スクールのジュニア(中学生)の女の子がお母さんと一緒に張替えでご来店。
お母さん「この子のストリング、横糸が切れそうなんですけど、それっておかしいんでしょうか。一緒にテニスしていた人に、普通は縦糸が切れるもので、横が切れたのは見たことないっていわれたので…」
結論から言えば、おかしくも何ともありません。
指摘された方は善意で言われたのでしょうが、その方が見たことがないだけで、横糸が切れる場合も少なからずあるのです。
最近は少ないですがプロでも横糸を切る人がいますし、何を隠そう、私もだいたい切れる場合はほとんど横糸です(元々あまり切るタイプではありませんし、最近はプレー時間が減っているので切れる前に張り替えるのですが)。
確かに縦糸、横糸、どちらがよく切れるかといえば、縦糸が切れる場合が多い。
これは「縦糸が切れやすい打ち方」をしている人が多いためで、当然ですが「横糸が切れやすい打ち方」の人は横糸が切れます。
具体的には下から上にトップスピンをかけるスイングなら縦糸がよく動くので、横糸との摩擦で縦糸が切れます。
今の主流はこのスイングですから、必然的に縦糸が切れる人が多くなるという訳です。
一方、フラット系のボールを打つ方はインパクトの際に横糸がよく動くスイングになることがあります。
特にフォアハンド(もしくは女子に多いですが両手打ちバックハンド)で回り込んでの逆クロスのストロークを多用する人は、ラケットのグリップエンド側からボールを迎える形でスイングするので、インパクト時には横糸がよく動きます。
そういうプレーヤーは横糸を切ることが多いはずです。
もう一つの原因としてストリングの特性があります。
どんなプレーヤーでもインパクトの瞬間には縦糸だけ、横糸だけが動くことはありません。
両方が動いて、摩擦のダメージの大きい方が先に切れます。
いわゆるモノフィラメントと言われる硬めで単一構造のストリングは摩擦にも強いので、大きく動いている縦糸が先に切れます。
一方、いわゆるマルチフィラメントと呼ばれる、極細の糸を束ねた柔らかいストリングやナチュラルガットの場合、横糸の方が縦糸との摩擦でより多くダメージを受けて、徐々に細くなっていくことがあります。
そのまま縦糸が切れる前に横糸が削れてしまい、先に切れてしまうのです。
ですから横糸が切れる場合は縦糸のようにいきなりパーンと切れるのではなく、ストリングが徐々に毛羽立って細くなっていくことが多いと思います。
私はマルチチフィラメントのストリングやナチュラルガットを愛用し、しかもフラット系のスイングでフォアハンド逆クロスを多用するプレースタイルでしたので、まさに横糸が切れる典型的なパターンだった訳です(笑)。
そのジュニアもマルチ系のストリングでベースラインからフラット気味にバンバンハードヒットするタイプですので、おそらく横糸が早く摩耗するのでしょう。
というようなことを簡単に説明すると、2人とも納得していただけました。
ストリングがどう切れるかはあくまでその人の打ち方(スイング)の結果であり、ストリングを切るためにプレーしている訳ではありませんので、全く気にする必要はないと思います。
ただし、たとえば「こういうスイングをしたい」とか「こういうボールを打ちたい」という希望があり、それに近づけたいと思っているなら、ラケットフェイスのどこでボールをインパクトして、その結果どういうふうにストリングが切れているかを確認することは、一つの目安になると思います。
【追記】
ネット等を見ると「横糸が切れるのはおかしい、打ち方が悪いためだ」と言われているストリンガーやコーチといった専門家の方もいらっしゃるようです。
上記の記事は自分の経験や得た情報によって私の考えをまとめたもので、他の方の意見を否定するものではありません。
異論などありましたらご意見ください。
関連リンク(個人のブログ等ですが、参考にさせていただきました)
「横糸切れるってヘン?」(go for it !ブログ)
「横糸が切れる。 」(On Court (Racquet) !)
「テニス ガットについて」(Yahoo!知恵袋)
(※2022/2/24追記)
検索などで今でもよくこの記事が見られているようですので追加情報。
横糸が切れた画像です。
縦糸はノッチ(ストリング同士の摩擦でできる溝)が深くなって切れるので、切断面も刃物で切ったように平らになることが多いのですが、横糸はストリングが動く範囲が摩擦で徐々に細くなって切れるので、断面もこのように尖ったような形になることが多いです。
これはポリエステルですが、ナイロンマルチだとさらに毛羽立って細くなります。
ちなみにこれは元県高校女子№1でインターハイ、全国選抜、国体にも出場し、今も関東の大学でプレーしている現役バリバリの選手のラケットです。
春休みの帰省中に張替えを注文いただいたのですが、「横糸が切れるのはおかしい」という主張がナンセンスだということがおわかりいただけると思います。
縦糸の画像はこちらをご確認ください。
これはまだ切れる前ですが、このまま使用し続けているとノッチが深くなって、最終的には切断されます。