「何に困ってんだよ、出て行ってくれたんだろ、いいじゃないか、厄介払いができてさ」
「うーん、わかんねぇかな、そうじゃねえんだよ。困ってんだよ」
「困ってる困ってるって、私にはさっぱりわからないよ」
「大家さんは去年が米寿、八十八だったよな」
「ああ、長屋の皆さん方からも盛大に祝ってもらって、私の酒をずいぶん飲まれちまったねぇ」
「そうじゃねえんだよ、八十八なら、俺の気持ちがわかんねぇのかなって思ってんだよ」
「私はね、確かに歳は重ねてますよ、でも、人さまの心の内てえものは、分らないねぇ。わからねぇうちに歳を重ねちまった」
「餅でも重ねりゃ立派なもんだよ、鏡餅になるんだから。歳を重ねりゃもっと立派になるんじゃねぇのかい」
「ならないねぇ」
「ええ、面倒くせぇな。仕方がねぇ、白状しちまおう。惚れちゃったんだよ」
「惚れちゃった?角の小間物屋のお糸ちゃんかい?」
「これまでの話しを振り返りゃ、俺が誰に惚れたかぐらいわかんねぇのかなぁ。第一お糸ちゃんは、好公とこの春祝言あげるっていうじゃないか」
「するってえと」
「それなんだよ」
「まさかと思って訊くんだけど、その猫かい」
「面目ねぇ、あいつが流し目をくらわした途端に、惚れちまったんだよ。こう、ビリビリッときちゃってさ」
「猫にねぇ」
「で、相談てぇのは、文金高島田がいいか、振袖がいいかってことなんだよ」
「なんだいそりゃ、文金高島田か振袖かって。何かの謎かけかい」
「文金高島田といえば」
「祝言だね」
「振袖と言えば」
「まぁ、若い娘さんだね」
「そうなんだよ、その猫を嫁にとろうか、娘にしようかって相談なんだよ」
「猫は雌なのかい」
「あっ、そうだ、あんまり慌てていたんで確かめなかった。ちょっと、まっぴらごめんなさいよ」
「早いねぇ、汗たらしてるよ。この仔かい。どれ、見せてごらん・・・雄だよこりゃ。立派なのが二つ付いてるよ」
「うーん、わかんねぇかな、そうじゃねえんだよ。困ってんだよ」
「困ってる困ってるって、私にはさっぱりわからないよ」
「大家さんは去年が米寿、八十八だったよな」
「ああ、長屋の皆さん方からも盛大に祝ってもらって、私の酒をずいぶん飲まれちまったねぇ」
「そうじゃねえんだよ、八十八なら、俺の気持ちがわかんねぇのかなって思ってんだよ」
「私はね、確かに歳は重ねてますよ、でも、人さまの心の内てえものは、分らないねぇ。わからねぇうちに歳を重ねちまった」
「餅でも重ねりゃ立派なもんだよ、鏡餅になるんだから。歳を重ねりゃもっと立派になるんじゃねぇのかい」
「ならないねぇ」
「ええ、面倒くせぇな。仕方がねぇ、白状しちまおう。惚れちゃったんだよ」
「惚れちゃった?角の小間物屋のお糸ちゃんかい?」
「これまでの話しを振り返りゃ、俺が誰に惚れたかぐらいわかんねぇのかなぁ。第一お糸ちゃんは、好公とこの春祝言あげるっていうじゃないか」
「するってえと」
「それなんだよ」
「まさかと思って訊くんだけど、その猫かい」
「面目ねぇ、あいつが流し目をくらわした途端に、惚れちまったんだよ。こう、ビリビリッときちゃってさ」
「猫にねぇ」
「で、相談てぇのは、文金高島田がいいか、振袖がいいかってことなんだよ」
「なんだいそりゃ、文金高島田か振袖かって。何かの謎かけかい」
「文金高島田といえば」
「祝言だね」
「振袖と言えば」
「まぁ、若い娘さんだね」
「そうなんだよ、その猫を嫁にとろうか、娘にしようかって相談なんだよ」
「猫は雌なのかい」
「あっ、そうだ、あんまり慌てていたんで確かめなかった。ちょっと、まっぴらごめんなさいよ」
「早いねぇ、汗たらしてるよ。この仔かい。どれ、見せてごらん・・・雄だよこりゃ。立派なのが二つ付いてるよ」