社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

泉弘志「現代日本の剰余価値率と利潤率-1980-2000年の推計」『経済』第160号, 2009年

2016-10-10 11:50:57 | 8.産業連関分析とその応用
泉弘志「現代日本の剰余価値率と利潤率-1980-2000年の推計」『経済』第160号, 2009年(「剰余価値率の推計 日本1980-1990-2000年(第12章)」『投下労働量計算と基本統計指標-新しい経済統計学の探求』大月書店, 2014年)

 本稿は, 日本における物的生産部門を主とした直接的生産過程の労働者の搾取率である剰余価値率を1980-1990-2000年について推計したものである。この間の剰余価値率は, この泉推計によれば, 97.3%(1980年), 107.3%(1990年), 116.7%(2000年)となった。なお, 筆者は別の論文で(「剰余価値率の推計方法と現代日本の剰余価値率」『剰余価値率の実証研究』法律文化社, 1992年), 1951-59年までの8年間, また1960-85年までの25年間の剰余価値率の推移を, 前者では43%から113%へ, 後者では111%から243%へとなったと推計している。後者の1980年, 85年は本稿の推計と重なり, 推計値はかなり異なるが, 筆者はこの理由を, 価値形成労働の定義が異なるからとしている。

 上記の剰余価値率の計算は, 次の手続きで行われた。(1)労働者1人当たり年間労働時間の推計[時価](「労働力調査」の全産業雇用者の週間平均労働時間に年間週数をかける), (2)労働者1人当たり年間賃金(産業連関表の雇用者総所得を雇用者総数で除す), (3) 労働者1人当たり年間労働時間の推計[2000年固定価格](接続産業連関表に掲載されている家計消費支出デフレータをもとめ, これで労働者1人当たりの年間賃金[時価]を2000年固定価格に変換, (4) 賃金財2000年固定価格1万円当たり投下労働量((5)の必要労働を(3)で除す), (5)必要労働(労働者1人当たり産品別購入額[労働者1人当たり年間賃金×平均支出構成比率]×産品別価値), (6)剰余労働(労働者1人当たり年間労働時間の推計―必要労働), (7)序用価値率=剰余労働/必要労働。以上のなかで, (5)にある産品別価値は, 各産品量100万円当りを生産するのに直接・間接に必要な労働量(価値)であり, 産業連関分析の方法を援用してもとめられる。この部分の推計がもっとも煩瑣であると想像できる。

 以上が推計方法であるが, 剰余価値率の値を算出するプロセスの分析でも, 1980-1990-2000年に, 平均労働時間の減少, 平均賃金の上昇[名目, 実質](さらに固定価格賃金の上昇が時価賃金の上昇を上回る), 労働生産性の上昇(実質平均賃金上昇を上回る), 労働力価値の減少などがあったことがわかる。剰余価値率の上昇の背景に, これらの要因があった。

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