蝸牛の歩み

「お話」を作ってみたくなりました。理由はそれだけです。やってみたら結構面白く、「やりたいこと」の一つになっています。

申年なので

2016-01-12 17:13:57 | 日記
 今年は申年だから、もう12年前になる。ある県の山系のドライブウェイを走っていた時、前方でがけ崩れが起きた。慌ててブレーキを踏みこんでなんとか難を逃れたのだが、しばらく動悸が止まらなかった。自分の幸運さを確かめるために、車から降りて道いっぱいに広がっている土砂と岩とを見ていたら、カラカラカラ~という音とともに、何かが落ちてきて私の前でピタッと止まった。卵だ。それも石の。専門でもないし、趣味でもないのだが、かなり堅そうな石だ。いい記念になると思って拾い上げてタオルに包んで助手席に置いた。それから引き返し、緑の電話から警察にがけ崩れのことを通報して家路についた。
 調べてみるとどうやら花崗岩らしい。水で洗って、タオルで拭くと、中々いい。大きさはニワトリの卵ぐらい。机の上に羅紗の端切れを敷いて置いてみたらすわりもいい。
 持って帰ってから丁度一週間たった時のこと、ベッドに入ってすぐ眠気に襲われたので、読み止しの本を横に置いて、部屋の電気を消した。途端に、机の方向から、コツコツという音が聞こえてきた。眠気が吹っ飛んで、もう一度電気をつけて、机の上を見てみると、卵から音がしている。椅子に座ってじっと見ていると、石の卵に穴が開いて、爪楊枝のような棒が出てきた。棒は、出たり入ったりを繰り返しつつ、卵に真横に割れ目を入れて行った。そして、卵の上部が持ち上がり、ポイッ・・と言った感じで投げ捨てられた。
 猿がいた。
 これって・・・孫悟空なのか?石から生まれた孫悟空なのか?
 「ご主人様、私は孫悟空と申すものです」という声が頭の中で響いた。
 やや混乱。
 「ご心配なく、私が最初にお目にかかった方が私のご主人様と言うことになりますから、なんなりと御用を申し付けてくださいませ」
 日本語が通じるようだ。
 「君が孫悟空だという証拠は?」
 石から出てきた猿はいつの間にかきれいな衣装を身につけており、小型ながら雲に乗り、手には棒を持っている。
 「これでいかがでしょう」
 「私が読んだ本では、君は大変な乱暴者で、頭になんか、輪っかみたいなものを巻いていて、呪文を唱えられるとその輪っかが締まるとかって聞いているけど」
 「ああ緊箍ですね。あれを頭に巻かれていたのは初代で、私はその子孫です。最初に申し上げましたように、卵から出て初めて会った御方にお仕えするようにと観音様に申し付かっておりますので、二代目からは緊箍はなしでございます」
 これが私と孫悟空との出逢いでした。
 今年は申年、歳の初めですから時間はたっぷりございます。どんなことが起きたかのご紹介はまたの機会とさせていただきます。