弁護士早瀬のネットで知財・法律あれこれ 

理系で特許事務所出身という経歴を持つ名古屋の弁護士があれこれ綴る雑記帳です。

「ターザン」商標の審決取消訴訟(昨日の続き)

2014-07-29 19:18:09 | 意匠・商標

今日も暑いですね。

昨日は、裁判所が「ターザン」という商標は無効と判断した、という結論まで書いて終わりました。

今日は、なぜ無効と判断したのか、その無効の理由を書こうと思います。

 

商標法には、商標登録を受けられない場合がいくつか規定されています(4条1項)。

わかりやすいものでいえば、国旗や国際機関(国連や赤十字など)のマーク、公序良俗違反となるものなどです。

その中で、本件の「ターザン」商標は、公序良俗を害するものだと判断されました(4条1項7号)。

 

公序良俗というのは、「公の秩序または善良な風俗」の略語です。
商標それ自体が、卑猥であったり、差別的であったり、不快な印象を与えるものという話であればイメージしやすいですね。

でも、「ターザン」が公序良俗を害するの?というのが通常の感覚ではないでしょうか。

 

この点、商標登録が認められない場合の「公序良俗を害する」には、卑猥や差別的といった上記の意味のほか、

・他の法律で使用が禁止されているもの
・国家資格等を誤信させるもの
・暴力団にかかるもの
・特定の国またはその国民を侮辱するもの
・国際信義に反するもの
・公正な競争秩序を害するもの
・剽窃的に出願されたもの

なども含まれると考えられています。

 

そこで、本件の「ターザン」商標は、次のような理由から、公序良俗を害すると判断されました。

◆国際信義に反する

 アメリカを中心に世界中で、「ターザン」という言葉には、具体的なイメージを持った架空の人物像を思い起こさせ、それ以外のイメージはない。
 そういう言葉について、機械ロボットというイメージとはあまり関係がない商品に関する商標でも、日本で商標登録を認めることは国際信義に反する。

◆公正な取引秩序維持の観点からみて相当でない

 原作小説やその関連の著作権が存続し、かつその管理団体が存在する状況で、管理団体とは無関係な第三者が商標を半永久的に独占利用できるようになるのは、公正な取引秩序維持の観点から相当ではない。

 

この国際信義に反するという理由が商標無効の理由の一つとされるのは、この件だけでなく、「Anne of Green Gables」(赤毛のアン←今、NHKの連続テレビ小説「花子とアン」で話題ですね!)という商標が無効と判断された例もあります(知財高裁平成18年9月20日判決)。

 

今回の「ターザン」商標に関する判決から窺えるのは、

・世界的にみて知名度があり、日本でもある程度のイメージが持てるという名前であって
・著作権が存在し、それを著作権管理団体がきちんと管理している

という状況では、商標登録にはリスクがあるということだと思います。

たとえ、イメージと離れた商品や役務(サービス)の名称に使っていて、その名称のイメージにただ乗りする意図がなくてもです。

 

単純に、誰も使ってない名称だったらなんでも商標登録できるんだー!、ってわけにはいかないんですよね。

 

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商標「ターザン」に関する審決取消訴訟事件(知財高裁平成24年6月27日判決)

2014-07-28 22:39:31 | 意匠・商標

今回も、知財勉強会で扱った判例を題材にします。
面白い案件だったので(^^)

商標の審決取消訴訟に関する案件です。

問題となった商標は「ターザン(標準文字)」(商標登録第5338568号)というもの。

その指定商品は、プラスチック加工機械器具、プラスチック成型器用自動取り出しロボット、チャック(機械部品)です。

 

初めに少しだけ基礎知識を。

・商標にはいろんな種類があります。
単純な文字だけの「文字商標」、図形・記号からなる図形・記号商標、立体商標、これらの組み合わせなどです。
ちなみに、今年の法改正で音(サロンパスの久光製薬のCMで流れる「ヒ・サ・ミ・ツ♪」など)、色彩、ホログラムなども商標の対象となりましたね(施行はもう少し先)。

・いったん登録された商標でも、それは本来登録されるべきではないものだとして、誰でも特許庁に対して審判を求めることができます(無効審判)。
その審判の結果、登録が維持されたとしても、その結果に不服があれば、裁判所に審決(審判の判断)を取り消すよう訴えることができます。

・商標は、その商標を使用する「商品」や「役務(サービス)」を指定して登録されます。
商標法によって保護される登録商標というのは、登録商標が付された商品や役務に対する信用を保護するものなので、商品や役務との関係は切っても切れないのです。
例えば、Dell社のパソコンにはユーザーからの信用が得られていますが、Dellというお菓子はパソコンのDell社とは全く関係ありません。

 

それを前提に、本件商標は「ターザン」という、カタカナからなる単純な文字の商標が問題となりました。

この商標について、無効審判が請求され、特許庁は請求不成立として登録を維持したのですが、それを不服として審判請求人が訴訟提起しました。

 

で、審判を請求し、訴訟まで提起したのは誰かと言いますと、小説「ターザン」の作者であるアメリカの小説家(エドガー・ライス・バローズ)が設立した法人で、著作権等を管理する会社です。

そう、あの「あ~あ~あ~」って叫びながら、つたを使ってジャングルを飛び回る、ジャングルの王者ターザンですね。

これって、もとはアメリカの小説だったんですねー。
そして、このターザンさん、実は、イギリス貴族の血をひくお方だったというのも、判決文を読んでみて初めて知りました。

 

一方、商標権を持っていた被告は、機械の製造・販売を行う日本の会社です。
自社製品であるロボットが変わった動きをするので、なんとなくのイメージで「ターザン」という名前を付け、商標登録もしたということみたいです。

そしたら、勝手に商標登録するな!、そんな商標無効だ!ってわけで、無効の審判を請求されてしまったわけなのです。

 

ただ、特許庁での判断では、無効にはなりませんでした。

でも、知的財産高等裁判所は、特許庁の判断は誤りであって、「ターザン」商標は無効なんだと判断したんですね。

 

と、結論まで指摘しておいて、知財高裁がこのように判断した理由はまた明日にしま~す。

 

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「チュッパチャプス事件」~ネットショッピングモールの商標権侵害~

2014-06-25 22:44:32 | 意匠・商標

毎日暑いですね。
でも、夜や朝はまだエアコンつけるほどでもなく、蒸し暑さもなくて過ごしやすい気がします。
本当に梅雨なんでしょうか…

 

今週金曜日にようやくロースクールでの授業が終わります。
3週間に1回とはいえ、毎回問題作成し、問題解説と判例解説のレジュメを作成し、答案添削することは結構大変です。

ようやく終わりだーと、思っていたら、突然、恩師であり実務家でもある先生から、「定期試験の問題作って採点してくれんか?」と電話連絡

 

さて、ぼやきはこんなくらいにして、本日は、毎月弁護士有志で集まってやっている「知財勉強会」の日でした。
本日の題材は結構面白い事件が多く、とても勉強になりました。

そのうちの一つ、「チュッパチャプス」事件(知財高裁平成24年2月14日判決)を取り上げたいと思います

この事件の概要はこうです。
楽天のショッピングモールに、棒付きキャンディで有名な『Chupa Chups(チュッパチャプス)』の商標を無断で使った帽子とかマグカップが出品されていました。
問題となった商品は、例えばこんな感じのもの。

 

                
               

 

そこで、「Chupa Chups」商標の商標権者であるイタリアの会社が、楽天に対して商標権侵害を理由に、商品販売等の差止めと損害賠償請求を求めたというものです。

 

ここで、んっ?なんで楽天に?商品販売者(モールの出店者)が相手じゃないの?と思った方、その通りなんですよね。

この事件では、上記の商品販売が商標権侵害にあたり、商品販売者に対して、原告が販売差止めや損害賠償請求できることに争いはありません。

でも原告は楽天を相手にしました。
原告としては、商標権侵害する出店者にいちいち警告書等を送るのは面倒だし、運営者の楽天に請求できれば請求先も一元化できて商標管理も楽になりますもんね。

でも、楽天からしてみれば、自分はショッピングモールの運営者にすぎないんだし、そんなの出店者に言ってよってことになる。

ですから、果たして楽天が商標権侵害の主体になるのか?っていうところが大きな争点となりました。

 

第1審の東京地裁は、現に商標権侵害の行為をしている者が侵害者なんだと厳格に考えて、原告の主張を認めませんでした。

ところが一転、控訴審の知財高裁では、商標権侵害を理由に、運営者に対して差止めと損害賠償請求できる余地を認めました。

判旨はこう言っています。

「ウェブページの運営者が,単に出店者によるウェブページの開設のための環境等を整備するにとどまらず,運営システムの提供・出店者からの出店申込みの許否・出店者へのサービスの一時停止や出店停止等の管理・支配を行い,出店者からの基本出店料やシステム利用料の受領等の利益を受けている者であって,その者が出店者による商標権侵害があることを知ったとき又は知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるに至ったときは,その後の合理的期間内に侵害内容のウェブページからの削除がなされない限り,上記期間経過後から商標権者はウェブページの運営者に対し,商標権侵害を理由に,出店者に対するのと同様の差止請求と損害賠償請求をすることができると解するのが相当である。」

これによると、楽天のような運営者が商標権侵害の責任を負うのは、次の①②を満たす場合です。

① 運営システムの提供・管理・支配を行い、出店料やシステム利用料の利益を受けていて、かつ
② 出店者による商標権侵害を知ったか、知ることができたといえる時点から合理的期間内にウェブページからの削除しない場合

①は、楽天を含むショッピングモールの運営者なら、通常はあてはまるでしょうね。
でも、本件の楽天は、6日~8日という合理的期間内にページを削除していたので、②をクリアしました。
その結果、原告の請求は棄却されました。

 

今日の勉強会では、

理屈が理解できないなーとか、

原告の商標権者は、結論で負けても、楽天などの運営者の責任を認める余地ができたから、そもそもの思惑は達成したよね

なんていう話で盛り上がりました。

 

 

話しは変わりますが、この事件の控訴審判断、飯村判事(今となっては元判事ですが)の裁判体が出したものです。

飯村判事、つい先日、退官されたばかりですが、アップルvsサムソンの大合議事件が最後の大仕事(花道?)になった感じですね。

今後、おそらく弁護士登録されるのでしょうが、どの事務所に行くのか、ちょっと(大いに?)興味あります。
大手事務所が争奪戦を繰り広げているんだろうなー。

 

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いい湯だな~からの商標

2014-04-13 13:44:09 | 意匠・商標

夫婦そろってお風呂好きなため、よくお風呂屋さんに行きます。

風呂好きと言っても、僕は長湯なタチではないので、せいぜい1時間~1時間半が限界。
なのに、うちの奥様は、一緒に行くと、「じゃあ、2時間半後に出口でね。」となるのが通常なので、どうやって時間を過ごすかってことになって、少々困る・・・

よく行くのは、「大曽根温泉 湯の城」か「名東温泉 花しょうぶ」のどちらか。
どっちも回数券を購入してるという力の入れようですw

昨日は、訳あって一人で「湯の城」へ行き、のんびりお湯につかり、湯上りにはマンゴーのかき氷を食べてきました。
このかき氷、氷がフワフワで結構美味しいんですよね~。
ただ、湯上りのオジさんひとりが、マンゴーかき氷をほおばっている姿は、なんというか絵的にビミョーですね。

ところで、ちょうど、前日の打ち合わせで商標の話題になったこともあり、お風呂に入りながら、「湯の城」とか「花しょうぶ」って商標登録されているのかなと、ふと気になりました。

特許電子図書館のページで調べてみると、なんと、商標登録されてない・・・

ちなみに、司法修習生の時に、司法研修所(埼玉県和光市)近くにあって行った「極楽湯」は、きちんと商標登録されてましたね(商標登録第5002468号)。

 

商標も、特許など他の知的財産権と同じく、先に出願した人に取得する権利があります。
このため、他の人が、入浴施設の提供というサービスについて、「湯の城」とか「花しょうぶ」という商標登録出願した場合、商標権を取得できる可能性があります。

その結果どうなるか?
現在の「湯の城」や「花しょうぶ」の運営会社さんが、「湯の城」や「花しょうぶ」の商標権者から、その名前を使うな、と言われてしまいかねません。

この場合、ありがちな誤解として、ずっと前からその名前を使っていたから大丈夫、というものがあります。

確かに、法律上、その主張が認められる余地はあるのですが(先使用権)、それには、周知であった(よく知られていた)ことが必要になります。
これを証明するのは結構大変で、おそらく名古屋市内で知られているという程度では足りないと考えられます。

弁護士としては、いろいろな個別の事情を聴き取って、なんとか反論の糸口がないかを考えますが、どうしても負け筋という場合も存在します。
なので、紛争予防という観点からは、商品名、サービス名、屋号を商標登録することは重要なのです。

もちろん、事業内容やリスクの程度等を踏まえて、商標登録しないという判断も一つの経営判断ではありますが、商標登録すべきかどうかの検討だけはきちんとやりましょう!ってことで。

 

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