楽しいという作品ではありません。
けれども、読み飛ばすこともできない作品でした。
わたしがいなかった街で
著者:柴崎友香
発行:新潮社
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主人公が過ごしているのは一人暮らしで派遣社員として働く毎日。
離婚した後も住んでいた部屋から引っ越したばかりの新しい部屋で彼女は、ほかのチャンネルやDVDではなく、戦争のノンフィクションを観る。
映画ではなく、ノンフィクション。
人が死んでいく場面を観続ける。
健全とはいいがたいように思うが、それを観ながら彼女が楽しんでいるわけではない。
彼女は考えている。
先の戦争が明日終わるという日のたった1日前の空襲で命を落とした人々と、それを紙一重で逃れ得た人々のこと。
今、自分が住む街はかつて戦争のさなかにあったということ。
彼女は、自分の祖父が、あの日、あの街、原爆の爆心地にいたままであれば、自分はいなかったことを思う。
思いながら、街を歩き、日々を過ごす。
それを読みながら、私自身も同じように祖父を思ってみる。
シベリア抑留から帰ってきた人だった。それを知ったのは祖父の最晩年のことで、その手遅れな感じは、祖父との現実的な距離と私の無関心をそのまま表している。
ちゃんと話を聞いてみるべきだった。祖父がそれを語ってくれたかどうかはわからないけれど。
そんな頭の中での道草をくいながら読み進めていく物語は、戦争のノンフィクションから始まることに身構えたほど暗いものではありません。
むしろ、ゆったりとした時間の流れる、仄明るいものでした。
人との距離を測りかねて失敗したと思ったりもしている彼女ですが、読んでいてつらくなる主人公ではなく、彼女の思考や体験することにつきあい、自分の住む街に積み重なる時間、そこに生きていた人々、今身近に生きている人々を思いながら読み進めていくことは、ある意味読書らしい読書だったかもしれません。
本編もさることながら、読みごたえがあったのは辻原登氏の解説。
みっちり読み解かれていて、解説を読むことで、改めて作品を読み返した気分になりました。
以前こちらで(どの書評のコメント欄だったか忘れてしまったのですが)確かジェーン・エアの話をしたような気がして、お邪魔しました。
私、ようやく読みましたw
新訳でも新版でもなく古い新潮文庫でしたが。
某所にレビューともいえないような駄文を書き散らしましたのでご報告まで。
こちらの本と関係ない話で、すみません。
かもめさん、着々と読破されてますね。ワタクシ、いまだリハビリ状態で、書くほうに至っては…。
そのくせ読まない時に限って、名作・有名作が気になったりして。
先日、ドラマで名作のあらすじを再現するテレビ番組なども観てしまいました。既読だったのに w