ネオコンは1991年12月にソ連が消滅した後、新たなライバルの出現を防ぐための戦略を立てた。潜在的ライバルを叩き、力の源泉であるエネルギー資源の独占を目論んだのである。
旧ソ連圏の国々を制圧する手始めにユーゴスラビアが侵略されたが、潜在的ライバルの一番手と見られたのは中国だった。そこで東アジア重視が打ち出される。
エネルギー資源を支配するためには中東を支配する必要がある。ソ連が消滅する直前、国防次官だったポール・ウォルフォウィッツがイラク、シリア、イランの殲滅を口にしたのはそのためだ。イラクに親イスラエル体制を樹立、シリアとイランを分断した上で両国を殲滅するという計画だったが、その通りに実行している。
その中東は地政学的にも重要な位置にある。20世紀の初頭、おそらく19世紀からイギリスの支配層は制海権を握っていることを利用し、ユーラシア大陸の周辺地域を支配して内陸部を締め上げていくという長期戦略を立てている。
西端のイギリスからイタリアを経てアラビア半島、インド、東南アジア、朝鮮半島、そして東端は日本列島。イギリスの東アジア侵略が本格化するのは1840年に勃発したアヘン戦争で、42年にイギリスの勝利で終わる。この時にイギリスが奪った場所のひとつが香港だ。1856年から60年にかけて第2次アヘン戦争があった。
2度目の戦争もイギリスが勝利するのだが、イギリスに中国の内陸部を制圧する戦力はない。そこで目をつけられたのが日本。大陸と友好的な関係を維持してきた徳川体制は長州と薩摩を中心とする勢力に倒されて明治体制が始まる。イギリスが明治政府を支援したのは中国侵略の手先にするためだろう。
イギリスの囲い込み戦略には穴があった。中東だ。そこでイギリスはサウジアラビアとイスラエルを作り上げ、スエズ運河を手に入れている。そのイギリスの戦略をアメリカは引き継いだ。
そのアメリカの巨大資本はラテン・アメリカを「裏庭」と位置づけ、支配してきた。ライバルが南アメリカ大陸へ入り込んでくることを阻止すると同時に、その大陸に独立国が出現することも防ぎたかったからだ。
第2次世界大戦後、アメリカの支配層はヨーロッパからナチスの元高官らをラテン・アメリカへ逃がし、保護、そして雇っている。そのひとりで「リヨンの人」と呼ばれていたクラウス・バルビーはラテン・アメリカでアメリカの巨大資本の手先として活動、1980年7月にはボリビアで軍事クーデターを実行している。資金を出したのは大物麻薬業者6人だが、その背後にはCIAが存在していた。
現在、ボリビアはチリと同じようにリチウム資源が注目されている。その埋蔵量は900万トンから1億4000万トン。そのボリビアは中国と経済的に深く結びつき、リチウムの大半は中国へ輸出されているようだ。資源としてのリチウムだけでなく、リチウム電池を製造するため、ボリビア政府はロシアやドイツをパートナーにしたがっているとも言われている。
アメリカの支配層がボリビアに傀儡体制を樹立しようとしている理由のひとつは、中国やロシアがボリビアとの関係を深めつつあるからだ。
ラテン・アメリカではウォール街からの自立を目指す政権が倒される一方、ウォール街が望む政策を進める政権に対する抗議活動が展開されている。
スペインやポルトガルに支配された後、20世紀に入って略奪者はウォール街へ交代したが、第2次世界大戦の後に独立、民主化する国が出てくる。その民主化された政権を潰す役割を果たしてきたのがCIAであり、その手先を育成するための施設も作られた。
その施設は1946年にパナマでSOAとして創設された。その卒業生は帰国後、アメリカの巨大資本の利権にとって邪魔な人びとを排除するために「死の部隊」を編成、民主的な政権が誕生したときは軍事クーデターで潰すことになる。
そうした実態が知られるようになり、SOAは1984年にパナマ政府から追い出され、アメリカのジョージア州フォート・ベニングへ移動する。2001年にはWHISC(またはWHINSEC)へ名称を変更したが、行っていることに大差はない。
その間、民主的な政権が犠牲になっている。例えば、1948年4月に暗殺されたコロンビアのホルヘ・エリエセル・ガイタン、1954年6月に軍事クーデターで潰されたグアテマラのヤコボ・アルベンス・グスマン政権、1973年9月に軍事クーデターで倒されたチリのサルバドール・アジェンデ政権は特に有名だ。
アメリカの巨大資本、CIA、その手先になっている各国の支配層に対する批判はカトリックの世界にも広がり、ローマ教皇庁の意向に反する「解放の神学」が現れた。支配者ではなく国民の大多数を占める民に寄り添おうという考えだ。そうした聖職者も犠牲になるが、その中にはアメリカ人も含まれていたことから批判を強めることになった。
ベトナム戦争でも「侵略者」のイメージがアメリカについたことを反省したのか、ロナルド・レーガン政権は「プロジェクト・デモクラシー」や「プロジェクト・トゥルース」と名づけられた作戦を始める。
これを「思想戦」だと表現した人もいたが、自分たちの侵略行為に「民主」、「自由」、「人権」、「人道」といったタグをつけ、有力メディアを使って宣伝するイメージ戦略だ。1990年代に入って広告会社の役割が飛躍的に増大するが、それもこの戦略の一環である。
しかし、1991年12月にソ連が消滅したことを受け、ネオコンをはじめとするアメリカの好戦派は自国が「唯一の超大国」になったと考え、他国へ配慮をしなくなる。国連中心主義を掲げていた細川護熙政権が潰されたのもそのため。露骨な侵略と「民主」のようなイメージを併存させるためには、それなりの仕掛けが必要だ。
2001年からスタートしたジョージ・W・ブッシュ政権はアメリカ主導軍を使って侵略戦争を始めるが、行き詰まる。そこで2009年に大統領となったバラク・オバマはムスリム同胞団をはじめとするジハード傭兵やネオ・ナチような勢力を使うようになる。
アメリカを崇拝する人びとはそうした幻術を受け入れるが、そうした信仰に毒されていない人は騙されない。長い間アメリカの巨大企業から富を奪われてきたラテン・アメリカでは、21世紀に入る頃から真の意味で民主化しようとする動きが活発化している。その代表格がベネズエラ、ブラジル、アルゼンチンなどだ。
ベネズエラに対してはクーデターが何度も試みられ、ブラジルやアルゼンチンなどではCIAやNSAのようなアメリカの情報機関の支援を受けていると見られる各国の捜査機関や裁判所が使われてきた。
日本では業務上過失致死傷罪で起訴された東京電力の旧経営陣、つまり勝俣恒久元会長、武藤栄元副社長、武黒一郎元副社長に無罪の判決を言い渡した東京地裁(永渕健一裁判長)が批判されているが、原子力発電の問題では慎重な立場の知事が東京地検特捜部に潰されている。
この知事を潰した捜査を特捜部の副部長として指揮した佐久間達哉はその後、特捜部長として小沢一郎も葬り去っている。小沢は新自由主義に消極的な立場で、国連中心主義を掲げていた。その小沢とタッグを組み、東アジアの平和を打ち出していた鳩山由紀夫は有力メディアから攻撃を受け、排除された。
公判が公開を原則にしているのは、裁判官が信用できないことを先人は知っていたからだろう。警察や検察は支配者の道具にすぎない。
第2次世界大戦で日本が降伏する前、天皇を中心とするファシズム体制を支えていたのは内務官僚、思想検察、特別高等警察といった治安機関だ。
こうした機関の幹部は戦後も支配階級のメンバーとして君臨した。裁判官も責任を問われたとは言いがたい。こうした人びとが今、戦前戦中と同じようなことをしている。
明治維新以降、日本はイギリスやアメリカの金融資本の影響下にある。日本の治安機関もそうした支配システムの一部として機能している。ブラジルやアルゼンチン、そしてアメリカと基本的に同じだ。
ボリビアで10月20日に大統領を決める選挙が実施され、アメリカ支配層に嫌われているエボ・モラレスが47.08%を獲得したのに対し、アメリカから支援を受ける第2位のカルロス・メサは36.51%にとどまった。
ボリビアでは得票率が50%を上回るか、40%以上で第2位の候補者を10ポイント以上引き離せば大統領に決まる。つまりモラレスの当選が決まったのだが、メサ支持者が激しい抗議活動を開始、暴徒化していると伝えられている。
ラテン・アメリカの富を盗んできたアメリカの支配層にとって邪魔な存在であるモラレスは2006年1月から大統領を務めてきた。今回の当選で4期目に入るのだが、憲法の規定では2期までとされていた。それが可能になったのは最高選挙裁判所の判決による。
アメリカの支配層が再選回数を制限するようになった大きな理由は、フランクリン・ルーズベルト人気にあると言われている。彼が率いるニューディール派は巨大企業の活動を制限、労働者の権利を認め、ファシズムに反対、植民地も否定していた。議会や裁判所がブレーキ役になっていたが、それでもルーズベルトのような大統領は邪魔だった。
本ブログでは繰り返し書いてきたが、1933年にルーズベルトが大統領に就任すると、JPモルガンを中心とするウォール街のメンバーがニューディール派を排除するためにクーデターを計画する。将校や下士官を中心に約50万人の退役軍人を動員し、「スーパー長官」が大統領を操る仕組みを築こうとしていた。
この計画はクーデター派が抱き込もうとしたスメドリー・バトラー少将の議会証言で明らかになっている。計画を聞き出した後、バトラーはクーデター派にカウンタークーデターを宣言し、議会で記録に残したのだ。
また、彼が親しくしていた編集者の部下だった記者はクーデター派を取材、ウォール街の住人たちがファシズム体制の樹立を目指していることをつかんだ。この記者も議会で証言している。
そうまでして排除したかったルーズベルトは1944年の選挙でも勝利するが、45年4月に急死、ニューディール派はホワイトハウスで実権を失う。副大統領から大統領に昇格したハリー・トルーマンはルーズベルトとの関係が希薄な人物で、彼のスポンサーだったアブラハム・フェインバーグはシオニスト団体へ法律に違反して武器を提供、後にイスラエルの核兵器開発を資金面から支えることになる人物だ。このフェインバーグはリンドン・ジョンソンのスポンサーとしても知られている。
再選回数の制限はフランクリン・ルーズベルトのような人物が政府の中心に長居できなくする。支配層には操り人形が何体でもあるので、そうした制限は問題ない。ボリビアでも制限していたが、それが外されてしまったわけだ。
バラク・オバマ政権が始めたシリア侵略は失敗に終わったと言えそうだ。10月22日にロシアのソチで行われたウラジミル・プーチン露大統領とトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領の会談が行われ、トルコとの国境から30キロメートルの幅でシリア領に緩衝地帯を設け、クルド軍は150時間以内にそこから撤退することが決まったのだ。
その撤退をロシア軍とシリア政府軍が監視、その後はロシア軍とトルコ軍が合同で国境から10キロメートルの幅の地域をパトロールするのだという。ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相によると、非武装のクルド系住民は撤退する必要はなく、安全は保証される。
アメリカがリビアに続いてシリアへの侵略戦争を始めたのは2011年3月のこと。イスラエル、サウジアラビア、イギリス、フランス、カタール、そしてトルコが侵略に参加、その手先として使われたのがサラフィ主義者(ワッハーブ派、タクフィール主義者)やムスリム同胞団を中心とするジハード傭兵。オバマ政権はムスリム同胞団を侵略の核に据えていた。
リビアが狙われた理由は、同国の最高権力者だったムアンマル・アル・カダフィがアフリカを経済的に独立させるためにアフリカ独自の通貨として金貨ディナールを導入しようとしたため。アフリカの富を盗めなくなれば、イギリスやフランスをはじめとする欧米の国は大きなダメージを受ける。
シリアは1980年代から親イスラエル派のネオコンに狙われていた。中東全域を支配するため、従属度の足りないイラン、イラク、シリアが狙われたのだ。
ネオコンの計画は、まずイラクのサダム・フセイン体制を倒し、親イスラエル派を据えてシリアとイランを分断、その上でシリア、そしてイランを破壊、中東全域を支配しようというものだった。これはエネルギー資源をイスラエルが支配することを意味する。
この計画はフセイン体制をペルシャ湾岸産油国の防波堤と位置づけるジョージ・H・W・ブッシュやジェームズ・ベイカーたちの反発を招き、ロナルド・レーガン政権で内紛を誘発することになった。イラン・コントラ事件やイラクゲートが浮上した一因はここにある。この権力バランスが大きく変化、ネオコンが圧倒的な力を持つ切っ掛けが2001年9月11日の出来事だった。
ジョージ・H・W・ブッシュの息子、ジョージ・W・ブッシュはネオコンに操られていた人物で、イラクを先制攻撃してフセイン体制を破壊するのだが、親イスラエル派政権の樹立には失敗し、イラクとイランの接近を招く。
オバマ政権は侵略に自国軍ではなくジハード傭兵を使う。その中心はムスリム同胞団だった。そして「アラブの春」が引き起こされ、リビアとシリアで戦争が始まる。両国に対する侵略戦争を「内戦」と呼ぶのは正しくない。
傭兵には雇い主がいる。最大の雇い主はアメリカ。サウジアラビアは傭兵の最大の供給元であり資金源でもあるが、そのほかイギリス、フランス、カタール、そしてトルコも傭兵を雇っている。イスラエルも将兵を戦闘に参加させ、医療部隊としての役割も果たした。
その構図を揺るがしたのがロシア軍。2015年9月30日にシリア政府の要請で軍事介入、ジハード傭兵を敗走させた。そこでアメリカが新たな手先にしたのがクルド。イラクでは1960年代後半からイスラエルがクルドを手先に利用していた。
ロシア軍の介入はトルコの離反を招き、アメリカ軍は離反したエルドアン政権をクーデターで倒そう目論むのだが、失敗に終わる。ロシアから事前に情報が伝えられていたと言われているのだが、その結果としてトルコとロシアは接近していく。
クルドはネオコンの侵略に協力することで自分たちの国を持てると妄想したのだろうが、トルコとアメリカとの対立でその妄想は悪夢となった。その悪夢からクルドを救い出したのがロシアだ。
21世紀に入ってからネオコンが行ってきた戦略はアメリカの利益に反するのだが、ネオコンの背後には西側の巨大資本が存在している。その巨大資本とは別の権力集団に担がれたドナルド・トランプは昨年12月にアメリカ軍をシリアから撤退させる方針を示した。
しかし、トランプ政権のマイク・ペンス副大統領やマイク・ポンペオ国務長官はキリスト教系カルトで、国家安全保障補佐官になったジョン・ボルトンはシオニスト。国防長官を務めたジェームズ・マティスも好戦派だ。
マティスは撤退への抗議で辞任、ボルトンは解任された。ペンスやポンペオは抵抗してきたが、NATO加盟国であるトルコの軍事侵攻でトランプ大統領の方針は実現することになった。現在、誰がトランプの後ろ盾になっているかは司法長官にウィリアム・バーが座ったことから推測できるだろう。
シリアでの敗北を受け、アメリカの好戦派は今年に入ってイラクに軍事拠点を増設、ジハード傭兵を集めている。シリア東部、ユーフラテス川沿いにある油断地帯の支配を続ける一方、再びシリアとイランを攻撃するチャンスを待つつもりなのかもしれない。が、そうした行為がイラクとの関係を悪化させている。