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モイーズ監督退団にみるサッカー界のビジネスと競技成績との関係

2014年04月22日 | 本の紹介

マンチェスターユナイテッドのモイーズ監督の退団がクラブのHPを通じて発表されました。
こちら
今回はこのニュースから、サッカークラブにおけるビジネスと競技成績との関係について考えてみたいと思います。

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「ジャイアントキリング」という用語に代表されるように、プロスポーツの醍醐味の一つは小が大を喰らう番狂わせがあります。
一般的にはカップ戦に代表される一発勝負のトーナメント戦で多くみられますね。
リーグ戦においても、この2年間のサンフレッチェ広島のように、
比較的経営規模が大きくないクラブが頂点に立つ事も。

一方で、2年前のガンバ大阪のように、
安定した資金力を保ちつつもJ2降格の憂き目にあう事例もあります。

このような事例は、「クラブのビジネス規模と競技成績との間には関連が無いのでは!?」と思わせます。
事実、Jリーグの公式資料でも、「J1では『収入が大きいほど順位が上になる』とまでは言い切れない」(JリーグNEWS Vol.207, p.6)と報告されています。
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しかし、この関係を単年度ではなく、中長期的にみるとどうでしょう。
(企業経営と同じように、長く成功を維持する、ということがサッカークラブでも重要です。)

このような分析は、イングランドで2000年前後から行なわれてきました。
代表的な研究はシマンスキーとクーパーズによる下記のものです。

Winners and Losers
 
Penguin Books Ltd

これによると、イングランドのサッカーリーグ(プレミアだけでなく下部リーグも含む)における
クラブの収入とリーグ戦成績との相関関係は極めて強く、
1987ー96年の期間での決定計数(R二乗)は0.87にものぼっています。

さらにいうと、収入の多いクラブほど選手年俸に多く費やせますよね。
そのため、選手年俸とリーグ戦成績の中長期的な関係の方がより密接なものになります。
(そのためオイルマネーがサッカー界に流入し、短期的にクラブを強化する動きが流行しました。
 採算度外視なため、クラブ経営は赤字に。そこでできたのがファイナンシャル・フェアプレー制度ですね)

この研究を受け継ぎ、現代的に、より分かりやすく書かれたものがこちら。
きっと読まれた方も多いと思います。

「ジャパン」はなぜ負けるのか─経済学が解明するサッカーの不条理
 
日本放送出版協会

 

これらの手法を参考に、私もJリーグにおける2005年から2012年までの選手・スタッフ人件費とリーグ戦成績との関係を調べてみました。
その結果、イングランド同様、両者の関係は深く、決定計数(R二乗値)は0.85に。

つまり、長い目で見れば、クラブのリーグ戦成績とクラブの収入との間には強い関係がみてとれるのです。

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そこで話をマンチェスターユナイテッドに戻すと、
クラブの2012年シーズンの収入は世界3位の3億9600万ユーロ(Deloitte社Football Money League 2013より)。
1ユーロ=140円として、日本円で約554億円!
イングランド勢2位のチェルシーは3億2300万ユーロ(全体5位)、3位のアーセナルは2億9000万ユーロ(全体6位)ですから、
マンUが如何に収入面で有利だったか理解できます。

※ただし、注意しなければならないのは、これが収入であり、選手年俸総額ではない事。
  ユナイテッドは収入の割に選手人件費が抑えられている事でも知られています。
  そして、グレーザー氏によるクラブ買収時に、クラブが莫大な負債をおった事も。

こうした資金力を背景に、シーズン途中にはマタ獲得に代表される補強を図りました。
しかし、結果は得られず、今回の監督退団(まあ、事実上の解任でしょう)となった次第です。

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今回の件で改めて考えさせられたのが、
チームの成功を担保するための「指導力」です。

単にお金だけをかけて有力選手を獲得しても、
それを束ね、目標に向かってコミットさせることができる協力なリーダーがいなければ
成功は約束されないという事です。

もっといえば、長期にわたって成功を収めているクラブの監督は、
日々の細かな選手の言動に目を配り、様々な手を打ちまくって選手のコミットメントを引き出し、
その結果「なんとかして」成功を紡いでいるのかもしれません。

端的に言えば、リーダーによる超短期的成果の積み上げが中長期的成功の源泉である(かもしれない)ということです。
(これには他の要素、例えば現場とフロントとの関係、選手と監督との関係、クラブとスポンサーとの関係、サポーターと監督との関係などが
絡みますので一概には言えませんが。)
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こう考えると、長期的な成功を収めている企業は「持続可能な競争優位を有しているのではなく」、
「一時的な競争優位をくさりのようにつないで、結果として長期的に高い業績を維持しているようにみえる」という
最近の経営学の知見に非常に近しいように感じます(詳細は入山章栄氏による下記の著作をご覧下さい)。

世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア
 
英治出版


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また、最近では野球に代表されるセイバーメトリクスのように、
お金がないクラブでも中長期的に上位の成績を収める手法が研究されています。

最近では、『季刊サッカー批評』でクラブのお金と成績との関係に関する特集が組まれました。
私も非常に興味深く読ませてもらいました。

サッカー批評(67) (双葉社スーパームック)
クリエーター情報なし
双葉社

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このように、クラブの成績とお金との関係には
いろんなものの見方があります。

中長期的にみるのか、それとも短期でみるのか。
現場サイドからみるのか、ビジネスサイドからみるのか、
といったように様々な立場や時間の波があります。

問題は、それぞれの観点にたった場合の理屈を理解しつつ、
自らに課された目の前の課題に真摯に取り組む事だと思います。

そして、それらが噛み合った時に、
チームの成績も、企業としての成果も出るのでしょう。
そのためには、様々な歯車を絶妙に調整するマネジャーが必要です。
そんな名マネジャーが多数日本からも輩出され、
我が国のスポーツマネジメントのレベルが一段あがる事を期待しています。

そのために私も頑張らねば。。。