、謝罪を求めよ」と訴える声明を発表している。
しかし、日米同盟を安全保障の根幹に置く政府は、「投下によって終戦が早まったとする米国に本気で謝罪を迫れば、米国との関係は悪化し、日米同盟崩壊につながる」(外務省幹部)と及び腰だ。
各国に放棄訴えても 抑止力肯定
原爆投下の非人道性は、市民を無差別に殺害しただけにとどまらない。
大量に放出された放射能が影響で白血病や癌などの病気を引き起こし、戦後60年以上が過ぎた今も、被爆者を苦しめている。
だからこそ日本は被爆国として1994年から毎年、国連総会で、すべての国が核兵器を放棄することを求める決議案を提出。
米国やインド、パキスタンは一貫して反対や棄権をしているが、決議は各国の支持を得て、13年連続で採択された。
一方で、安倍晋三首相は、参院選前の7月1日に行われた党首討論会で、米国の誤った原爆観を正すべきだと迫る民主党の小沢一郎代表に対して、「北朝鮮に核兵器を使わせないためにも、米国の核の抑止力を必要としている現実もある」と答えた。
その2日後の7月3日、ジョゼフ米核不拡散問題担当特使は記者会見で、原爆の使用を正当化する発言をしたが、塩崎恭久官房長官は「発言の性格は個人的に行ったものと聞いている」と語ったのみだった。
北朝鮮の実験後には 保有論浮上
核廃絶を訴えながら核の傘に守られるという矛盾の中、安倍政権下では、日本の核保有論も公然と語られ始めた。
昨年10月の北朝鮮の核実験後、自民党の中川昭一政調会長が核保有論議の必要性を提起し、核実験を受け急遽来日したライス米国務長官が核抑止力の有効性を強調、核保有論封印を図ったこともあった。
原爆に関する発言録
■1995年4月18日 クリントン米大統領(当時)
「原爆投下に米政府が謝罪することはできない。(原爆投下を指示した)トルーマン大統領の決断は正しかった」
■2006年10月15日 中川昭一自民党政調会長
「(北朝鮮の核実験を受け)核があることによって攻められる可能性は低い。やればやり返すという議論はあり得る。憲法でも核保有は禁止していない」
■07年6月30日 久間章生防衛相(当時)
「長崎に原爆を落とされて悲惨な目にあったが、あれで戦争が終わったんだという頭の整理で、しょうがないと思っている」
■07年7月3日 ロバート・ジョゼフ米核不拡散問題担当特使(前国務次官)
「原爆の使用が終戦をもたらし、連合国側の数十万単位の人命だけでなく、何百万人の日本人の命を救ったという点では、ほとんどの歴史家の見解は一致する」