書名からするとちょっと意外な著者名でした。
お好きな方にはそうでもないのでしょうか。
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花妖譚
著者:司馬 遼太郎
発行:文藝春秋
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花にまつわる逸話や、花をモチーフにした物語を集めた短編集です。
全部で10編。
『森の美少年』、『チューリップの城主』、『黒色の牡丹』、『烏江の月』。
『匂い沼』、『睡蓮』、『菊の典侍』、『白椿』、『サフラン』、『蒙古桜』。
初めの『森の美少年』は、ご想像のとおりナルキッソスのお話。
水面に映った自分に一目惚れして焦がれ死んだ美少年の顛末が、いかにも司馬遼太郎っぽい雰囲気で語られていきます。
観察とか考察とか、そういう言葉を連想させる雰囲気で、神話の中でもマヌケさ加減で名高いエピソードが、まるで何やら深遠なる物事の断片であるとでもいうような。
自己愛の語源のエピソードですから、深遠といえば、まあ、そうなのかもしれません。
ナルキッソスがこれなら、ヒヤシンスのエピソードはどんなふうになるのでしょう。
「っぽい」といっても、これらの作品は若い頃のもので、発表当時はまだ司馬遼太郎名義ではなかったそうですから、思い込み半分?
だとしても、このタイトルにしては淡々とした出だしです。
このまま最後までこんな感じかしらと思いましたが、後半になるにつれて作品は物語っぽくなっていきます。
項羽と劉邦のエピソード『烏江の月』などは派手なアレンジが効いて印象的。
なんとなく剛毅な武者人形と清楚な美女人形をイメージしてしまったのは、NHKの人形劇の刷り込みかもしれません。
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川本喜八郎 人形―この命あるもの (別冊太陽)
発行:平凡社
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他には「聊斎志異」の作者・蒲松齢や、役小角など過去に名を遺した人の物語もありました。
『睡蓮』が小角の話ですが、こんな変な小角ははじめて。
変と言ってしまってはいけないのかしら。
逸話の多い、聖人の印象のある人物のはずなのに、いきなり「人間を辞めてやる!」宣言。最後は仏になったぞ!とどこかへ行ってしまいます。
これに感銘を受けるほど人間が練れていない(それに、そこまで人間に絶望してない。)ので、あっけにとられてしまいました。
最後の『蒙古桜』は、花には付き物の悲恋。
花の妖に喰われた男や人を食ったような男性が主人公であるものが多かったなかで、この作品だけは女性に焦点が当たります。
自分の血を吸わせ、一輪の花を生かす娘。
砂塵を蹴立てて馬を駆る男。
本の終わりにふさわしくとても美しい物語です。
淡々とした、定型的な幕切れに乾いた余韻が残りました。
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