社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

泉弘志「全労働生産性による中国の部門別生産性上昇率の計測」『産業連関』(環太平洋産業連関分析学会)第13巻第3号, 2005年

2016-10-10 11:36:38 | 8.産業連関分析とその応用
泉弘志「全労働生産性による中国の部門別生産性上昇率の計測」『産業連関』(環太平洋産業連関分析学会)第13巻第3号, 2005年[任文との共同執筆](『投下労働量計算と基本統計指標-新しい経済統計学の探求(第10章)』大月書店, 2014年)

 1978年の「改革開放」政策後, 中国経済は, 成長が著しい。その中国経済の生産性上昇はどの程度のものか。中国経済の近年の生産性を, 筆者独自の全労働生産性(TLP)で測定し, 若干の分析を行ったのが本稿である。藤川清史・渡邉隆俊が別途行った全要素生産性(TFP)との比較も行い(藤川清史・渡邉隆俊「中国経済の産業別生産性上昇と外国資本」『甲南経済学論集』第43巻第2号, 2002年), 中国のような移行期発展途上国の生産性分析には, TLPのほうがTFPよりも適している, と結論付けている(完全競争市場を想定できないため)。

 TLP上昇率の計測では, 産業連関表を活用した通常の部門別全労働量計算モデルに, 固定資本減耗係数行列を加味する工夫をこらして, 計算を行っている。固定資本減耗係数行列は, 固定資本が複数年使用されることを考慮し, 固定資本ストック額を耐用年数で除した値を通常の投入係数行列との類推で作成される。この場合, 固定資本が生産される年と, 使用(消費)される年とで, 固定資本を生産する部門の生産性が異なることがありうるが, 筆者は「使用される年にその固定資本を再生産するとしたらどのような生産性であるかという値を使う」としている。また, 輸入原材料, 輸入固定資本に投下された労働を計測しなければならないが, 既存の連関表からそれらを直接に推計することは無理なので, 当該産品の輸出品1ドルを生産するのに必要な労働で代替している。輸入には外貨が必要であり, 1ドルの外貨を得るためには1ドルと評価される量の輸出品を生産しなければならないという便宜的仮定のもとでの措置である。

 関連する2つの指標が用意されている。産品TLP上昇率と当該産業TLP上昇率である。前者は, 計測すべき対象が各産品の生産に関係するすべての国内活動の効率の上昇率である。後者は計測すべき対象がその商品を生産している産業の効率の上昇率である。

 筆者はこれらの産品TLP上昇率と当該産業TLP上昇率の2つの指標を藤川・渡邉方式によるTFP推計(産業別就業者のデータの扱いが異なるので, 推計価値に若干差がある)と比較している。結果は, TFP, 産品TLP, 当該産業TLPのいずれの上昇率も, 1987‐92年に比べ, 1992‐97年のほうが大きくなっている。1987‐92年全産業非違金上昇率は0.23%とわずかであったが, 当該産業TLP上昇率は2.026%, 産品TLP上昇率は4.60%と高かった。産業別の生産性上昇率でも, 符号(+か-か)の違いがかなりあった。すなわち, 産業別生産性上昇率の符号で, 1987‐92年に関し, TFP上昇率は19産業のうち9産業でマイナスであったが, 当該産業TLP上昇率は8産業, 産品TLP上昇率は2産業がマイナス, 1992-97年に関して, TFP上昇率は7産業でマイナスであったが, 当該産業TLP上昇率は5産業, 産品TLP上昇率は存在しなかった。また, ほとんどの産業で「TFP上昇率<当該産業TLP上昇率<産品TLP上昇率」の関係が認められた。これは当該産業の固定資本生産性, 中間投入生産性, 労働生産性の変化を総合した指標であるのに対し, 産品TLP上昇率がそれらだけでなく, 当該産業に原材料や固定資本を供給している固定資本生産性, 中間投入生産性, 労働生産性の変化を含んでいるからである。

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