当該テーマに対する筆者の見解を,コンパクトにまとめた論稿。情報化社会の現状をふまえ,統計利用論の過去,現在,未来が論じられている。構成は次のとおり。「はじめに」「1.統計利用問題についてのサーベイ」「2.統計利用における諸問題」。
統計利用の問題は,蜷川虎三の統計学の要諦である。蜷川統計学は,利用者のための統計学として体系化された。蜷川にあっては,統計による研究目的,「大量」を意識した「統計の本質」と統計方法との関係の吟味は統計利用の基本的問題として位置づけられた。その後,上杉正一郎によって統計の対象反映性,対象歪曲性という二面がとりあげられ,また内海庫一郎によって認識論的統計方法批判が展開され,大屋祐雪によって,統計利用の社会性・歴史性が検討されるようになった。
筆者は過去の統計利用論を整理するにあたり,『社会科学としての統計学(第1集)』(1976年),『社会科学としての統計学(第2集)』(1986年)に掲載された関連論文にあたり,問題点を摘出している。『社会科学としての統計学(第1集)』では,濱砂敬郎による統計利用研究の2つの立場の区分([A]統計の利用方法に関心をよせ,社会現象の研究におけるその意義を捉える立場,[B]統計利用そのものを考慮して,その特徴を明らかにする立場)を手掛かりに,前者の立場に属する統計利用論として内海庫一郎,大橋隆憲のそれが,また後者に属する利用論として大屋祐雪のそれがあげられている。
『社会科学としての統計学(第2集)』では近昭夫,伊藤陽一,濱砂敬郎の見解を要約して掲げている。近は大屋による「反映・模写論」と野澤正徳を筆頭とする「新しい政策科学」の展開を批判し,前者については「統計批判」の欠落を,後者に対しては民主的改革と民主的経済政策を最優先におきことへの疑問,経済研究における数学的方法の利用に関する従来研究の反故を指摘した。
伊藤は統計利用論の課題として,(1)個別分野での統計分析,(2)統計指標研究の深化,(3)数理的諸操作の研究と開発,(4)数量的計画・政策を掲げた。濱砂は(1)統計利用鵜論では政府的統計利用の諸形態を,その論理的構造と歴史的具体相について全面的に明らかにすること,(2)プライバシーの新しい権利規定=「個人情報に関する自己決定権」が統計調査の秘密保護の基礎に据えられることで,統計調査と統計利用が影響 を受けていること,(3)統計利用の社会科学的考察の立ち遅れの対象的要因として,統計利用が政府部門の行政行為の一環として存在すること,などを指摘した。
筆者はまた,木下滋・土居英二・森博美編『統計ガイドブック』(1992年)を取り上げている。そこでは「統計数字の二重性」と「統計体系と統計利用」の視点が明確に打ち出され,その意味で「統計の本質」と「統計利用目的と方法との関係」,そして「統計指標体系化」という研究課題が受け継がれている,と指摘している。また,現在の社会を「情報ネットワーク社会」ととらえたうえで,筆者は統計と非統計(記録,データ)の区別と両者の情報範疇への包摂という問題が新たに提起されているとみる。野澤は「情報ネットワーク」を視野に入れてこそ初めて統計学は現代の統計活動の特徴をとらえることができ,現代の社会・経済にそくした方法を発展させることができるとし,「統計学」から「統計情報学」への発展を展望している。𠮷田忠は社会情報が事実資料という形態をとったとき,そこに社会関係の調査・記録と,社会集団現象の記録・調査の区別を行うことが重要であるとしたうえで,「社会環境からの制約のもとでの統計資料の作成・利用過程の社会科学的因果分析を行うこと」を社会統計学の課題としている。
筆者は以上のサーベイを終えて,次に統計利用の諸問題を3点,論じている。第一は「主体間の関係(コミュニケーション関係)の変化と真理性の問題,第二は「統計情報化」・利用目的の多様化と利用過程の分析(重層性と体系性),第三はプライバシーと情報公開・地方分権,である。
第一の問題は,統計環境の変化のなかで,従来型の「調査客体-調査主体-利用主体」という枠組みが「調査主体」を抜いて「報告・発信主体(調査客体)-利用主体」という主体間の関係に変化していることを踏まえ,新たな観点からの調査論,利用論が登場してくるという論点である。第二の問題は,統計利用の問題が「統計」と「情報」の融合と利用ニーズの拡大,利用目的の多様化とともに,「統計・非統計(データ)利用における問題」となって現れてくるということである。今後は様々な社会的課題に応えるために「統計・非統計(データ)利用」という地平での統計的方法と情報処理手法の実践を行いながら,この利用の過程を歴史的社会的過程との関連性や被規定性においても階層的重層的に捉える作業がもとめられている。第三の問題は,ネットワーク技術の発展と情報利用ニーズの高まりのなかで,一方で情報は個人,企業,政府などのもつ情報が公開・開示の対象となるものに,他方でプライバシーや営業秘密をたてに保護の対象ともなることから派生する一連の事態である。企業,政府,自治体における統計・情報の管理はそれらの組織における意思決定の在り方と関係しており,その管理実態の把握とともに情報公開における分権化の推進も統計利用の大きな課題となっている。
統計利用の問題は,蜷川虎三の統計学の要諦である。蜷川統計学は,利用者のための統計学として体系化された。蜷川にあっては,統計による研究目的,「大量」を意識した「統計の本質」と統計方法との関係の吟味は統計利用の基本的問題として位置づけられた。その後,上杉正一郎によって統計の対象反映性,対象歪曲性という二面がとりあげられ,また内海庫一郎によって認識論的統計方法批判が展開され,大屋祐雪によって,統計利用の社会性・歴史性が検討されるようになった。
筆者は過去の統計利用論を整理するにあたり,『社会科学としての統計学(第1集)』(1976年),『社会科学としての統計学(第2集)』(1986年)に掲載された関連論文にあたり,問題点を摘出している。『社会科学としての統計学(第1集)』では,濱砂敬郎による統計利用研究の2つの立場の区分([A]統計の利用方法に関心をよせ,社会現象の研究におけるその意義を捉える立場,[B]統計利用そのものを考慮して,その特徴を明らかにする立場)を手掛かりに,前者の立場に属する統計利用論として内海庫一郎,大橋隆憲のそれが,また後者に属する利用論として大屋祐雪のそれがあげられている。
『社会科学としての統計学(第2集)』では近昭夫,伊藤陽一,濱砂敬郎の見解を要約して掲げている。近は大屋による「反映・模写論」と野澤正徳を筆頭とする「新しい政策科学」の展開を批判し,前者については「統計批判」の欠落を,後者に対しては民主的改革と民主的経済政策を最優先におきことへの疑問,経済研究における数学的方法の利用に関する従来研究の反故を指摘した。
伊藤は統計利用論の課題として,(1)個別分野での統計分析,(2)統計指標研究の深化,(3)数理的諸操作の研究と開発,(4)数量的計画・政策を掲げた。濱砂は(1)統計利用鵜論では政府的統計利用の諸形態を,その論理的構造と歴史的具体相について全面的に明らかにすること,(2)プライバシーの新しい権利規定=「個人情報に関する自己決定権」が統計調査の秘密保護の基礎に据えられることで,統計調査と統計利用が影響 を受けていること,(3)統計利用の社会科学的考察の立ち遅れの対象的要因として,統計利用が政府部門の行政行為の一環として存在すること,などを指摘した。
筆者はまた,木下滋・土居英二・森博美編『統計ガイドブック』(1992年)を取り上げている。そこでは「統計数字の二重性」と「統計体系と統計利用」の視点が明確に打ち出され,その意味で「統計の本質」と「統計利用目的と方法との関係」,そして「統計指標体系化」という研究課題が受け継がれている,と指摘している。また,現在の社会を「情報ネットワーク社会」ととらえたうえで,筆者は統計と非統計(記録,データ)の区別と両者の情報範疇への包摂という問題が新たに提起されているとみる。野澤は「情報ネットワーク」を視野に入れてこそ初めて統計学は現代の統計活動の特徴をとらえることができ,現代の社会・経済にそくした方法を発展させることができるとし,「統計学」から「統計情報学」への発展を展望している。𠮷田忠は社会情報が事実資料という形態をとったとき,そこに社会関係の調査・記録と,社会集団現象の記録・調査の区別を行うことが重要であるとしたうえで,「社会環境からの制約のもとでの統計資料の作成・利用過程の社会科学的因果分析を行うこと」を社会統計学の課題としている。
筆者は以上のサーベイを終えて,次に統計利用の諸問題を3点,論じている。第一は「主体間の関係(コミュニケーション関係)の変化と真理性の問題,第二は「統計情報化」・利用目的の多様化と利用過程の分析(重層性と体系性),第三はプライバシーと情報公開・地方分権,である。
第一の問題は,統計環境の変化のなかで,従来型の「調査客体-調査主体-利用主体」という枠組みが「調査主体」を抜いて「報告・発信主体(調査客体)-利用主体」という主体間の関係に変化していることを踏まえ,新たな観点からの調査論,利用論が登場してくるという論点である。第二の問題は,統計利用の問題が「統計」と「情報」の融合と利用ニーズの拡大,利用目的の多様化とともに,「統計・非統計(データ)利用における問題」となって現れてくるということである。今後は様々な社会的課題に応えるために「統計・非統計(データ)利用」という地平での統計的方法と情報処理手法の実践を行いながら,この利用の過程を歴史的社会的過程との関連性や被規定性においても階層的重層的に捉える作業がもとめられている。第三の問題は,ネットワーク技術の発展と情報利用ニーズの高まりのなかで,一方で情報は個人,企業,政府などのもつ情報が公開・開示の対象となるものに,他方でプライバシーや営業秘密をたてに保護の対象ともなることから派生する一連の事態である。企業,政府,自治体における統計・情報の管理はそれらの組織における意思決定の在り方と関係しており,その管理実態の把握とともに情報公開における分権化の推進も統計利用の大きな課題となっている。