蝸牛の歩み

「お話」を作ってみたくなりました。理由はそれだけです。やってみたら結構面白く、「やりたいこと」の一つになっています。

滅亡

2015-10-15 07:20:14 | 日記
 NASAが、90%以上の確率で地球に衝突するかもしれない小惑星を発見したと発表したのは三か月前の事だった。「ディープ・インパクト」が起きるという事になり、人類は、もちろん人類だけではないが、ほぼ絶滅するだろうという予測が立てられた。

 方策が検討された。一つは「アルマゲドン」のように小惑星に着陸して爆破するという計画。しかし、軌道計算をやってみたら、準備期間だけで半年かかるロケットが必要だという事が判明して没。

 ミサイルを飛ばして破壊する方法も検討されたが、現在のミサイル誘導の技術的レベルでは到底不可能と言う結論が出て没。

 結局、死ぬまでの三か月間どう過ごすか、という事だけが問題となった。

 宗教に救いを求める人、ひたすら快楽を追求する道に入る人、日ごろできなかった犯罪に走る人、人のホンネが出てくるというのはこう云う事かと思わせられるような世相となってしまった。

 ただ、あと一週間となった時から、奇妙に様子が変わってきた。みんな疲れてきたのだ。快楽に走るのにも、犯罪に走るのにも。

 電車のダイヤは元通りとなり、街は平静さを取り戻し、「その時」に備えた。

 私は、ふと、ネヴィル・シュートの『渚にて』を思い出した。北半球で起こった核戦争で北半球は壊滅、その後、南半球にも放射能が及び、人類は絶滅するというストーリーだったが、人々は意外なほど平静に「その時」を迎えた。

 あの本を読んだ時は、「そんなものかな」と思っていたが、今は納得ができている。

 さて、いよいよ、明日だ。明日、「その日」が来る。夕食は以下の献立。根野菜の煮つけ、塩サケ、牛ミンチとジャガイモのコロッケ。

 テレビを見て、寝た。

 朝は、ヨーグルトと最近始めたリンゴ、ニンジン、パプリカをすりおろしてリンゴジュースを加えたもの、パン、コーヒー。

 ニュースをつけた。

 臨時ニュースをやっていた。

 「小惑星が停止した」と言っている。何の事だかわからない。小惑星が停止って、そんなことがあるのか?停止した小惑星は、元の軌道にそって地球から遠ざかって行ったというNASAの発表に、喜んだというか、気が抜けたというか、なんともおかしな精神状態になったことを記憶している。

 数日たって、真実が判明した。

 実験だったんだそうだ。人類が知らないところで、宇宙の大半を包摂するような機関が成立しており、高等生物が生息していると認識された星に対して、「機関」に加盟させるかどうかの判定が行われる。

 まず、その星が消滅すること確実という状況を作りだし、その星の生物たちがどのように対応するかを観察する。パニックになって全滅してしまった星もあるそうだ。地球でもパニックは起きたのだけれど、最後になって平静を取り戻した、それは、加盟資格十分と認定され、あと一週間で、認定証を持った使節が訪問してくるという。

 地球は、宇宙の一員と認定された。

 ただ、「宇宙の一員として果たさなければならない義務」があるという。その「義務」は、使節が伝えるという。

 どんな義務なのか。楽しみなような不安なような。