蝸牛の歩み

「お話」を作ってみたくなりました。理由はそれだけです。やってみたら結構面白く、「やりたいこと」の一つになっています。

浦島太郎に関する考察

2016-01-28 17:19:47 | 日記
 浦島太郎と言うお話がある。知人がこの話について大変に腹を立てていた。土産だと言って渡しておいて、「開けてはいけない」とは何事か。アメリカ人なんか、プレゼントはその場で開けてほしいと言うではないか。
 帰ってみれば、知った人はだれもおらず、寂しさのあまり太郎は、箱を開けてしまう。乙姫は、そうなることを見越していたのか?だとしたらむちゃくちゃ残酷な話ではないかと。
 ちょっと考察を加えてみたい。
 「永い間お世話になりましたが、そろそろ家が恋しくなりました。帰りたいと思いますので、また亀のお世話になりたいのですが」
 「そうですね。長い間お引止めして本当に申し訳ありませんでした。それと、これは、お詫びの印と言っては何なのですが、玉手箱でございます。ただ、大変に美しい箱でございますが、床の間にでも飾って頂いて鑑賞なさってくださいませ」
 「といいますと?」
 「開けてはいけないのです」
 「えっ、開けてはいけないって、何でですか?こんなきれいな箱ですから、中に何が入っているか確かめたくなるのは当然ではありませんか」
 「とにかく、竜宮城に古くから伝わる教えといたしまして、『この箱開けるべからず』となっているのです」
 「あ、そうですか、昔からの言い伝えであれば、それをないがしろには出来ないと思います。伝統を守ることは大切ですから。では、『開けていい箱』をいただけませんか」
 「えっ!」
 「なんでもいいんですよ、竜宮城へ行ってきたという印になればいいので、竜宮クッキーとか、乙姫最中とかないんですか?」
 「そ、そんなものはございません。そんなものをお渡ししたら、竜宮城はどこにでもある観光地になってしまいます」
 「なんでしたら、アジの開きとか、カレイの一夜干し、タコの塩辛でもいいんですが。ここならあるんじゃないですか」
 「アジの開きだなんて、夢を壊すようなことをおっしゃらないでください」
 「なるほど、それは私が悪かった、取り消します。ただ、お聞きしたいのですが、なんで開けてはいけないのですか?お土産と言うものの楽しみは、家に帰って開けてみるところにあるのではありませんか。それともなんですか、外観の見事さにくらべて、中に入っているものが石ころ同然のつまらないものである・・・というオチなんですか?」
 「そっ、それは・・・」
 「それともなんですか、中に何かの粉末が入っていて、開けた途端にその粉末を吸い込むと死んでしまうとか・・・」
 「そっ、そんなひどい事するわけないじゃないですか」
 「じゃ、この場で開けてもらおうじゃありませんか」
 「そっ、それは・・・」
 「さぁ、開けてもらおうじゃないか!!」
 「ものども!!太郎を捕えよ!!」
 「な、何をするんだ!!」
 「秘密を知られては仕方がない。この中には煙が仕込んである。人間と言うものは、開けるなと言われると開けてみたくなるという性質を持っている。私はそこいら辺は織り込み済みだ」
 「煙の中に毒が仕込んであるのか!」
 「だから、そんな残酷なことはしないと言っただろう。ただ、年をとる、それも一瞬で。竜宮城の一日は、人間世界の一年にあたる。つまりお前は竜宮城に70日居たから、人間の世界では70年経っていて、帰った時には誰も知ったものもなく、お前のことを知るものもいない。寂しくなったお前は玉手箱を開け、一瞬のうちに70、年をとることになるのだ。若者のお前はあっという間に白髪の老人となる」
 「そんなにべらべらしゃべっていいのか」
 「どのみち、お前はここからは帰れない。ものども、太郎を牢屋に入れてしまいなさい」
 「乙姫様、どうなさいます?」
 「なかなかむずかしいものじゃな。亀を助けるという優しい心と、『開けてはいけませんよ』と言う私の言葉を素直に受け入れる若者がでてこないものかのう・・・」

 で、そういう若者が出てきましたので、やっとのことを浦島太郎のお話は昔話として確定したのでございます。