獏

　獏という生き物がいる。
　体は熊、鼻は象、目は犀、尾は牛、足はトラに似ているそうだ。
　悪夢を食べてくれると言われている。
　最近、日本中央部の山岳地帯の奥深くで、この獏の飼育が始められている。一旦は絶滅したと言われていた獏であるが、化石から取り出されたわずかな
DNAを熊に移植し、あとは象の鼻と犀の眼、牛の尾、トラの足をブラック・ジ
ャックを雇って移植したという。
　その目的は何か。トラウマの治療である。一時は、「妖怪ウォッチ」の「忘れ
ん帽」を使ってみたこともあるようだが、臨床試験の結果、必要なことまで忘
れてしまい、アルツハイマーに類似する症状がみられた事から、急遽、「獏プロ
ジェクト」が始動したというわけである。
　ただ、問題が起きている。悪夢を食べた獏が、その悪夢に苦しめられるケー
スが出てきたのである。プロジェクトチームは、現在、悪夢の処理場を探して
いるのだが、9・11以来、そんな地域は国内では絶無となっている。
　で、いま浮上している案としては、潜水艦でアメリカ沿岸まで近づき、あと
は高速ボートで上陸、そのまま放置するという案である。あの国の人たちは悪
夢に対して強い耐性があるという事は周知の事実である。
　すでに、数百個捨てて来たらしいが、アメリカのマスコミは何も報道してい
ないところを見ると、やはり、「耐性がある」のは本当らしい。推移を見守りた
い。