蝸牛の歩み

「お話」を作ってみたくなりました。理由はそれだけです。やってみたら結構面白く、「やりたいこと」の一つになっています。

死神

2015-10-24 20:14:11 | 日記
 死神が見えるようになった。ああ、俺もそろそろお迎えが近いのかなと思いつつ、そいつを見ていたら、そいつも、自分が見られていることに気がついたらしく、ゆっくりと近寄ってきた。

 「見えてるんか?」

 「ああ」
 
 「いつからだ」

 「うーん・・少し前からかな」

 「なんで見えるようになったんだ」

 「わからん」

 わからないことはわからないと言った方がいい。そいつは、一見、普通のサラリーマン風の格好をしている。長い黒衣を着て刈り取り用の鎌を持っていると言ったスタイルではない。

 また、痩せこけて、あばら骨が飛び出て貧相な顔というわけでもない。
 上下黒のスーツだ。仕立てがよさそうだ。で、シャツは白なんだけれど、刺繍が入っている。生地は絹かもしれない。ネクタイは黒と言うのが、ありきたりすぎるのだが、かといって、ピンクの生地に猫の柄と言うのもなんだかおかしい。サングラスをかけてる。

 四角くて長いケースを持っている。

 「何が入っている?」

 「これか?」

 開けて見せてくれた。ライフルが入っている。

 「ゴルゴ13みたいじゃないか」と言うと、ちょっと気に障ったらしい。

 「俺の方が先なんだよ!ずーっと以前から」

 ふざけているとは思ったけれど、ライフルを取り出してケースを下に置き、銃口を俺に向けてきた。

 「怖くないのか?」

 「怖いよ」

 「じゃあ、土下座して命乞いをしろ」
 
 なんだか面倒くさくなったので、ふてくされて横を向いてやった。

 「撃つぞ!」

 「撃ったら」

 「ドキューン!」と口で死神が言った。付き合わねばならない。俺は、うっ!といって、虚空をかきむしり、ゆっくりと膝から崩れ落ちた。

 「おいおい、何をしてるんだ」

 「関西に住んでる人間はたいていこうやるんだよ」

 「困るんだよ。ホントにあたったと思った」

 なんでも、上から指令が来て、ターゲットが決まるんだそうな。で、あとは、任せられるんだそうだ。わざと外したターゲットもいるという。

 「へぇ、情があるんだ」

 「人間よりはましだよ。首つろうとしているやつの足を引っ張るように真似はしないよ」

 言われてしまった。