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中国経済のV字回復は始まっている

中国経済のV字回復は始まっている

建設現場のシフトを終えて帰る労働者たち。マスクを付けていない人も(北京、4月16日) Thomas Peter-REUTERS

<新型コロナ後の中国の1〜3月期の成長率はマイナス6.8%と44年ぶりの落ち込みを記録した。欧米でのコロナ収束はまだ見通せず大きな輸出回復を期待できない中でも、中国経済は既に回復を始めている>

4月17日に、中国の国家統計局は2020年1~3月の経済成長率が前年の同期と比べてマイナス6.8%だったと発表した。中国が前回マイナス成長に陥ったのは、周恩来と毛沢東が相次いで死去して大きな政治的動揺があった1976年以来、実に44年ぶりである。新型コロナウイルス肺炎の流行が中国経済に深い傷跡を残していることが明らかとなった。

 

これを報じた4月17日のNHKニュースに登場した日本総研のエコノミストは中国経済のV字回復は期待できないと述べ、翌4月18日の『日本経済新聞』も「V字回復の実現は難しそうだ」と書いている。

しかし、国家統計局が今回発表した数字と1か月前に発表した2020年1~2月の統計を比べてみると、中国経済は3月に明らかにV字回復を見せている。日本総研エコノミストと日経記者はもっと統計を詳細に検討すべきであった。

すべての指標が3月に回復

V字回復の様相は、2019年、2020年1~2月、2020年3月の主要な経済指標を示した図から見てとることができる。

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ここに示したすべての指標が2020年1~2月に急激に落ち込んだのち、3月に回復しており、Vの形に見える。サービス業付加価値と小売売上額の2つはV字というよりも3月になっても回復が鈍いL字に近いが、後にのべるように、これらは4月に入れば回復する可能性が高い。

たしかに、2019年の成長率と同等以上まで回復した指標は輸入額(2019年+1.6%、2020年1~2月―2.4%、3月+2.4%)だけで、他の指標は3月の時点でも依然としてマイナスの領域にある。昨年並み以上まで回復しなければV字回復と認めないというのであれば、たしかに輸入以外にV字回復した指標はない。しかし、もともと2020年は2019年の成長率(6.1%)を下回って5.8%ぐらいになるだろうと予想されていたので、昨年と同等以上まで成長する可能性は仮にコロナ禍がなかったとしても小さかったのである。

図に示した指標のうちGDP成長率のみは私が推計したもので、1~2月はマイナス9.1%、3月マイナス3.0%となっている。もともと中国では1~2月のGDP成長率は発表されないが、鉱工業やサービス業の成長率など他の数字からの推計によってこの結果を得た。

 

 

産業別にみると、3月の回復が著しいのが鉱工業で、1~2月はマイナス13.5%まで落ちたが、3月はマイナス1.1%まで戻した。鉄鋼、石油化学、ICなどの装置産業はコロナ禍のさなかでもプラス成長を維持する一方、自動車や電子など組立型の産業は工場を閉鎖したので大きなマイナスとなった。だが、電子産業は3月に多くの工場が再開したようでプラス9.9%とV字回復した。一方、自動車産業は3月もまだマイナス22.4%と落ち込んだままである。これは部品がまだ揃わないとか、自動車販売店からの注文が入ってこないといった事情によるものであろう。だが、自動車販売は早晩回復するであろう。

作りだめできないサービス業

 

一方、サービス業の回復は遅れている。サービス業は生産と消費が同時になされるという特徴があるため、消費が回復しないと生産も回復しない。小売売上高の回復が鈍いことからもわかるように消費は3月にもあまり回復していない。中国国内での新型コロナウイルスへの新規感染者がほぼゼロになったのが3月中旬だったので、3月中に消費が回復しなかったのも当然である。しかし、武漢市の都市封鎖が解かれるなど移動制限が解除された4月にはサービス業や小売も回復するであろう。

実際、4月になってほとんどの地域で昨年並みの経済活動が戻ってきていることは、以前に本コラムで紹介した人々の移動状況に関するビッグデータで確認できる。人々の市内での移動状況を2020年3月29日から4月4日までの一週間と2019年3月17日から3月23日までの一週間とで比較してみると、昨年より人々の移動が少ない地域は89カ所、昨年より移動が増えている地域が274カ所となっている。

武漢市はまだ昨年より人々の移動が63%少なかったし、域外からの人の流入を制限している北京市もマイナス27%だったが、農村地域などではおおむね昨年を上回る人の動きがみられる。各地域の人口の大きさを加味しない単純平均で見ると、昨年より5%余り人の移動が増えている。

今後の中国経済はどうなるであろうか。

2003年のSARSの流行のときは中国経済はまさしくV字回復し、年間を通してみればGDP成長率10%と前年を上回ったが、今回はさすがにそうはいかないだろう。SARSの時は感染者数が5000人余りであったのに対して新型肺炎は8万人以上と格段に多いことに加え、中国経済のサービス化が進んでいることもある。モノの消費であれば、感染が広まっている間は買い控えと作りだめがなされ、終息後にすみやかに挽回することができるが、サービスは作りだめができないため、感染中の買い控えを終息後に挽回できない。

 

 

 

中国での新型肺炎の広まりについてこれまで的確な見通しを示してきた鍾南山氏によれば4月いっぱいで中国での感染は終息するだろうという。そこで、5月から12月はもともと予想されていた年率5.8%まで成長率が回復するとしよう。すると2020年を通してのGDP成長率は2.6%と推測できる。これが現時点で望みうる最良のシナリオである。4月初めに発表されたアジア開発銀行の予測は2.3%で、この最良シナリオに近い数字を示している。

しかし、世界では欧米や日本やインドなどが目下コロナ禍と戦っている最中で、これがいつ終息するか見通せないため、実際の成長率は最良シナリオに届かない可能性が高い。冒頭でふれた日本総研のエコノミストと日経の記者がいずれもV字回復は期待できないというのも欧米への輸出が止まることを理由に挙げている。

 
 
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中国はもう輸出頼りではない

しかし、こうした予測は中国経済が欧米への輸出に依存しているというすでに時代遅れになった認識に基づいている。実際は2010年以降、純輸出の動向が中国経済の成長率に与える影響はかなり小さくなっている。今年の場合、仮に輸出が最悪の展開で推移したとしても中国の内需さえ回復すれば、中国経済全体としてはなんとかプラス成長になる可能性がある。

つまり、1~3月は輸出がマイナス11.4%だったが、仮にこの状態が2020年を通して続くとすると、純輸出は前年の2.9兆元から4000億元ぐらいに減る。その場合、中国のGDP成長率は2.5ポイントほど押し下げられることになる。しかし、内需が回復する最良シナリオが2.6%なので、そこから2.5ポイントを引いてもGDP成長率はプラス0.1%になる。2020年に欧米や日本がマイナス成長になるのはほぼ間違いないので、リーマンショックの時と同様に、中国経済がまたもや世界経済を最悪の落ち込みから救うような役割を果たす可能性がある。

さらに、中国から欧米などへの輸出が大幅に減らない可能性もある。欧米でも日本でも人々が外出を避けるなかでモノに対する需要が減るのは間違いない。しかし同時に欧米と日本のモノの生産も減っているはずである。いま中国にマスクや人工呼吸器の注文が殺到していることが示すようにむしろ中国の供給力が頼みの製品も多い。欧米や日本での需要の減少分ほどには中国からの輸出は減らないのではないだろうか。

いずれにせよ、今後このコロナ禍がどう展開するかは予測しがたい面が多い。海外での流行が中国国内に波及し、中国が第2、第3の感染爆発に見舞われる可能性もないとはいえない。そうなるとV字回復どころではなくなってしまう。

 

 

コロナ禍は中国および全世界にとって大きな災難であった。ただ、中国にとってはケガの功名もあった。それは統計が真実性を大幅に回復したことである。感染が拡大する間、国家衛生健康委員会のウェブサイトではその日の午前0時までの感染状況が昼前には公表されるというスピードで発表され続けた。国民はそれを見て前半は恐るべき感染爆発を知り、後半は対策が功を奏していることを知り、長く続いた外出制限に耐えた。淡々と統計を作って発表することがいかに大きな力となるかを私も実感させられた。

 

国家統計局もそれを見て思うところがあったのではないだろうか。4月17日の発表は中国政府が史上初めてリアルタイムでマイナス成長を認めたという意味では画期的だった。これまでも1989~90年や1998年などマイナス成長が疑われる年があったが、国家統計局が発表する成長率は常にプラスだった。さらに、2015年以降は成長率の動きがきわめて硬直的になり、景気動向を見るうえでの機能を喪失してしまった。GDPや鉱工業成長率と、国家統計局が発表する工業製品の生産量などとの整合性もなくなった。

 

しかし、今回ばかりは国家統計局もさすがに観念したようである。マイナス成長が発表されると同時に、さまざまな統計指標の間の整合性も回復し、中国経済に何が起きているのかというストーリーが読み取れるようになった。もちろん中国の統計の弱点がこれで克服されるわけもなく、その意味では引き続き注意深く統計を見ていく必要があるものの、今回は国家統計局の数字を信頼しても大過ないと思っている。

 

 

コラム

中国経済のV字回復は始まっている

2020年04月19日(日)

コロナ禍は中国および全世界にとって大きな災難であった。ただ、中国にとってはケガの功名もあった。それは統計が真実性を大幅に回復したことである。感染が拡大する間、国家衛生健康委員会のウェブサイトではその日の午前0時までの感染状況が昼前には公表されるというスピードで発表され続けた。国民はそれを見て前半は恐るべき感染爆発を知り、後半は対策が功を奏していることを知り、長く続いた外出制限に耐えた。淡々と統計を作って発表することがいかに大きな力となるかを私も実感させられた。

 

国家統計局もそれを見て思うところがあったのではないだろうか。4月17日の発表は中国政府が史上初めてリアルタイムでマイナス成長を認めたという意味では画期的だった。これまでも1989~90年や1998年などマイナス成長が疑われる年があったが、国家統計局が発表する成長率は常にプラスだった。さらに、2015年以降は成長率の動きがきわめて硬直的になり、景気動向を見るうえでの機能を喪失してしまった。GDPや鉱工業成長率と、国家統計局が発表する工業製品の生産量などとの整合性もなくなった。

 

しかし、今回ばかりは国家統計局もさすがに観念したようである。マイナス成長が発表されると同時に、さまざまな統計指標の間の整合性も回復し、中国経済に何が起きているのかというストーリーが読み取れるようになった。もちろん中国の統計の弱点がこれで克服されるわけもなく、その意味では引き続き注意深く統計を見ていく必要があるものの、今回は国家統計局の数字を信頼しても大過ないと思っている。

 

 

 

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