社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

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杉橋やよい「ジェンダー統計の現状と課題」杉森滉一・木村和範・金子治平・上藤一郎編著『社会の変化と統計情報』北海道大学出版会,2009年

2016-11-26 20:09:23 | 6-1 ジェンダー統計
杉橋やよい「ジェンダー統計の現状と課題」杉森滉一・木村和範・金子治平・上藤一郎編著『社会の変化と統計情報』北海道大学出版会,2009年

 ジェンダー平等に向けた国際的運動の契機となったのは,国連が世界女性年と定めた1975年に開催さえた第1回世界女性会議である。以来,ジェンダー統計にかかわる活動及び研究は,急速に本格化した。本稿はジェンダー統計にかかわる内外の研究活動の経過報告であり,この分野での課題を展望したものである。最初にジェンダー統計とは何かが説明され,続いて世界と日本でのジェンダー統計活動・研究の経過が概説され,最後に日本でのジェンダー統計の今後の課題が確認されている。  

 構成は次のとおり。「1.ジェンダー統計とは何か:(1)ジェンダーとジェンダー主流化,(2)ジェンダー統計とは」「2.世界・日本におけるジェンダー統計活動および研究の展開-1975年以降:(1)世界におけるジェンダー統計活動と研究の展開,(2)日本におけるジェンダー統計活動および研究の現段階」「3.今後の課題:(1)ジェンダー統計の充実を保障する恒常的体制の整備,(2)研究と統計作業の充実」  

 「ジェンダー」とは歴史的,社会的,文化的に形成された性別概念で,性差,性役割を指す。それは生物的な性差に由来するものを含むが,従来の社会的歴史的文脈においては男性を「主」とし,女性を「従」とする性別による不平等をともなってきた経緯がある。こうしたジェンダー不平等から脱却するには,ジェンダーの視点をすべての領域に組み込み,ジェンダー主流化(ジェンダー・メインストリーミング)を定着させる必要がある。ジェンダー統計活動は,統計においてジェンダーの視点を主流化することであり,ジェンダーの視点で統計を見直すことを目的とする。そのことによって明らかになるのは,統計調査,統計資料,統計分析におけるジェンダーの歪みである。

 筆者によれば,ジェンダー統計とは次のような統計である。①性区分もつ統計,②ジェンダー問題に関する統計,③ジェンダー問題の背後にある原因,要因,そしてそれらがもたらす結果に関するデータを提供している統計,④性別だけでなく年齢,その他の関連する重要な属性を使った多重分類を備えた統計,⑤利用者に便宜をはかった統計。ジェンダー統計論は統計のデータ分析だけでなく,統計生産・提供論,統計体系・指標論,統計利用論,統計品質論,統計資料論,統計制度論などと関わる。ジェンダー統計論は一方で社会統計学を理論的基礎におくことで,他方で社会統計学がジェンダー視点を導入することで,相互が強化される。

 筆者は「(1)世界におけるジェンダー統計活動と研究の展開」で,1975年から2000年前後までのジェンダー統計活動および研究の展開を,次の諸項目で要約している。
①ジェンダー統計指標作成上の諸問題と一般指針,分野別論議の深まり(『性的ステレオタイプ・性的偏りおよび国家データシステム』[1980年],『女性の状況に関する社会指標の編集』[1984年],『女性の状況に関する統計と指標のための概念と方法の改善』[1984年],など)
②ジェンダー統計指標の体系や開発に関する論議の深化と作業の活発化(国連『女性の状況に関する統計と指標大綱』[1989年],Engendering Statisyics,など)
③ジェンダー統計集の先進国・途上国での作成とデータベースの開発(国連『女性の状況に関する主要統計指標』[1985年],『世界の女性』,など)
④ジェンダー平等・格差に関する統合単一指数の開発と検討(国連開発計画「ジェンダーエンパワーメント指数」,など)
⑤ Engendering Statistics の刊行(B.ヘッドマン・F.ベルーチEngendering Statisyics:Tools for Change,1996)
⑥無償労働の把握と生活時間調査
⑦統計生産者と利用者の意見交換,ジェンダー統計の訓練・ワークショップの開催
⑧世界女性会議などにおけるジェンダー統計の指針と論議
⑨世界ジェンダー統計フォーラムの開催(ジェンダー統計の開発に関する機関間・専門家グループの会合[ニューヨーク,2006年12月],など)

 筆者はまた「(2)日本におけるジェンダー統計活動および研究の現段階」で,日本でのジェンダー活動活動の経過の概観,現段階の特徴を以下のように示している。
①一般的ジェンダー統計論(伊藤陽一を中心とした一連の研究)
②統計資料(第一次資料)のジェンダー視点からの検討(国立女性教育会館[NWEC]『性別データの収集・整備に関する調査研究報告書』,2002年,など)
③分野別ジェンダー統計研究(世帯主概念の検討,無償労働の可視化と貨幣評価,景況調査やジェンダー予算,など)
④ジェンダー関連の単一総合指数の検討(労働省「女性の地位指標」1995年,内閣府「女性の参画指数」2006年,など)
⑤ジェンダー統計に関する政府指針の拡充(各府省主管部局長会議申し合わせ「統計行政の新たな展開方法」2003年,など)
⑥ジェンダー統計データベース構築とウェブサイトを通じた統計データの公開(NWEC,など)
⑦ジェンダー統計資料(二次資料)の充実(『男女共同参画白書』など)
⑧地域におけるジェンダー統計活動の広がり(地方自治体での男女共同参画計画策定,など)
⑨国際協力・海外技術援助の強化-とくにESCAP地域(NWEC,JICAの取り組み,など)
⑩経済統計学会・ジェンダー統計研究部会(GSS)の発足と活動の強化   
筆者は日本でのこの領域での課題を,『世界の女性2005』に示された11の戦略に照らして,確認している。その11の戦略とは次のようである。[戦略1]国家統計システムの強化に継続して関与することを最高レベルで確保する。[戦略2]政府統計の使用を最大化する。[戦略3]データ提供において統計の作成者の能力を構築する。[戦略4]国家統計局において人的資源をあらゆるレベルで開発する。[戦略5]政府統計の法的枠組み内にジェンダー統計の開発を規定する。[戦略6]ジェンダー統計担当部署を支援・強化する。[戦略7]国家統計局と女性団体を含む利害関係者との間の対話を育成する。[戦略8]統計作成者に対してジェンダー視点をその仕事に組み入れるように研修する。[戦略9]現存するデータの出所を利用しジェンダー統計を作成するためのその有用性を高める。[戦略10]各国の政府統計を国際的報告体系に必ず組み込む。[戦略11]国際・地域的な組織・機関・国家統計局および学術・研究組織機関の間の協同を推進する。

 日本の中央政府機関には上記戦略のうち,[戦略4][戦略5][戦略6][戦略7][戦略8]が不足しているので,その強化をはかる必要があるという。くわえて,地方自治体でジェンダー統計の作成が重要な課題となるし,国際協力も一層はかっていく必要がある。

 筆者は最後に,日本でのジェンダー統計の活動のための指針を掲げている。第1は,政府統計の第一次資料を含めすべての統計資料での性別表示の徹底である。第2は,ジェンダー問題の背景,原因,現状把握のための指標の準備である。第3は,プライバシーの観点から調査の難しい項目,世帯内での資産分有など個人に分離することが難しい項目についての,調査法の開発である。第4は,影響調査の方法の開発である。第5は,日本にとって妥当な無償労働などの貨幣評価方法の開発である。第6は,ジェンダー統計(冊子)作成のためのガイドラインなど,実用的な教材の提供である。第7は,日本でのジェンダー統計研究の蓄積の国際的発信である。
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伊藤陽一「日本におけるジェンダー統計の発展に向けて」『女性と統計-ジェンダー統計論序説-』梓出版社,1994年

2016-11-07 22:37:56 | 6-1 ジェンダー統計
伊藤陽一「日本におけるジェンダー統計の発展に向けて」『女性と統計-ジェンダー統計論序説-』梓出版社,1994年

 筆者は本稿で(1)日本でのジェンダー統計論の経過に触れ,(2)社会統計学の見地からジェンダー統計研究の注意点を論じ,(3)この問題に関する国連統計の作業を振り返り,(4)日本におけるジェンダー統計データベース構築の課題に関する若干の問題点を整理している。

 構成は上記の目的にそくして,「1.日本におけるジェンダー統計論の経過」「2.ジェンダー統計資料検討の視角-統計の理解・吟味・批判の重要性-」「3.国連のジェンダー統計作業」「4.ジェンダー統計の収集・選択に関して」「5.日本におけるジェンダー統計データベースの在り方をめぐって」となっている。     

 女性のおかれている状況を統計で示し,分析する試みは,日本に以前からあったが,国連その他のジェンダー統計運動との結びつきは弱かった。しかし,1980年代半ば過ぎあたりから徐々に関連した動きがみられるようになった。文部省国立婦人会館(現在は国立女性会館と名称変更している)による「女性統計データベース」構築に向けた作業が開始され(1992年),その前後から「女性統計の実情とその改善」のためのプロジェクトが組まれるようになり,状況が変わった。

 ジェンダー統計研究を実際に進めるには,国際的なジェンダー統計作成作業の経験を踏まえること,資料源泉である政府統計を理解する仕方,ジェンダー統計視角を政府統計活動のなかで広げること,日本でのジェンダー統計集作成に関する諸問題を検討することなど多くの課題が山積している。これらの課題に取り組むには,社会統計学の研究成果を活かすことが重要である。筆者はこれらの課題を広く国民の利用者の側から考えていくことがポイントであるとして,以下の論点を掲げている。

 2つの誤った捉え方-統計信仰・過信と統計拒絶(ニヒリズム),(2)現実問題そのものの理解,(3)「統計が無い」ことの克服,(4)統計資料の批判的理解と作成過程への注目,(5)統計の真実性の吟味(統計調査過程[仕組み]の理解),(6)標本誤差の理解(統計調査過程[統計調査の形態])(7)統計資料その他の注目点,(8)原統計資料と統計指標,統計集,(9)国連統計への着目。

 まず,現実を認識するには統計が重要であるが,その意義と限界とをしっかりわきまえることが大切である。しかしこれを過信し,統計はもともと正確なものと過信し,統計的数理計算の結果に幻惑されてはならない。また逆に,統計をいかがわしいものと拒絶してはならない。これら2方向の弊に陥らないためには,統計を扱う以前に現実の社会経済問題に実質的な理解をもたなければならず,当該問題に関連していえば,性に基づく賃金格差,家事労働の女性の負担などについて正確な知識を得なければならない。そうは言っても,女性に関する統計がそもそも存在しないケースがあるので,その場合にはこの空隙を埋めなければならない。

 以上をおさえた上で統計を鵜吞みにせず,批判的に受け止めることが大事である。この姿勢を保つには,統計の作成過程がどうなっているのかを知る必要がある。筆者は統計に真実性が確保されているかを統計利用者の側から把握するために,統計調査過程を理論的・組織的準備過程と実施(実査)過程とに区分し,前者を統計の信頼性に関わる契機として,後者を統計の正確性に関わる契機として示し,実際にジェンダー統計の作成の場合にそれぞれどのようなことが問題となってくるかをプロセスのひとひとつに即して逐一,解説している。どのような統計調査形態をとるかについても,同様に,具体的な説明が与えられている。興味深いのは統計資料に関する着目点で,①高潔性,②統計の政策適合性,③速報性,④経済性,⑤民主性の5つの観点に照らして,ポイントとなることを指摘していることである。これらのうち,「高潔性」とは,正確性,客観性,専門性を担保する統計家の専門的,倫理的基準と統計機構の公開性を指す。

 公表されている統計指標,統計集には,要約された統計や比率や指数に加工した数値が多いので,それらの意味することを正確に読み込まなければならない。また,ジェンダー分野の統計利用者が参照する資料は多くは国際比較であることが多いので,それについての注意点が示されている。可能な限り,それぞれの統計に責任をもつ機関の統計書にあたること,ILO統計年鑑では各国からの報告をそのまま掲載しているので,国ごとの統計調査における概念,定義を再確認する手続きを踏むべきである。また,統計に出てこない背後の事情の確認も怠ってはならない。

 筆者は以上を踏まえて,国連のジェンダー統計に関わる作業を簡潔に概括したJ.バネック(国連統計部),B.ヘッドマン(スウェーデン統計局)の論文や報告からいくつかのポイントを拾っている。箇条書きで示すと,(1)統計の重要性の確認,(2)性差別のもとにおかれている女性の状態を認識し,改善する切実な目的のもとに作業を行っていること,(3)既存の統計の吟味する位置にたっていること(統計の利用者の立場),(4)統計の作成過程に焦点を絞っていること,(5)調査票の注意深い設計が提唱されていること,(6)調査員の訓練が意識されていること,(7)統計のあるべき属性として「女性の状況に関する十分で,有意義で,妥当で,偏りのない統計」「正確で,速報性をもち,適切で,利用者にそくした統計」が掲げられていること,(8)国際統計集の利用に際しては「注記」にあたるべきこと,(9)ジェンダー統計の在り方に関して,非専門家である利用者にも平易であること,(10)ジェンダー統計作成の人的,組織的問題を軽視せず多様に論じること,以上である。

 筆者は上記の諸点を,ジェンダー統計集あるいは統計データベース編集にあたるさいの統計調査体系の選択と指標点検のステップをフローチャートで示している(p.199)。その内容は,全体として「1.ジェンダー問題の確認」→「2.理論的に求められるべき統計・統計調査の提起」→「3.実際の統計の有無の確認と具体的統計表・指標の作成」の流れで構成されている。

 最後に,ジェンダー統計のデータベース構築に際して,明確化しなけれならない問題(A.データベースの在り方,B.データベースの内容構築),データベースの目的や利用者の確認が論じられている。後者に関しては,(1)女性の状況についての現状を正確に捉え,地位改善に向けた政策作成のために,その政策効果を測定できるものにすること,(2)女性の生活・活動の全体に関する統計を包括的に用意すること,(3)国際的な脈絡でデータベースを位置づけること,(4)多様な利用者の便宜を最大限にはかること,が具体的に提唱されている。

 日本のジェンダー統計のデータベースについて,国立婦人会館が「女性と家族についての統計データベース」の構築に入ったことを,筆者は評価している(現在は同会館でNWEC
として提供されている)。「望まれることは,政府統計諸機関と連携を強化し,政府統計活動の中に女性統計の問題を持ち込み,統計全体を改善・充実させることである。この際かなめのこととして重要なのは,ジェンダー問題への関心をもつ女性を中心とする幹部統計家の層が厚くなることである」(p.205)と,筆者はしめくくっている。
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櫻井絹江「賃金の性別格差統計の国際比較」伊藤陽一編著『女性と統計-ジェンダー統計論序説-』梓出版社,1994年

2016-10-26 11:34:28 | 6-1 ジェンダー統計
櫻井絹江「賃金の性別格差統計の国際比較」伊藤陽一編著『女性と統計-ジェンダー統計論序説-』梓出版社,1994年

本稿は賃金の男女格差の国際比較を行うとともに,日本の女性の賃金を国際的に位置づけることを目的としている。構成は次のとおり。「1.実収賃金の性別格差に関する国際比較統計の問題点」「2.女性賃金比較の国際統計資料と文献紹介,(1)国際機関における女性賃金の国際比較統計資料[①ILO,②EU],(2)国際機関における女性賃金の国際比較文献資料,(3)女性賃金の国際比較統計-日本語文献と日本における研究-[①労働省関係出版文献,②その他の文献]」「3.女性の賃金に関する国際比較表,(1)実収賃金の男女格差比較の前提,(2)EUを中心とした製造業肉体労働者賃金の男女格差比較,(3)EUを中心とした卸売・小売業労働者賃金の男女格差比較,(4)パートタイム労働者の賃金各国比較,(5)電器部品組立工(女性)賃金の各国比較,(6) 製造業肉体労働者の賃金の男女格差推移比較」「4.賃金の男女格差国際比較にみる日本の女性賃金の世界的順位と特徴」。

 本稿で扱われる賃金概念は,実収賃金である。問題点が6点,挙げられている。第1に賃金に含まれる項目とその範囲で,ここでは直接賃金・俸給とボーナスが対象とされる。第2に労働時間に関する問題である。男性は女性に比し時間外労働時間が多いので,1か月あたり賃金の比較では労働時間の差が考慮されなければならない。労働時間としては実労働時間がとりあげられる(支払い労働時間ではない)。第3に対象労働者の問題である。フルタイム労働者かパートタイム労働者の相違,職制の違いが考慮されなければならない。第4に産業分野の問題である。産業別男女の別の統計資料が国際的に十分に整備されていないなかで,どの産業で賃金の男女格差を比較するかが問われる。第5に対象となる企業規模の問題がある。各国の統計は一様でなく,比較は容易でない。第6に賃金の男女格差の国際比較には世界の各地域,第三世界の各国を網羅する必要があるが,本稿ではEU諸国・北欧からスウェーデン,オセアニア地域からオーストラリア,NIES諸国から韓国を取りあげている。

 利用可能な資料が紹介されている。以下,順に掲げる(一部省略)。それぞれについて,評価と問題点が付されているので参考になる。
【統計】
ILO『国際労働統計年鑑』(Year Book of Labour Statistics)/ILO『職業別賃金と労働時間と食品価格-10月調査』(Statisics on Occupational Wages and Hours of Work and on Food Prices – October Inquiry Results)/EU『賃金-産業とサービス』/EU『賃金構造調査』(Structure and Earnings in Industry)1972年,75年/OECD『経済統計』(Main Economic Industries)/国連『世界統計年鑑』(Statistical Yearbook)/国連『世界の女性1970~90,その実態と統計』(The World’s Women 1970-1990 Trends and Statisitics) /国連『開発における女性の役割についての世界調査』(1986年・1989年)(World Survey on the Role of Women in Development)

【文献】(上記と重複しているものは省略)
ILO『世界労働報告』第2巻(1986年),第5巻(1992年)(World Labour Report) /欧州委員会『ヨーロッパの女性』(Women of Europe-supplements)「労働市場における女性の地位-EC12ヶ国の傾向と発展 1983-1990」第5章 /EC統計局『ECの女性』(1992年)(Women in the European Community)第11章/OECD『雇用見通し』(Employment Outlook) (1988年)第5章「婦人,労働,雇用と賃金,最近の発展の観察」

【日本の関連統計・文献】
労働省大臣官房政策調査部『賃金統計総覧』93年度版/労働大臣官房国際労働課『海外労働白書』/労働省婦人局『働く女性の実情』/ILO『国際労働統計年鑑』/労働省『昭和54年版労働白書』/日本生産性本部(1993年版)『活用労働統計』/藤本武『国際比較-日本の労働条件』1984年/海野恵美子「女子賃金・雇用の日欧比較」『家政経済学論叢』第20号,1984年/小池和男「女子労働の国際比較」『日本の熟練』有斐閣選書,1981年    
 筆者は統計資料、文献をひととおり紹介した後、種々の制約がある条件のもとでではあるが、実収賃金の男女格差の国際比較を行っている。対象分野は産業の一典型として製造業肉体労働者、サービス業のそれとして卸売・小売業である。前者では女性雇用者の比率は少ないが、賃金の国際比較で伝統的に対象とされたきた分野であり、比較的正確な統計がそろう。後者では、女性が従事するサービス業のなかで構成比の高い分野である。問題はパートタイム労働者の取り扱いである。男性労働者のなかでパートタイム労働者が占めるきわめて低いので無視できるが、女性労働者ではそうはいかない。そこで、後者では必要な調整が行われている(その手続きはここでは省略する。102ページ参照)。

その結果、製造業肉体労働者の性別格差は比較15カ国中、日本は最低である(1990年)。女性労働者の賃金(1時間当たり)は、男性の半分にも満たない(男性を100として49.8)。因みに格差が小さいのは、スウェーデン(89.8)、デンマーク(84.5)、オーストラリア(81.6)である。
卸売・小売業労働者では、オーストラリアの性別格差が小さい(83.4)。以下、ポルトガル(75.0)、スウェーデン(74.5)、ドイツ(66.4)、フランス(64.4)、スペイン(64.1)と続く。日本は42.8で比較12ヶ国のなかで最下位である(1990年)。

 パートタイム労働者の賃金の国際比較では、比較にたえる統計の入手が日本、イギリス、オーストラリアの3ヶ国に限定された、という。ただし、この3カ国間でもパートタイマーの定義が一様でなく比較が困難としながらも、パートタイム労働者の賃金のフルタイム労働者の賃金に対する比率は、オーストラリアで98.1%、イギリスで74.3%、日本で60.2%である(1992年)。

 筆者はこの後、統計の制約を了解しながら、電気部品組立工(女性)の賃金の各国比較(1990年ないし91年)、製造業肉体労働者の賃金格差推移の国際比較を示し、最後に実質実収入賃金の水準を計算し、日本を100とした差異指数で比較21各国中15位であることを確認している。くわえて、実質実収入賃金指数(A)と男女格差指数(B)を組み合わせ4タイプ[(A)上位×(B)上位:ドイツ、ベルギー、デンマーク、オランダ][ (A)中位以上×(B)中位以上:フランス、イギリス、アイルランド][ (A)中位下位×(B)中位下位:スペイン、日本][ (A)(B)いずれかが上位×一方が下位:スウェーデン、ルクセンブルク]に分類した独自の考察を行っている。

 日本の賃金の男女格差の特徴は、筆者の示すところ、次のようである。(1)ヨーロッパ諸国が男女格差を縮小した60年代、70年代に、日本の異常に大きい男女格差は是正されていない。(2)先進資本主義諸国では、日本の賃金の男女格差は最大であり、他の諸国と比べて格差の程度がはなはだしい。(3)実質実収入賃金(男女計)の水準は低いうえに、男女格差が大きいので、女性の賃金水準は低い。(4)パートタイム労働者の賃金は国際的にみて、異常な低さである。(5)開発途上国と日本の女性の賃金水準を比較すると、東南アジアの開発途上国では日本の女性賃金の約10-50%である。
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松井安子「アメリカ合衆国における女性と統計-センサス局の動向を中心として-」伊藤陽一編著『女性と統計-ジェンダー統計論序説-』梓出版社,1994年【その1】

2016-10-25 17:41:45 | 6-1 ジェンダー統計
松井安子「アメリカ合衆国における女性と統計-センサス局の動向を中心として-」伊藤陽一編著『女性と統計-ジェンダー統計論序説-』梓出版社,1994年【その1】

 筆者は本稿の目的を「1970年代の女性を取り巻く状況の画期的な変化と,それに対応した労働統計局のCPS(Current Population Survey)の改善,センサス局による『女性に関する連邦統計の必要性について』の会議において指摘された問題点とにふれ,センサス局が開発した『所得ならびに連邦政府による社会福祉に関する調査』(SIPP:Survey of Income and Program Participation)に言及することである」としている。

構成は以下のとおり。「1.アメリカにおける女性の役割の変化」「2.センサス局主催会議『女性に関する連邦統計の必要性について』」「3.所得ならびに連邦政府による社会福祉政府に関する調査(SIPP)」。

アメリカでは1970年代半ばから女性に関する統計の分野で,顕著な動きがみられた。1977年の第一回全国女性会議の開催,1978年4月の「女性に関する連邦統計の必要性について」に関する会議の開催,1983年10月からの「所得ならびに連邦政府による社会福祉政府に関する調査(SIPP)」の開始,労働統計局が年に一度,実施していた人口動態調査(CPS:Current Population Survey)の月ごとの実施,労働省出版物での「世帯主」概念の廃止と「照会人(reference person)」概念の採用(1977年)などである。

強調されているのは,これらの背景に,1970年代からの女性の労働市場への大規模な参入であったことである(1971年から78年末までに年間平均100万人以上の女性の参入,1979年の半ばまでに約4300万人の女性が労働力として社会に進出)。その主役を担ったのは,35歳以下の女性である。25歳から34歳の既婚女性労働者は,1978年に全女性労働者の62%を占めるにいたったが,彼女たちの賃金は男性のおよそ60%どまりであった。1979年には全女性労働者の4人に3人がフルタイムの仕事をもっていたものの,その従事先は伝統的に女性の仕事とみなされた事務労働(速記者,タイピスト,秘書)とサービス関係であった。

 このような事態は,当然にも,従来の家族形態に変化をもたらした。初めての子どもを産む時期を遅らせる若い夫婦が増加し,また子どもを全くもたないと決める夫婦が増加した。離婚率も1960年代半ばから70年代末まで増え続けた。

 上記の第一回全国女性会議の開催は,70年代以降の女性の大量の労働市場の進出がなぜ生じたのかを論議するために計画されたものである。翌年に開かれた「女性に関する連邦統計の必要性について」に関する会議では,1970年代の上記の変化を従来の統計指標でとらえきれないとして,女性に関する統計概念および連邦政府の統計政策を変えなければならないと,商務省長官のジャニタ・M・クレブスは挨拶で述べた。
この会議では,全米の統計に関する政策担当者と研究者が一堂に会し,女性が大量に労働市場に参加したことによる家族概念の見直しの必要性が論議され,不足していた統計が指摘され,新たな統計を加えてアメリカの女性そして社会に何が起こっているかが分析されなければならないことが確認された。会議ではまた,8分科会(所得,職業,性差別,世帯構造,教育,健康,行政への参加,公共政策)で,統計からみた女性の現状,データの不足と新たなデータの必要性について議論され,要求がまとめられた。

 この会議で提出された要求に対してセンサス局はいくつかの対応を示した。筆者はそのなかの「所得ならびに連邦政府による社会福祉に関する調査(SIPP)」を紹介している。SIPPの目的はアメリカの個人と世帯における収入状況と社会福祉受益者についての正確な情報を政策立案者に提供することである。調査における標本数は12500~23500の範囲で選ばれる。調査時の各世帯における15歳以上の人間が聞き取り調査の対象である。調査方法は同じ世帯に対して4カ月ごとに合計8回のインタビューを行う,32カ月に及ぶパネル調査である。質問は2つのセクションからなり,第一セクションは収入源とその額,何らかの福祉を受けているかを問う個人の結婚歴が内容で,第二セクションは子どもの養育費,健康状態,医療保険の使用状況,住居費そして児童手当についてであった。

 SIPPはアメリカの複雑な家族の実状を把握できるようになっている。具体的には,(1)家屋保持者の実の子どもあるいは養子を区別することにより,離婚,再婚の増加そして婚姻外による庶子の増加状況を明らかにするこができるようになり,(2)「結婚していないパートナー」の欄を加えることでカップルのお互いの相手が同性か異性かを知ることができるようになり,(3)里子という項目を設けて,従来,正確に把握できていなかったこうした事情の子どもの状態を掴めるようになった,という。

しかし,センサス局はSIPPが家族関係のデータを提供するろいう理由で,1990年以降,センサスの調査項目から結婚歴に関わる項目を削除した。筆者はこれが大きなデータの損失であると述べている。
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中野恭子「インストローと女性に関する統計」伊藤陽一編著『女性と統計-ジェンダー統計論序説-』梓出版社,1994年

2016-10-24 21:46:26 | 6-1 ジェンダー統計
中野恭子「インストローと女性に関する統計」伊藤陽一編著『女性と統計-ジェンダー統計論序説-』梓出版社,1994年

INSTRAW(インストロー:国際連合国際女性調査訓練所[United Nation International Research and Training Institute for the Advancement of Women])は,「国際女性の10年」の発端となった1975年世界女性会議(メキシコ)の要請で設立された国連機関である。その中心的活動は,開発途上国の女性の役割を積極的に取り入れ,途上国の女性の経済活動を評価し,自立のためのプログラムの研究および訓練活動を推進することである。関連して統計研究にとくに重きをおいている。INSTRAWの設立経緯,活動内容などに関する論稿は意外と少ない。それゆえに,INSTRAWの存在は,日本では今でもあまり知られていない。本稿はそのINSTRAWについて,組織の概略と女性統計に関する活動を紹介したものである。

 主題の性質上,以下の要約は本稿によって得たINSTRAWの紹介である。ただし,その内容は,当然ながら,この論稿執筆当時在のものである。

INSTRAWの本拠地はドミニカ共和国(サント・ドミンゴ)にある。その設置は1981年3月31日の国連とドミニカ共和国との間の調印を経て,8月18日のドミニカ共和国の国会で承認された。活動そのものは,1981年1月からニューヨークの国連本部でスタートしていた。

 INSTRAWの規約は第38回国連総会での決議の要請に基づいて事務局長が草案を作成し,INSTRAW評議会がこれを検討,修正のうえ経済社会理事会に報告,これを受けて経済社会理事会が総会に文書を提出し,第39回総会で承認された。INSTRAWは女性の地位向上をめざす国連の組織のひとつであるが,他の関連組織である(1)女性の地位委員会,(2)女性差別撤廃委員会,(3)国連女性開発基金,(4)女性の地位向上部,と共同して女性差別撤廃条約の基準の実現を目指している。INSTRAWは,とくに研究開発部門を担う。
筆者はINSTRAWの組織的概要を(1)設立の経緯と目的(①INSTRAWの設立まで(メキシコ会議の決議,国連の動き,活動開始),②設立の目的,(2)組織の概要(①評議会,②所長とスタッフ,③その他,④財政)で詳しく説明しているが,要約者であるわたしの関心は「INSTRAW の活動」である。

 その活動は,主として調査と訓練である。調査は女性の状況と活動をより正確かつ包括的に記述し,定義すること,訓練はそのために有効な方法を開発することである。1987年の国連第42回総会ではINSTRAWに対し,開発の経済社会問題に注目した研究,訓練,情報収集活動の継続・強化とともに,ナイロビ戦略にそった実践的方法論の開拓,諸機関とくに地域委員会との連携が要求された。また第44回総会では,インフォーマルセクターの女性への言及,開発途上国内での訓練機能の強化を含む決議がなされた。この勧告の後に,1990-91年の活動計画では,研究および訓練のプログラムに関連して6つのサブプログラムが設定された。それらは,①女性と開発への包括的アプローチ,②女性の統計,指標,データ,③政策決定,④分野別活動,⑤女性と開発における訓練ならびに訓練資料の作成,⑥ネットワーク形成,である。

 INSTRAWでは統計活動が重視されている。筆者は1980-90年の10年間のINSTRAWニュースによりながら,その統計活動をまとめている。
 [1980-85年]女性に関するデータと指標の利用可能性を向上させ,利用を促進するための概念と手法が開発された。具体的には,経済活動,とくにインフォーマルセクターでのそれの再定義,既存の概念的枠組み,分類,定義の見直し,女性の状況についての統計ならびに指標をより良く編集し,分析すること,国別・地域別・国際レベルでの女性の状況について,統計の作成者および利用者のための技術的ガイドとなる報告書(「女性の状況に関する社会的指標の編集」「女性の状況に関する統計と指標の概念と方法の改善」)の作成,『経済活動における女性:世界的統計調査(1950-2000)』の出版(ILOとの共同)である。
 [1985-90年]この時期にはインフォーマルセクターに関する研究と活動,SNA関連の研究(生産境界の拡大,国際標準職業分類[ISOC],国際標準産業分類[ISIC]の変更に関する指摘),家事労働に関連する研究,データベースの整備が精力的に進められた。その他,INSTRAWニュースの定期的発行,『世界経済における女性』『世界の女性1970-1990,その実態と統計』の発刊が特筆される。

 筆者は最後に,INSTRAWの活動の成果と問題点を2点ずつ指摘している。成果としては,(1)INSTRAWが国連のシステムのなかで他の組織と連携し,独自の活動を進めてきたこと,とくに女性の経済活動を統計や指標で示す努力を行い,SNAやISOCの改訂を含む統計の改善に寄与したこと,(2) INSTRAWが研究と実践の両面で女性をエンパワーしてきたこと,が挙げられている。問題点としては,(1)女性の地位向上をめざすNGOなどの民間組織との連携が明確でないこと,(2) INSTRAWの統計研究が各国,地域に固有の文化および歴史に理解が届いていないきらいがあること,が指摘されている。今後の課題である。
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