連覇どころか、まさかの降格争い圏内にいるレイソル。王者として守りに入るのでなく、リスクを負って自ら仕掛けるスタイルを取り戻すことができるか。
何かがおかしい。
そう、何かがおかしいのは確かだが、「何がおかしいのか」は明確ではない。そんなジレンマが、今季の柏レイソルの足を引っ張り続けている。
Jリーグでは第10節を消化して2勝2分け5敗(第9節は6/27開催)。暫定15位という成績は、未消化分の1試合を差し引いても開幕前の予想に大きく反するものと言えるだろう。とはいえ大型連休を迎える前は、周囲を取り巻く空気がそれほど切迫していたわけではない。しかし、迎えた第10節サンフレッチェ広島戦、この試合であまりにも“らしくない”大敗を喫すると、ついにゴール裏からブーイングが鳴り響いた。
昨季王者の苦戦もキャプテンの大谷は“想定内”。
昨季「昇格1年目でのJ1制覇」という快挙を達成した王者は、なぜ、ここまでの苦戦を強いられているのか。
広島戦の後、ミックスゾーンで記者のぶら下がり取材を終えたキャプテンの大谷秀和を呼び止めた。
「(この成績を)想定外とは思っていません。去年も勝つべくして勝った試合というのは、実はそれほど多くない。紙一重の試合をものにしたり、チームとして我慢できていたところがあったので」
――今年はそれが、できていない。
「そうですね。何が原因なのかを探ると、やっぱり、試合が続く流れの中で、修正し切れていない。去年みたいにじっくり、前の試合のビデオを観て反省する回数が減っているし、それは監督がやっていないということじゃなくて……」
――単純に、時間がない。
「そう。次のゲームを考えなきゃいけないし、試合に出た選手のリカバリーもやらなきゃいけない。当然、ACLを消化試合にするわけにはいかないので、そこに向けての準備を優先するのは当たり前のこと。ただ、抱えている問題を全員で共有できないと、どうしても個々で消化しなければならなくなる。それが少し、同じ形での失点や同じような展開での負けに影響している気がします」
――その状況を改善するのは、確かに簡単ではない。
「もちろん選手同士で話はしているし、監督も『何かあればいつでも言いに来い』と言ってくれています。でも、すぐに試合があって、移動があってという流れがあるので、そこはやっぱり難しいですね」
王者の義務をこなす多忙さが“修正”に割く時間を奪う。
柏レイソルが直面している壁は2つある。
1つは大谷が言う、ハードスケジュールを原因とする「修正力」の欠如である。
JリーグとACLを戦うための準備は、万全だったかに見えた。オフには昨季の戦力を維持しながら、リカルド・ロボや那須大亮、藤田優人ら即戦力を獲得。ネルシーニョ監督が就任してからの2年半で手にした“完成度”を落とすことなく、そのわずかな隙間を埋める的確な補強に努めた。
ところが、ACLの壁はイメージを超えて高かった。
格下と思われていたタイ王者ブリーラム・ユナイテッドのアウェー戦は想像以上に厳しく、振り返ればこの初戦を落としたことが、現状における負のサイクルの発端となっている。試合に追われるような慌ただしさの中で、昨季まで当たり前だった“修正”に時間を割くこともできない。
「同じ過ち」を繰り返す、負の連鎖をどう断ち切るか。
横浜F・マリノスとの開幕戦は3度のリードを守り切れずドロー。第6節仙台戦は2度も同点に追い付きながら勝ち越しを許し、続く第7節神戸戦も同様の展開で星を落とした。ACL初戦のブリーラム戦も、第4戦の広州恒大戦も試合展開はほとんど同じ。前後半開始直後の失点、ゴールを奪った直後の失点、同点としながら勝ち越しを許すという「同じ過ち」が、大谷の言うとおり開幕から続いている。
柏は2009年10月から約2年半もの間、一度も連敗を喫することがなかった。昨季は8つの黒星を喫し、しかも大量失点を食らっての大敗も少なくなかったが、次の試合には見事に立て直して勝利をもぎ取る。その“修正力”こそが、王座に上り詰めた最も大きな要因の一つであったことは間違いない。しかしその力が、今季はまだ発揮されていない。
限られた時間を有効に使って、課題を検証し、共有し、いかに修正するか。今後の戦いにおいて、この点は非常に大きなポイントとなる。
昨季の成功と今季の現実との乖離が選手たちを惑わせる。
もう一つの壁は、昨季との比較による「理想と現実のギャップ」である。
もちろん選手たちは「昨季は昨季。今季は今季」と頭を切り替えている。しかし、一度手に入れた感覚を完全に切り離すのは容易ではない。結果が出ないほど周囲から比較論を持ち出され、一つひとつのプレーがうまくいかないほど、昨季との違いを感じて違和感を覚える。
故障者が相次ぐ展開も、その感覚を加速させた。
今季はここまで、菅野孝憲、近藤直也、橋本和、那須、そして大谷といった主力選手が故障による“短期的な離脱”を経験。
レアンドロ・ドミンゲスと酒井宏樹は、第7節神戸戦で早くも累積警告による出場停止を余儀なくされた。
故障者や出場停止が続出すると、当然、まだチームのスタイルに溶け込んで間もない新戦力にチャンスが回って来る。
手探り段階の新戦力に頼らざるを得ない負のスパイラル。
しかし、新戦力のリカルド・ロボがパスを受けようとするタイミングやポジショニングは、北嶋秀朗や田中順也、工藤壮人とは違う。左サイドバックの藤田優人のプレーエリアやスタイルは、橋本とは違う。
そうした微妙なズレをミーティングやトレーニングで修正する時間がないため、試合の中でお互いの呼吸を合わせるしかない。しかしこの微調整に、思いのほか時間が掛かっている印象がある。
昨季と比較して感じる「テンポの悪さ」は、おそらくそんなところに起因しているのだろう。少なくとも昨季、ピッチに立つ選手たちが“探りながらプレーしている”と感じることはなかった。迷いがあれば判断が遅れ、無意識のうちにプレーが消極的になるのも無理はない。ミスが失点に直結する展開が続けば、なおさらである。
そしてその消極性が、このチームの最大の強みにもネガティブな影響を及ぼしている。
勝っても、負けても大胆な柏の荒々しさが消えた!?
柏というチームの特徴は、本来、良くも悪くもその荒々しさにある。
鹿島アントラーズのように堅実でも、ガンバ大阪のように繊細でもない。名古屋グランパスのような地力があるわけでもない。勢いで相手を圧倒する、イケイケのテンションで流れを引き寄せる。そうした一体感がチーム全体に充満していて、いつも潔く、派手に勝って、派手に負ける。だから時には大崩れすることもあるが、ショックを引きずることはない。全員で攻めて、全員で守る。全員で修正する。そんなチームのエネルギーを一つの方向に向かわせたことが、指揮官ネルシーニョの最大の功績であり、名将たるゆえんだ。
サポーターが歌う酒井宏樹のチャントに「やってやれ」という歌詞があるが、それこそまさに、柏レイソルそのものを表している。ところが今季は、この“やってやれ感”がない。何となくずっと、空気がどんよりと重いである。
「自分たちをもう一度見直す必要がある」と大谷は言う。
大敗を喫した先の広島戦、しかし実は、この“やってやれ感”を今季初めて感じる時間帯があった。2-0のビハインドから田中順也のゴールで1点を返し、相手に3点目を許すまでの約25分間、今季から増築されたゴール裏を中心にスタジアムが一体となった。
大谷が言う。
「3点目が痛かったとはいえ、まだ追い付く時間があった。なのに下を向いてしまって、あれで終わったような雰囲気を出してしまった。試合後のゴール裏でサポーターの皆さんに『勝つまで続けるしかない』と言われましたけど、本当にその通りだと思う。やっぱり、自分たちに甘さがあるんだと思います。これだけ同じミスを繰り返しているんだから、本当にツメが甘い。自分たちがやるべきことが本当にできているのかを、もう一度見直す必要があると思いますね。それがないと、いつまで経っても変わらない」
もはや言うまでもなく、追い求めるべきは昨季の残像ではない。王者だからこそ抱えうる葛藤と向き合いながら、果たして柏レイソルは本来の姿を取り戻すことができるか。これまで指揮官の先導力を拠りどころにしてきた分、今度は選手自身の修正力が問われている。(Number Web)