自然はそんなにヤワじゃない―誤解だらけの生態系 (新潮選書) (単行本)
花里 孝幸はなざと・たかゆき (著)
単行本: 175ページ
出版社: 新潮社 (2009/05)
発売日: 2009/05
amazon 内容(「BOOK」データベースより)
ブラックバスは排除し、サケの放流は推奨する。トキの心配はするが、そのエサとなっている稀少なカエルには冷たい。ご都合主義の生態系観には枚挙にいとまがない。人は、かわいい動物、有益な植物はありがたがり、醜い生き物、見えない微生物は冷遇しがちだ。人類が生き延びるには、生物の多様性を心配するより、公平な生態系観を確立することが大切なのだ。
ヒカンザクラの蜜を奪い合うメジロとヒヨドリは、自らが生き残るのに必死で、お互い相手のことなど、これっぽっちも気遣ってはいない。それでも自然の生き物たちは、人間よりはるか前からこの島で生息し、個体数は変動しながらもバランスをとりながら今日まで生きてきているのはナゼか。
自然はそんなにヤワじゃない。殺虫剤だって「生物多様性」を高める。人間の自然に対する活動だってそうだ。
うすうす、思ってはいても、素人がそんなことをいうとオコラレそう。
「生物多様性」とはなにか。
おもに湖沼の動物プランクトンの研究が専門も著者が、水槽を使った実験から実におもしろい結論を導き出す。生態系にかんする誤解や思い込みなどに疑問をなげかける。
「競争に強いものはストレス(環境変化)に弱い」という実験結果から、負けしらずのエリートの挫折や、朝青龍がマスコミなどの非難を浴び解離性障害になった事例などをあげ、わかりやすい。
人の活動による撹乱も「生物多様性」に貢献する場合もあると著者は言うが、しかし、人間による無条件の乱開発などが、許されると主張しているわけではもちろんない。
生態系保護・保全の問題はあまりにも複雑で奥が深い。生態系を見るときの、時間的、空間的な基準をどこに置くかによって結論は大きく違うものになるだろう、ということはよくわかった。
結局はバランスの問題ということになると、環境問題も、極まれるところを待つまでもなく、政治ありか?政治的にだまされないためにも、本書を読む意味はあるだろう。
最後の結論は、当初の、コロンブスのタマゴが倒れそうなほどの印象は崩れたが、一筋縄ではいかない生態系の問題を考える上で示唆に富んだ良書と言えるかもしれない。「大きさでことなる生存戦略」や「食物連鎖とエネルギー」などが、おもしろかった。