ゆっくりと世界が沈む水辺で

きしの字間漫遊記。読んでも読んでも、まだ読みたい。

沢木耕太郎【凍】

2015-03-15 | 新潮社

本を読むことの目的に、自分の知らない世界を垣間見るということがあるなら、私にとって登山家の本を読むことはまさしく目的に相応しいものです。
ノンフィクション作家の雄・沢木耕太郎が登山家山野井泰史氏を取材し描いた長編の文庫。

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 著者:沢木耕太郎
 発行:新潮社
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『最強のクライマーとの呼び声も高い山野井泰史。世界的名声を得ながら、ストイックなほど厳しい登山を続けている彼が選んだのは、ヒマラヤの難峰ギャチュンカンだった。だが彼は、妻とともにその美しい氷壁に挑み始めたとき、二人を待ち受ける壮絶な闘いの結末を知るはずもなかった―。絶望的状況下、究極の選択。鮮かに浮かび上がる奇跡の登山行と人間の絆、ノンフィクションの極北。講談社ノンフィクション賞受賞。』

すべて山に登ることを最優先にした選択で生きてきた道程の中で出会い、ふたりでその先の人生をスタイルを変えることなく生きている山野井夫妻の姿に、何かひとつを選ぶとはこういうことなのだと無言で突きつけられるよう。
ただし、彼らはそうあることで何かを訴えようであるとか、世間を糾弾しようなどという気持ちはカケラもなく、受け手である私がどこか後ろめたい気分でそう感じてしまうだけです。

山に登る。
酸素ボンベすら使わずに、ひとりで氷壁に挑む。
凍傷でほとんどの指を失っていても登る。
(私のPCでは「東証」が最初です。それくらい身近ではない言葉です。ましてやそれで指を失うことなど…。)
死ぬことがなんら特別ではない場所へ自ら臨んで赴く。
何もかもが自分の選択、自分の責任において、山に対峙する。
スポンサーらしいスポンサーすら持たない徹底ぶり。
自分のスタイルで山に登ることは、彼にとっては自由であることの象徴であり、美学なのでしょう。…たぶん。

正直に言って、私が共感できるところなどひとつもありません。
ただ圧倒されるのみ。
こういう生き方もあるのかと、ため息をつくよりほかない1冊です。



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