10節を終えて5位。昇格1年目で上位に進出しているサガン鳥栖
クラブ創設以来初のJ1昇格を果たした鳥栖が、ルーキーシーズンの今年、序盤のリーグ戦を盛り上げている。
5月6日に行なわれたJ1第10節を終え、4勝2敗4分けの勝ち点16は、堂々の5位。開幕前の評価は決して高いものではなく、1年でのJ2降格を予想する声も多かったことを考えれば、驚くべき成績である。
そんな大健闘の要因は、失点の少なさにある。現在までの10試合で総失点5は、J1最少の数字だ。
しかし、だからといって、”ベタ引き”で自陣にこもるだけの守備的な戦い方を志向しているわけではない。DFラインを高く保ち、積極的に高い位置からボールを奪いに行くのが、鳥栖の持ち味だ。
実際のところ、高い位置からボールを奪いに行く分、中盤の守備網を突破されると、DFラインが数的不利な状況にさらされることもある。J1最少失点という数字からイメージするほど、強固で安定したディフェンスができているわけではない。むしろ危なっかしささえ感じるほどだ。
それでも、最後のところでは楽にシュートを打たせず、たとえひとり目のスライディングタックルがかわされても、二の矢、三の矢が飛んでくる。そんな粘り強さが、鳥栖にはある。
尹晶煥(ユン・ジョンファン)・鳥栖監督も、「守備に関しては、選手たちが高い意識を持って組織的にやれている」と、満足そうにここまでの戦いぶりを振り返る。
それは、ピッチに立つ選手も同様だ。豊富な運動量で中盤を支える水沼宏太は、「(失点が少ないことは)正直、運もある」と言いながらも、「今は自信を持って守備をやれている」と話す。
「高い位置からボールを取りに行くといっても、ひたすら(高い位置から)行くわけではなく、無理ならラインを整えて対応することもできるし、狙いを持った守備ができていると思う。中盤を突破されて危ない場面もあるけど、うちのセンターバックは1対1で弱さを見せていないし、だから(中盤を突破されても)大丈夫という信頼感はある」
だが、言い方を換えれば、これだけ積極的な戦い方ができているのなら、もっと点が取れてもいいはず。それが、鳥栖の戦い方から受ける率直な印象だ。
事実、積極的な姿勢は、攻撃においても変わることがない。
昨年のJ2得点王、長身FW豊田陽平の頭をめがけてロングボールを放り込むという、大味な攻撃も少なくないが、決してそれだけに頼っているわけではない。中盤でパスをつなぎ、その間にサイドバックがオーバーラップしてくるような人数をかけた攻撃もできているし、積極的な守備から相手陣内でボールを奪い、速攻につなげることもできている。
にもかかわらず、10試合の総得点はわずかに9。全18クラブ中、下から3番目という数字はいかにも寂しい。守備に関しては及第点をつけた尹監督も、「攻撃についてはもっと得点につながるように、戦術的にも、技術的にも、高めなければいけない」と語る。十分にチャンスは作れているだけに、いかにそれを生かして得点を増やしていくかが、今後もこの順位を保つためのカギとなりそうだ。
とはいえ、そのことで鳥栖の健闘が色あせるわけではない。水沼が笑みを浮かべながら、もどかしそうに口を開く。
「(9得点5失点という)数字だけで、どうせベタ引きしてんだろ、って多くの人が思っているんだと思う。それじゃあ、失点するわけないよ、って。そういう人たちにこそ、ぜひ僕らの試合を実際に見てほしい。僕らは自信を持って戦っていますから」
確かに、鳥栖の戦いぶりを目の当たりにすると、いい意味でのギャップに驚かされる。そこには、「弱者の論理」に基づいて守備に奔走するだけの選手はいない。水沼が力強い言葉をつなぐ。
「これから暑くなって、今までと同じようには走れなくなるかもしれないけど、うちは頑張れる選手が揃っているし、チーム力はJ1でもトップクラスだと思う。チームがひとつになって戦うことで、J1残留はもちろん、ひとつでも上の順位で終われるようにしたい」
数字からだけではうかがい知れないアグレッシブさこそが、J1ルーキークラブ躍進の秘密である。(スポルディーバ Web)