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貴婦人として死す

2016年03月04日 | JDカー
創元推理文庫から「貴婦人として死す」が出ました。ちょっと不思議な感じです。

大昔に読んでいるので、あらすじはほぼ覚えているのですが、改めて読み返すと一線級の傑作ですね。
派手な展開やトリックは無いかわりに、リアルで等身大の人間たちが織り成すドラマを堪能できます。
オカルトや歴史趣味といった冗漫な部分もなく、キャラクターも過不足なく配置されて、
プロットには隙もありません。
そしてミスディレクションの巧みさ。
不可能犯罪の解明がテーマになるのですが、
実は「不可能犯罪の謎」そのものが、犯人を隠すミスディレクションとはお見事。
読者の集中力をつねに不可能犯罪へと誘導することによって、
「意外な犯人」から目を逸らせる効果を狙っています。
そしてカーの作品には珍しくエキセントリックな人物が出てこない。
酔ったあげくにチャンバラしたり、詩を朗読したりするキャラクターや、
金やプライドで人殺しをする犯人さえもいない。
クリスティの世界に近い環境で事件が起きるので、
カーの筆もいつもと違って抑制が効き、その分H・M卿の暴発がユーモアとして生きてくる。
どの人物も愛ゆえに、というところでしょうか。

10CCThe Things We Do for Love 「愛ゆえに」



■貴婦人として死す(創元推理文庫) C・ディクスン
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