クレウサとクスートゥスは、デルフォイ神殿に行ったものの、クレウサに秘密があるために、同じ願掛けができません。
アポロ神殿は、デルフォイの至聖所ですが、願掛けに来た人なら誰にでも、神々が真実を語る場です。クスートゥスとクレウサは二人とも、神殿の門前までやって来ます。もちろん、二人がイオンに、アポロ神殿に仕えるもので、クレウサにとっては子であるのですが、イオンに会うのは初めてです。しかし、クレウサは自分の息子とは気づかないのも当然ですし、イオンにしても、自分の母親とは気づかないのも仕方ありません。母も子もお互いに見知らぬ人です。それはちょうど、オイディプスとイオカステーが、ソフォクレスの『エディプス王』の中でと同じです。
オイディプスが、母親の意思とは異なり、死から救われたことを思い出してください。そして、オイディプスも、実の父と母に気づくことができないことも思い出してください。イオンの筋立ては、どことなく、オイディプスの物語に似ています。しかしながら、真実のダイナミックスは、真逆です。
イオンの話は、オイディプス=エディプスの話と似ています。イオンもオイディプスも、実の両親を知りません。真実が語られるのか、語られないのか、に二つの物語の違いがあるようですね。