漁師じゃなくて、猟師なのか、と手にしてみた1冊。
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ぼくは猟師になった
著者:千松信也
発行:新潮社
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山に囲まれた田舎に住んではいますが、それでも「猟師」さんたちにはさほど縁がありません。
かろうじて、おじいちゃんがマタギであったという方がいらしたり、猟友会による害獣駆除としてのカモシカ狩りのニュースを聞いたりといった程度。
フランス料理では野禽は好まれる食材だそうですが、日本ではそれほど一般的ではありませんので、好き嫌い以前の問題という感じです。
ちょっと珍しいお肉といっても猟で獲ったものではなく飼育されたものですし、猟にしても、その成果にしてもとても身近とは言い難いものです。
そんななかで、「ぼくは猟師になった」ですから、知らないだけで猟師の資格を持っている方は私が思うより多いのでしょう。
銃を扱うお店は世の好不況に関わりないたたずまいを見せていますし。
ただ、1974年(昭和49年)生まれ、大学在学中に狩猟免許を取得したという、執筆当時で30代の著者が行うのは銃を使わない猟です。
ワナを仕掛けてイノシシやシカを獲るワナ猟と、網をつかってカモなどを獲る網猟。
思うところがあって銃を使わない猟を選んでいる著者ですが、思うところといえば、猟師になるということ自体が思うところがあっての行動で、それを育んだ少年時代の思い出からが語られていきます。
いわゆる「自然」に慣れ親しんだ生活と、生き物への思い。
幼い頃からの思いにぴったりくる「猟師」という立場を見つけるまで、見つけてからの著者の行動力と思いの持続力が、こなれているとはいえないけれどもとても素直な文章から伝わります。
猟を行い、得たものを自分でさばき、自分で食べる。
猟の獲物はイノシシ、シカ、カモやスズメなどが主で、本の中は、どのようにして猟を行うか、獲物をどのようにさばくのか、その食べ方や保存方法にはどのような方法をとっているかなどが書かれています。
しかも写真入り。
血抜きのために頸動脈を切り、逆さづりにしたシカの姿であるとか、さばいている途中のイノシシとか。
正直にいえばグロいと思うその写真に、肉を食べるのはほんとはこういうことなのだと思わされます。
ひとつの命を奪って、また別の命を養うということ。
スーパーでパック詰めの肉を買う生活では、知っていても、つい忘れがちになるこの事実を、著者は猟を通して日々確認してるようでもあります。
だから無駄なく活かすことにさまざまな手を尽くす。
それらのことを楽しみながら行っているのが伝わるこの本は、猟を始めたいと思っている人には実際的なとっかかりや具体的なイメージを提供するものであり、さほど興味のない人にも猟や野禽を食べることへの興味をそそるものかもしれません。
ただ、毎日、山をめぐり、見回ることが必要なワナ猟は思う以上に時間のかかることであり、獲物の処理には時間だけではなく場所も必要ですから、レジャーの気分で始めるにはハードルが高そう。
獲物を売ることで生計を立てているわけではない著者は、猟師という職業ではなく、猟師という生き方を選んだのだなと思わされる1冊でした。
人って、ほんとにいろいろです。
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