社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

泉弘志「産業別生産性水準の日韓比較」『大阪経大論集』(大阪経大学会)第58巻第6号, 2008年

2016-10-10 11:49:25 | 8.産業連関分析とその応用
泉弘志「産業別生産性水準の日韓比較」『大阪経大論集』(大阪経大学会)第58巻第6号, 2008年[梁炫玉・李潔との共同執筆](『投下労働量計算と基本統計指標-新しい経済統計学の探求(第11章)』2014年)

 筆者が本稿で行っているのは, 日韓の生産性水準の比較(2000年)である。推計作業には, 全労働生産性水準の国際比較モデルが使用され, 各商品に関する日韓両国の各産品単位量(100万円, 100万ウォン)を生産するに必要な全労働量(投下労働量)が, 連立方程式を用いて計算される。分析はその推計結果の比較による。全労働量の推計であるから, 各産品の生産に投下された直接労働量の他に, その生産に提供される原材料, 固定資本を生産するに必要な間接的な労働を含む。また, 海外から輸入される原材料, 固定資本に投下された労働も, 単位あたり輸出品の平均投下労働量を, 輸入品を入手する外貨に投下されている労働量と仮定し, 推計する。

指標は2とおりあり, 一つは「各産品の全労働生産性」であり, これは上記の説明から明らかなように, 当該産業の直接労働生産性(労働係数), 原材料生産性(中間投入係数), 固定資本生産性(固定資本減耗係数)の他に, 他産業のそれらの生産性などを統合した総合的生産性指標である。もう一つは「当該産業の全労働生産性」でこれは当該産業の労働生産性, 原材料生産性, 固定資本生産性を統合した指標で, 他産業の各係数, 輸出品の産品構成比率などは捨象されている。

利用された統計は主として産業連関表であるが, この統計も含め通貨表示の統計を使って生産性水準の国際比較を行うには, 国ごとで通貨単位が異なるので, それらを統一するために換算する購買力平価が必要である。筆者は, 自身が共同研究者として名を連ねる研究グループが推計した日韓2000年産業別購買力平価に, 若干の手を加えて改良したものを利用した, としている。産業別就業者数に関しては, 両国産業連関表に付帯されている雇用表, 「労働力調査」(日本), 「経済活動人口調査」(韓国)が使われ, その際, 連関表付帯表とその他の統計との数の不一致については, 推計用に独自の調整が加えられた。

日韓の生産性水準の比較に関しては, いくつかの先行研究があり, 筆者はそれらを丁寧に紹介し, 自身の分析結果と付き合わせている。柳田義章「労働生産性の国際比較研究」(2002), 西手満昭「日韓主要産業の推移とFTA」(2007), 日本社会経済生産性本部「労働生産性の国際比較」(2002), 韓国生産性本部「生産性の国際比較」(2001)がそれである。

 分析は多岐にわたるので, ここで, 詳細には示すことはできない。筆者自身が, 「おわりに」で要約しているので, 引用する, 「概括すると, 韓国の生産性はすでにかなり高い水準に達しているが, 2000年の段階では全産業平均でも工業部門の平均でも日本よりまだ少し低い水準である。しかし産業別に見ると, 2000年時点でも, 韓国の生産性が日本より高い産業は相当ある, といえる。先行研究と違ったわれわれの計測の特徴として, 韓国には, 産業によっては, 技術の改善が進み産品物量当たり当該産業で必要な労働量はすでに日本より少ない状態に達しているが, その産業に原材料や設備を供給する産業や輸入原材料・輸入設備を入手するために必要な外貨を稼ぐ輸出産業の生産性が日本に比して低いため, 産品物量当たり国民経済全体で必要な労働量は日本より多い, という状態にある産業も存在する」(p.241)。補論として, 日中韓3国の2005年生産性水準の国際比較がある。

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