解説がテッド・チャンだと、大々的に帯にあります。
テッド・チャン、人気だなぁ。
ブラインドサイト
著者:ピーター・ワッツ
訳者:嶋田 洋一
発行:東京創元社
『突如地球を包囲した65536個の流星の正体は、異星からの探査機だった。調査のため出発した宇宙船に乗り組むのは、吸血鬼、四重人格の言語学者、感覚器官を機械化した生物学者、平和主義者の軍人、そして脳の半分を失った男。彼らは人類の最終局面を目撃する―。ヒューゴー賞・キャンベル記念賞・ローカス賞など5賞の候補となった、現代ハードSFの鬼才が放つ黙示録的傑作! 』
いかにもSFらしい印象の表紙で、ファーストコンタクトもの。
その顔ぶれが、「吸血鬼、四重人格の言語学者、感覚器官を機械化した生物学者、平和主義者の軍人、そして脳の半分を失った男」となれば、そりゃあ、読んでみたくなるってもんでしょと手にした時に、ほんのちょっととはいえ「銀河ヒッチハイク・ガイド」を頭の隅によぎらせていた時点ですでに間違っている私が、この「現代ハードSF」をこの本の送り手が期待したように読めるわけもありませんでした。
地球を遠く離れ、未知の存在に直面していながら、彼らはむしろ人間という存在に向かっていくよう。
けれども、いわゆる人間ドラマが展開するのではなく、脳と感覚、自意識、無意識、知性といったものが焦点です。
時々、『脳のなかの幽霊』を思いだしたりして。
読み終えてから思えば、彼らの顔ぶれはいずれもごく一般的な意識や感覚とは異なる存在。
想像してみてくれって言われても(言っているのは「脳を半分失った男」である「統合者」と呼ばれている男で、語り手。この「統合者」というものも、ちょっと説明しにくいけれど、表面に表れる様々な情報をもとに相手の感情やらを読みとる能力を持つ者。でも、意識や思考に直接触れるわけではないのでテレパシーとかシンパシーとかとは違う。)、それは楽なことではなく、そもそもその「想像してみてくれ」と言われていないSF的な状況や場景を思い浮かべるもの、ちょっと大変。
「想像してみてくれ」とわざわざ言われていなければ、あまり意識もしなかったのかもしれませんけれど。
ファーストコンタクトものですが、半分以上は外ではなく内側を向いている物語はなんだかとてもサスペンスフル。
船外にみえるものが如何なるものであるかわからないのは当たり前、加えて、チームであるはずの乗組員ですら敵か味方かがどんどん怪しくなっていきます。
そして、自分自身にすらも時に裏切られる。
不確かな感覚、不確かな意識。
どんどん追いつめられる閉塞感と焦燥感に、うーん、と唸っているうちに下巻のページもわずかとなり、どうなるかと思っている間もなく終わり。
うーん。結局唸って終わってしまいました。
ちなみに、うーん、うーんと、唸りながら読むことになったテッド・チャンの解説はやたらときっぱりしていて、なんだかさっぱりとした気分になれました。
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