開幕前の予想を大きく裏切って、今季スタートダッシュに失敗した原巨人。セ・リーグでは中日、ヤクルト、阪神に次いで4位の成績だが……交流戦で復活なるか?
今年もまた、この季節がやってきた。
日本生命セ・パ交流戦。もはやセ・リーグにとっては鬼門。パ・リーグのボーナスステージと化したような気がする、この年に一度の恒例行事。
2005年のスタートから昨年まで7年間の通算成績はセ・リーグの534勝に対してパ・リーグは586勝(32分)。セ・リーグの優勝は0回。オールスターならパ・リーグ77勝、セ・リーグ71勝(9分)。NHK紅白歌合戦にしたって白33勝:紅29勝ぐらいの差なのだ。名目上、力が均衡しているはずのプロのチームで、50勝以上もの差が開くのは如何なものか(ちなみにこれらすべて劣勢の方の勝率を出すと3つとも4割6~7分に収まるのだが、それで納得したら面白統計コラムになってしまうので話を強引に進める)。
7年間負けっ放しのセはそろそろ勝たないとマズイ。
【2005年】 セ 104勝 パ 105勝 7分 (優勝)千葉ロッテ
【2006年】 セ 107勝 パ 108勝 1分 (優勝)千葉ロッテ
【2007年】 セ 66勝 パ 74勝 4分 (優勝)北海道日本ハム
【2008年】 セ 71勝 パ 73勝 (優勝)福岡ソフトバンク
【2009年】 セ 70勝 パ 67勝 7分 (優勝)福岡ソフトバンク
【2010年】 セ 59勝 パ 81勝 4分 (優勝)オリックス
【2011年】 セ 57勝 パ 78勝 9分 (優勝)福岡ソフトバンク
'09年に交流戦開始以降はじめてセ・リーグが勝ち越すものの、翌年の'10年には1位~6位をパ・リーグが独占でセ・リーグは12勝12敗だった巨人を除いて全て仲良く負け越し。昨年も勝ち越したのはドラゴンズ(14勝10敗)のみで、個人成績も投手ベスト10にはヤクルト・館山、巨人・内海のみ。打者ベスト10では阪神・マートン、巨人・長野の2人以外は全員パ・リーグで独占……と、パ高セ低の傾向は近年になって益々拍車が掛かっているように見受けられる。
この偏り、これまでは“そんなもんなのね”ぐらいの感じで軽くみていたが、昨年のホークスぶっちぎり独走優勝に蹴散らされるセ・リーグ各チームを目の当たりにしていたら、いい加減、そろそろ勝たないと、セ・リーグはいろいろマズイような気がしてきた。
ちなみに過去10年の日本シリーズ優勝チームもセ3:パ7と押されている。最近ではセも頑張っているが地域密着の度合いが進んでいるのはパのような気がするし、パ・リーグにはセには絶対にない、リーグの結束力があるのも羨ましい。連盟歌にしてもパの「白いボールのファンタジー」は野球ファンなら聴いたことがあっても、セの「六つの星」は「なんじゃそりゃ」である。細川たかしだ。
「人気のパ、実力のパ」時代の到来にセは危機感を抱く。
最近ではこんな言葉を頻繁に耳にする。「人気のセ、実力のパ」の時代は終わりを告げ、「人気のパ、実力のパ」の時代が来たと。
そう、思い起こせば新庄剛志が「これからはパ・リーグです」(2004年)と言ったあの日から、日本の野球界は本当にパ・リーグ上位の時代になってしまったような気がするのだ。
OH! グレートセントラル。このままではマズイ。
そんな危機感がセ・リーグ各球団首脳にもあるのかないのかは知らないが、今年の交流戦を前にして、セ・リーグ各球団の監督は日本生命セ・パ交流戦公式サイトにてこのようなことを言っている。
「例年、セ・リーグのチームはパ・リーグのチームに対して分が悪い傾向があります。今年はそんなことのないように、勝ち越しを狙っていきたい」(ヤクルト・小川監督)
「ここ数年セ・リーグがこの交流戦で下位の方に集まってしまう傾向にあるので、今年は『何とかしたい』という気持ちがタイガースだけじゃなくて、セ・リーグの他球団にもあると思います。また、そのような戦いをしていかなければなりません」(阪神・和田監督)
~していかなければならない。マストである。
これまでリーグ全体であまり考えることなどなかったセ・リーグに、仄かな団結意識の芽が生まれつつあるような、気がしないでもない。
「やられたらやり返す」と原監督は怒りの鷹狩り宣言!
こんなチームもある。交流戦通算118勝69敗5分け、勝率.631と絶対的な強さを見せる福岡ソフトバンク。昨年も24試合して6チームで4つしか黒星をつけられず、9連敗中のカープから17得点を奪い10連敗を決定づけるなど、各チームをボロッボロのすってんてんにした交流戦の最強王者。とあるチームの若大将のソレは、恨み骨髄に徹しているようだ。
「ジャイアンツは昨年、ソフトバンクに1度も勝てていません。いずれも僅差ではあったと思うけれども、これは許されることではありません。そういう意味ではソフトバンクを大いに意識して戦いたいですね。やられたらやり返す。勝負の世界の鉄則です。今年はそうは簡単にはいかないぞと」(日本生命セ・パ交流戦公式サイトより)
大きく見開いた目から血の涙をしたたらせて文字を綴る姿が見えてくるような、激烈な挑戦状。なんとも、凄まじい気魄である。
セ・リーグファンも一致団結しようじゃありませんか。
このような発言を鑑みるに、今年の交流戦の最大のテーマはひとつ。
セ・リーグによる“打倒パ・リーグ”。
そう位置づけてしまってもいいだろう。
せっかく現場がそんな流れになっているのである。ついでにセ・リーグ各球団ファンの方々に提案である。我々はいがみ合う歴史ばかりが長すぎた。無理なのは先刻承知としたうえで、数多の恨み嫉みは一旦水に流し、ここはひとつ交流戦期間だけ、「セ・リーグ全体の勝ち数」を応援してみるというのは如何だろうか。ええ、ええ、あくまでも見方のひとつとして。試しに。あくまでも、これまでとは違った“リーグ”という概念を発展させる先鞭として、である。
移籍に故障、配置転換……“絶対的エース”が消えたパ。
それに今年は例年に比べてセ・リーグが勝ち越せる要素が揃っているような気がするのだ。
一昨年優勝を果たしたオリックス・岡田監督は交流戦でのセとパの戦い方の違いをこのように分析している。
「(交流戦は)すべて2連戦になるわけやから、軸になる投手がいるところが勝つということ。特にパは良い投手が多いから、2番手以降でもどんどんつぎ込める。パが強いのは、その差が出ているんじゃないかな。ただ、それだと上位との順位が縮まらないからなあ」(日本生命セ・パ交流戦公式サイト)
「みんな勝つから上位との順位が縮まらない」とはすごい発言ではあるが、それはともかく、これまでにも散々言われてきたパ有利の要因。「パは1、2番手に絶対的なピッチャーを持っている」というもの。どっこい、今年のパ・リーグは日本代表クラスの“絶対的なエース”が大量に姿を消しているのだ。
日本ハムではダルビッシュ、楽天は岩隈、ソフトバンクの和田がMLBに移籍。沢村賞の田中は腰痛で交流戦前半は絶望で、西武のエースだった涌井は不調から抑えに転向。オリックス金子はケガから復帰したばかりで不安が残るわ、挙句の果てにソフトバンクの杉内、ホールトンはセの巨人へと移籍……等々、昨年と今年とでは圧倒的に台所事情に差がある。
“貯金箱”の横浜と広島が踏ん張ってくれたら……。
しかも、セ・リーグは昨年不調だった前田健太が絶好調。横浜DeNAも三浦大輔がエースの座を取り戻すほどの蘇生をしている。
これまでパ・リーグの貯金箱と化していた、勝率3割の横浜と4割の広島。'09年に唯一セが勝ち越した年はカープが3位だったように、この2チームが大転落さえしなければ、セ・リーグが勝ち越す現実味は増すだろう。特に'08年以来、12位12位12位11位とセ・リーグの足を引っ張り続けた横浜が、今年は違うのだ。
何が違うって、オープン戦でパ・リーグに勝ち越したり、筒香がいたり……中畑監督曰く「敵は全部ですよ。『誰が』とか言うレベルじゃない、ウチは。チームごと、全身でぶつかって、やっと勝ちゲームが作れるんですよ。だから相手チーム全部ですね」(日本生命セ・パ交流戦公式サイト)という玉砕精神論があるのだ。少なくともオリックス戦13連敗は止めてくれるだろう。気合で。
最後に昨年の交流戦の総括でヤクルト・小川監督はこんなことを言っていた。
「数字に全部出ているので、パとの差は認めなければ。 ただ、勝てないというわけではない。勝機をどうつくるかを考えないと」
交流戦で地に落ちたセの威信……8年目の雪辱なるか!?
また、一昨年の交流戦後、巨人・原監督はこんなことを自身のHPに書いていた。
「今年は悔しい思いをしましたが、セ・リーグのチームも研究をするでしょう。結果が出ているだけに、私自身も反省し、この教訓をチームに取り入れ、改善していこうと思っています。来年とは言いません。パ・リーグのチームとは、日本シリーズでも対戦します。いち早くパ・リーグの長所をチームに取り入れ、セ・リーグの戦いを優位に進め、日本一を目指したいと思います」
交流戦も今年で8年目である。今では交流戦用にパ・リーグ球団へスコアラーを派遣するのが当たり前となったように、日進月歩で研究と対策は進んでいるのである。勝てないわけがない。とはいっても、やっぱりパ・リーグは強いんだけど。
そんなこともひっくるめて、今年の交流戦、屈辱から立ち上がるセントラルの反撃がはじまるのか。はたまた今年も返り討ちにあうのか。その答えは5月16日から。
“汗と涙を流した数で明日の勝負に賭けてみろ”(Number Web)