社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

泉弘志「投下労働量計算と経済成長率の計測-日本 2000-05年の経済成長率計測を例に-」『大阪経大論集』(大阪経大学会)第63巻第2号, 2012年

2016-10-10 11:53:04 | 8.産業連関分析とその応用
泉弘志「投下労働量計算と経済成長率の計測-日本 2000-05年の経済成長率計測を例に-」『大阪経大論集』(大阪経大学会)第63巻第2号, 2012年(『投下労働量計算と基本統計指標-新しい経済統計学の探求(第4章)』大月書店, 2014年)

 経済成長率を通常行われている市場価格によるのではなく, 投下労働量で計算するにはどうしたらよいか, またその結果はどうなるかを論じた章である。筆者は当然, 投下労働量計算のほうが優れていると考える。その理由は, 「生産」「生産物」の本質に合致した方法だからである。すなわち, 「・・・物的性質がいかに異なっていても生産物には労働の成果であるという共通点がある。労働は, 対象に即していろいろな具体的有用形態で作動し, 物的性質の異なるいろいろな生産物をつくりだす。したがって, 物的性質の異なった生産量の合計という指標(概念)は, 物的性質の異なるものを生産する各部門への労働配分と, 各部門で生産された物量の合成として定義されるのがよい」(p.72)

 以上のように述べて, 筆者はその実際の計算に入る。まず, 投下労働量をもとめる連立方程式モデル, 計算に必要なデータ, その加工手続きが示される。データは産業連関表のなかの取引基本表, 輸入表, 雇用表, 固定資本マトリックスである。未知数と方程式がそれぞれ35個で, 表計算ソフトExcelで計算できる。投下労働量をもとめる連立方程式モデルは, 下記のとおりである。
  t=t(A+D)+y・m+r, y=t・e

 ここで, t:生産物単位量当たり投下労働量を示す行ベクトル, A:国産中間投入係数マトリックス, D: 国産固定資本減耗係数マトリックス, y:輸入品単位当たり投下労働量を示すスカラー, e:輸入品の産品構成比率を示す列ベクトル, m:産品別「輸入中間投入+輸入固定資本減耗」係数を示す行ベクトル, r:直接労働係数を示す行ベクトル
この式が意味することは, 投下労働量が直接労働量と間接労働量(国産中間投入を生産するのに必要な国内労働量と国産固定設備を生産するのに必要な国内労働量<のうちのその年に減耗した部分相当量>と輸入固定設備<のうちのその年に減耗した部分相当量>を得るために必要な国内労働量)の合計である。(pp.76-7)

 計算結果は, 2000-05年で, 2000年固定価値価格表示による2005年最終生産物量(GDP)の年平均経済成長率(ラスパイレス型)0.62%, 同(パーシェ型)0.21%, 同(エッジワース型)0.42%となっている。この時期の市場価格表示GDP年平均経済成長率は, ラスパイレス型で0.74%, パーシェ型で0.64%であったから, 価値価格表示での経済成長率の値は低め(かなり大きな相違)に出ていることになる。

 本稿の内容は以上であるが, 筆者は「注」で, 生産量が労働量によって計られるとする大西広の労働価値説理解(p.87), また労働価値説と効用価値説を矛盾のないものとして橋渡しする考え方を批判している(p.89)。

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