蝸牛の歩み

「お話」を作ってみたくなりました。理由はそれだけです。やってみたら結構面白く、「やりたいこと」の一つになっています。

天からの手紙

2016-01-26 14:35:25 | 日記
 雪は、「しんしん」と降るものだと思っていた。
 しかし、気象の異常現象は、雪の降り方を変えてしまった。
 雪は「ぽそっ ぽそっ」と降るものとなった。一つ一つの雪の大きさはテニスボールほどになった。ところがよくできたモノで、密度は恐ろしく粗くなり、ひらひらと舞い降りてきて、掌の上で、さらっと崩れるようになった。新雪の上に降ると、ぽそっ ぽそっという音がするようになった。
 そして、北の国では、「ぱりん ぱりん」と降るようになった。雪の結晶の美しさについては理科の教科書で知り、その後『北越雪譜』を見たりして江戸時代から知られ、皿や着物のデザインにまで取り入れられていることを知った。
 その雪の結晶が、30cm位の大きさで降って来るようになった。幸い、人の頭にあたってもすぐに割れるくらいのもろさだし、木の枝にあたると、ぱりん ぱりんと言う音がする。
 「しんしん」と降る雪を体験しようと思ったら、沖縄まで行かなければならなくなった。
 「雪は天からの手紙」と言ったのは中谷宇吉郎。差出人は、今何を考えているんだろう。

おとぎ話

2016-01-25 23:57:20 | 日記
絵本に、カエルさんにキスしたら立派な王子様に代わり、二人はそれから幸せに暮らしました、と書いてありました。ずーっとその事を信じてきました。さすがに小学校高学年になると、自分がしていることは他のみんなが、特に女の子なんか絶対にしないことなんだということが徐々にわかってきたので、みんなにばれないように注意を払ってきました。トノサマガエルが主で、小さな青ガエルも試してみました。
 ふと考えて、ガマガエルで試してみようと思いました。あんなみっともない顔をしていて、みんなから嫌われているカエルだからこそ王子様の可能性があるのではないかと思ったのです。最初に試してみたときに、その異臭と容貌の醜さに負けて、吐いてしまいました。しかし、私が吐いた時、そのガマガエルの眼に、何とも言えない光が宿ったのを見たのです。幻想かもしれません。しかし、その事が私をより一層ガマガエルの方向へと駆り立てて行ったのです。高校に入学して、隣の県のカエルの生息地を調べ、週末を利用して池を訪ねました。
 小学校の低学年の頃から私は妙に几帳面であったらしく、キスしたカエルの種類、場所を学習帳に記していました。親兄弟に絶対に見せずに秘匿してきました。
 ふと、数えてみると、最初のキスから勘定したら、あと二匹で丁度千匹になるということが分かりました。
 同時に、千匹でキリにしようと言う気持ちもあったのです。私の中で幼いころに持っていた夢が揺らぎ始めたのです。もういいかな…という気持ちでした。
 土曜日の早朝から、隣県のガマガエルの生息地を目指しました。少しひんやりするので、やや厚手のパーカーを着こんで汽車に乗りました。
 池に到着して数匹のガマガエルを物色し、まずキス。何の変化もありません。さて、千匹目。心を込めてキスしましたが何の変化もありませんでした。私はその場にへたり込んで、なんて無駄な月日をすごしてきたんだろうと思いました。
 カエルの王子様と会いたいという気持ちは、何のとりえもない、学校の成績も良くない、容貌にも自信がない、運動神経も悪い私の現実からの逃避だったかもしれません。もうどうでもよくなりました。私なんか生きている資格なんてないと思い、池の中に一歩を踏み出しました。途端に、ガシッと抱きとめられました。振り返ると、小学生の時に席が隣だったA君がいました。
 「死んだらアカン」と彼は短く言いました。
 私を池から引き揚げ、公衆便所の前に設置してあった水道でタオルを濡らし、私の池に踏み入れた方の足をきれいに拭いてくれました。かれは、バッグの中からまるで魔法のように、タオルやバスタオルをだし、ついでに、魔法瓶にいれた紅茶も差し出してくれました。紅茶は甘く暖かく、心と体にしみました。
 「なんでここにいたの」と訊ねました。
 「俺、ずっとお前のこと見てたんや」と彼は言いました。「変な子やなぁおもてた。そやけど、お前、真剣やったやんか。だからずっとつけとったんや。ストーカーやなぁ俺」
 誰にも知られていないと思い込んでいたのに、こんな人がいた。顔から火が出るほど恥ずかしかった。
 「見てたって、いつから」と訊ねると、彼は、「小学校のころから」と答えました。誰にも見られないように工夫していたのに、見られてた。さらに恥ずかしくなりました。
 下を向いて「な、なんでそんなことしたの、誰にも見られてないって思ってたのに」と言いました。
 「気になるし、好きやから」と言う何ともストレートな答えが返ってきました。
 「わ、私、成績も悪いし、美人でもないし、スポーツもできひんし、目立つところ何にもないし、カエルにキスしたら王子様になるなんて思てる変な子やし」
 「そんなもん、好きになったんやからしゃあないやん」
 そして彼は言いました。「キスしてくれへんか」。戸惑っていると、「カエルとは何度もキスしとったやないか」と言うのです。
 なんだかわからなくなって来たので、彼に抱きついてキスをしました。すると途端に彼はいなくなってしまったのです。慌てていると、地面の方から鳴き声がしました。そこには、可愛い真っ黒のネコがいました。じっと私の方を見ています。ますます混乱してきた私は、黒猫を抱き上げて、キスをしました。すると、彼が現われました。
 「ま、そういうこっちゃ。もとは、ネコやったのに、写しているうちにカエルになってしまったんや」
 「どういうこっちゃ」と私は思ったけれど、「二人はそれからずっと幸せに暮らしました」と言う部分だけは、写し間違いではないことを祈りました。
 

約束を守る男

2016-01-24 11:28:54 | 日記
 「俺は約束を守る人間なんだよ」と言う言葉が、私と彼とを長い間隔てる言葉となった。その日、彼とは、朝の九時に駅の近くの喫茶店で会う約束をしていた。ところが、急速に発達した低気圧が列島に接近、猛烈な雨と風が前日から予想され、気象予報士は「不要不急の外出はお控えください」と言っていた。私が彼と会うのは、彼が最近読んでいる漫画の本に私が興味を示したため、じゃ、持ってきてやるというまさに「不要不急の外出」の典型的な例であった。
 確かに猛烈な雨と風だった。レインコートを着て、久しぶりに長靴を履き、一番大きい傘をさして家を出たのだが、歩いて普通は3分ほどで行くことができる喫茶店にたどり着くまでに10分もかかってしまった。おまけに喫茶店は臨時休業であった。雨と風とを避ける場所まで移動して、電話をした。出ない。何の応答もない。九時になった。彼は、約束を守るだけではなく、時間にも正確な人間だ。高校時代からの付き合いでそれは分っている。一秒と遅れたことがない。「まるで国鉄だな」と彼に言ったものである。
 10分ほど待ったのだが、辛抱しきれなくなって、家に帰り、ずぶぬれになった服を脱いで着替えた。ひょっとしたら、うちに来るかもしれないと思っていたのだが、来なかった。彼の家に電話をしたら、確かに出たという。帰ってきたら電話をくれるようにと伝言を頼んだが、一時間ほどして奥さんから電話があり、まだ帰ってこない、何かあったんじゃないかと心配そうな声が受話器の向こうから聞こえてきた。その日から彼は全くかき消すようにいなくなってしまった。
 二日後に、警察に行き、事情を話して捜索願を出した。ポスターも貼り、駅前でビラも撒いた。しかし、何の効果もなかった。
 一年ほど、無駄だと思いながら、ビラを撒き、道行く人に呼び掛けた。
 暑い夏の盛り、奥さんと二人でビラを撒いている時、離れたところで、人が叫ぶ声がした。見ると、奥さんが倒れていた。慌てて駆け寄り、救急車を呼んだ。そのまま緊急入院し、退院できたのは一週間後だった。毎日見舞いに行った。奥さんは寂しさと疲れを訴えた。私はただそれを黙って聞き、手を握ってあげた。
 退院の日、付き添って家まで行った。奥さんは紅茶かコーヒーかを訊ね、私はコーヒーを頼んだ。電動ミルで豆を挽き、濾紙で丁寧に入れてもらったコーヒーは、美味しかった。
 奥さんは、私に礼を述べ、これからも宜しくお願いしますと言った。私が、お邪魔しましたと帰ろうとすると、奥さんは私を送ろうとして急に立ち上がったからか、そのまま椅子に座りこんでしまった。
 大丈夫ですかと声をかけた。立てますかと言いながら手を差し出すと奥さんはゆっくり立ち上がり、そのまま私に身体を預けるようにして倒れかかった。私は奥さんを抱きしめるようなことになった。一分間ほどそうしていた。そして、私は奥さんの手を取りながら玄関まで行って、また来ますと言って外へ出た。私は石仏ではない。抱きしめるようになった時、奥さんの胸のふくらみを感じ、思わず接吻しそうになった。しかし、自制した。その直後、その時の自分を何百回もほめたくなるとは思わなかった。玄関のドアを開けたとき、そこに彼が立っていた。奥さんはぼかーんとした顔になり、次に顔をくしゃくしゃにしながら彼に抱きついた。
 三人で話すことになった。彼はあの日、漫画の本をリュックに入れ、ビニールのごみ袋を三重にしてカバーにし、私と同じようにレインコートを着、傘をさして家を出たという。100mほど歩いたところで、急に風が強くなり、飛ばされそうになった彼は電柱にしがみついたという。その直後、風が急に止み、彼を青みがかった光が包み、そのまま身体が宙に浮き、意識が無くなったという。そして、気がついたら、その電柱の横に立っていたそうだ。傘とレインコートはなかったという。あとは、とにかく約束を果たさねばと思って喫茶店に行ったのだが、私がいない。で、家に帰ってきたら私がいたということらしい。
 宇宙人にさらわれたんじゃないかと私が言うと、彼はまじめな顔になってそうかもしれないと言った。
 彼は、リュックから漫画の本を取り出して見せてくれた。
 彼が、「あっ!」と言った。
 私が覗き込むと、彼は、「ページが折ってある」と言った。
 彼は几帳面な性格で、ページを折ったりはしない。ところが、数ページにわたって折り目がついており、書き込みまでしてある。日本語ではない。英語でもない字で。
 「こんなん俺はしないよ」と彼は言った。
 「じゃ、宇宙人が君をさらったのはこれが読みたかったからか」と私は言った。
 それは、手塚治虫さんの初期の作品の初版本だった。
 彼と私と奥さんとは声を揃えて笑った。
 

殺戮は正確に

2016-01-23 10:43:41 | 日記
 スコープを覗く。出てきた。いつもながらキレのいい動きをしている。直角に曲がるかと思えば、蛇行したり、まるで滑るように移動していく。
 おそらく私のようなプロしか手が付けられないだろう。
 ゆっくりと引き金を絞る。身体のど真ん中をぶち抜いてやった。手と足とはぴくぴく動いている。往生際の悪い奴だ。なんとか隠れる場所へ逃げ込もうとしている。やはり、一発で頭を吹き飛ばさないとダメなようだ。壁に潜り込む一歩手前で動かなくなった。
 壁の反対側から子どもが出てきた。この商売をしていて一番嫌なパターンだ。しかし、情けをかけるわけにはいかない。せめて苦しまないように殺してやるのが精いっぱいというものだ。
 頭を吹き飛ばせた。
 母親が出てきた。子どもの死体を抱きながら、周りを見回している。スコープを通してだが目が合った。こちらが見えるはずはないのだが、恨みのこもったまなざしが私を射ぬいている。母親の頭を吹き飛ばしたはずだったのに、どこかで手元が狂ったのだろう。左足を射ぬいた。子どもの死体を抱えながら、壁の向こうへと消えて行った。
 気がつくと、壁の向こうから、黒光りする身体を誇示するように10匹ほどが飛んできた。銃を置いてこんな時のために用意しておいたスプレーをバッグから取り出す。
 身体が凍りついたようになって奴らは落下していった。
 一匹みつけたら十匹いると思えと教えられてきた。戦いはまだまだ続きそうだ。我々が絶滅すれば奴らが勝者となる。そんな地球の姿は想像したくもない。
 

日本の総理

2016-01-22 21:14:00 | 日記
世論に負けず 
民意を無視し 
財界と アメリカにすり寄り 
マスコミを操り
毎日の食事会をこなせる 丈夫な体を持ち 
国会では野次を飛ばして品位を下げ 
南に基地反対運動があれば 中国が攻めてくると言い 
西に停止中の原発があれば怖がらなくてもいいと言い 
東に戦争法案反対のデモあれば 平和のための法案だと強弁し 
北に貧しい人あれば アベノミクスの効果が出ると言いくるめ 
一日一回は祖父の写真に手を合わせ 戦前の日本を取り戻すと誓う
そういう人が日本の総理