社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

泉弘志「現代日本の剰余価値率と利潤率-1980-1990-2000年の推計」『経済』第160号, 2009年

2016-10-10 11:52:00 | 8.産業連関分析とその応用
泉弘志「現代日本の剰余価値率と利潤率-1980-1990-2000年の推計」『経済』第160号, 2009年(「生産価格と均等利潤率の計算(第13章)」『投下労働量計算と基本統計指標-新しい経済統計学の探求』大月書店,2014年)

 資本制社会では, 利潤は資本の運動の規定的要因, 推進的動機である。資本の部門間競争は, 平均(均等)利潤率を形成する。部門間で利潤率が均等化するときに成立する価格は, 生産価格と言われる。もちろん, 現実には均等利潤率や生産価格の成立を妨げる要因があるので, それらがそのまま成立するわけではない。筆者は本稿で, その均等利潤率, 生産価格が所与の剰余価値率, 資本構成のもとで成立するとするならば, それはどのようなものになるかを, 統計的に推計しようと試みている。それが可能ならば, 推計結果を利用して, それぞれの国々の時系列的分析, 国際比較に道が開ける。計算された均等利潤率や生産価格は, 現実の利潤率や価格とは異なるかもしれないが, その相違の原因究明によって, 現実経済を分析できる。

 推計にあたって, いくつかの仮定をおいている。第一の仮定。筆者が推計しようとしているのは, マルクス『資本論』に書かれている均等利潤率, 生産価格であるが, 3巻4編で商業資本が剰余価値の分配にあずかるとしているので, 推計にその部分を組み込むとしている。利子生み資本, 地代については, これを捨象している。農業や鉱業の分野では, そこで使用されている労働生産物ストックだけを資本とみなし, その資本額に応じた利潤を考えて, 生産価格が計算される。第二の仮定は, 産業部門間で剰余価値率は均等という前提での推計であるというものである。第三の仮定は, 各産業には多くの自営業が存在するが, 自営業部門は存在せず, それらもすべて資本家的企業と想定して, 計算を行うというものである。それらの複雑な逐次計算は, 補論に書かれている。

 筆者は計算結果を, 価値利潤率(剰余価値/資本ストック[分母・分子は価値表示]), 均等利潤率(利潤/資本ストック[分母・分子は生産価格表示]), 現実利潤率(利潤/資本ストック[分母・分子は現実市場価格表示])で示し, 比較分析している。全体として「均等利潤率>価値平均利潤率>現実価格平均利潤率」となる。1980年, 1990年, 2000年についての推計結果が与えられているが, 1980年や1990年に比し, 2000年の利潤率が低い。利潤率の傾向的低下が作用しているのであろうか。

 生産価格に関しては, 日本の2000年のそれが示され, それと価値価格, 現実価格との比較が行われている。「価値価格>生産価格>現実価格」である代表的商品は, 農林水産品である。農林水産業部門の資本の有機的構成が低いこと, この部門の価格が国際価格の影響を受け低く抑えられていることなどが要因ではなかろうかと, 筆者は述べている。現実価格が価値価格・生産価格より最も大きい商品は, 石油・石炭製品である。現実価格が価値価格よりかなり大きい商品として, 不動産がある。この商品では生産価格は現実価格よりさらに大きい。筆者はこのような計算結果になった理由を, 帰属家賃がこの商品の大部分を占めていることにみている。

 3つの価格の相違の程度では, 現実価格と生産価格の相違が小さく, 価値と生産価格の相違が一番大きい。現実価格と価値価格の相違が, その中間ある。価値価格と現実価格の中間に生産価格が位置している産業(農林水産業, 繊維製品, 化学製品, 鉄鋼, 非鉄金属), 価値価格と生産価格の中間に現実価格が位置している産業(食料品, 金属製品, 精密機械, 建設, 電力・ガス・水道, 不動産, 運輸・通信業, サービス), 生産価格と現実価格の中間に価値価格がある産業(鉱業, 窯業・土石製品, 一般機械, 電気機械, 輸送機械, その他の製造工業製品)といった結果も示されている。


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