my healthより
私には普段メールのやり取りを続けている中国人がいます。彼は四十半ばですがまだ独身で、その理由を尋ねますと「中国での結婚は、一般的に相手の一家全員と結婚する覚悟がいるので、それならば独身を貫く方が良い」というものでした。つまり、結婚するということは、結婚相手だけでなくその家族全員を養うだけの収入や持ち家のある男性でなくてはならないということです。それが全ての中国人に共通しているとは思えませんが、地域によってはそのような習慣があるということでしょう。
幸いわが国ではあまりそのような話しは聞きませんが、相手の女性そのものが結婚相手を決める基準の中に「一定の高収入のある男性」を入れていることが多いようです。
また、男性の場合は結婚の決断をする際、「この女性が伴侶であれば、今の仕事を順調に続けていくことができれば幸せな家庭が築けるだろう」といった漠然としたビジョン程度の人が多いようですが、女性の場合は、結婚後の出産、子育て、子どもの進学まで、男性より具体的に将来のことを心に描いて結婚を決断する傾向にあるようです。ですから結婚相手の男性を選ぶ基準に当然「安定した高収入」という項目が外せません。
これも将来お金で苦労しないために当然だとは思えますが、それで幸せが約束されるのかと言えば必ずしもそうとは限らないでしょう。なぜなら幸せは物質的なものではなく心が感じるものですから。
数日前、NHKの『スーパープレゼンテーション』という番組で、ハーバード大学心理学者のショーン・エイカー氏が、どのようなことによって「幸せ」を感じることができるのかといった内容でスピーチをされていました。つまり「自分がどんな状態になったら”幸せ”だと言えると思うのでしょう」ということです。
NHK「スーパープレゼンテーション」<https://youtu.be/fLJsdqxnZb0>
彼は「脳は、成功するたびに成功の定義を再設定する」と言います。つまり「良い成績を取れば『もっと良い成績を取ったら成功』・・・と、脳はいつも、幸せを感じるための”成功”をいつも一歩先に設定してしまう」ということです。
結婚して幸せに暮らすためにはいくら以上のお金が必要だと考えるのは当然ですが、そのお金を得てしまうと、次は次のレベルの生活を念頭に、再びそれにはいくら以上が必要だと考えるようになってしまってキリがありませんし、それではいつまで経っても幸福感は得られないということでしょう。人はつい自分のいる情況を他の人たちと比較してしまいます。そして以前は自分と同じ立場にいた人が豊かな生活をしていることを知ると自分も同じようになりたいと思うようになってしまいます。そしてもしその願いが叶ったとしても、それよりももっと裕福な人が気になってしまうものですし。
私の友人に、ある大学の名誉教授がいますが、彼がまだ助教授だった頃、音大出の女性と結婚して二人の子どもと何不自由なく幸せに暮らしていました。子供たちは二人とも成績が良く、上の長女などは可愛い顔立ちで、通っている中学校ではマドンナ扱いでした。その頃、奥さんのお父さんが亡くなり、お父さんがが住んでいた東京渋谷の一等地の邸宅を処分したところ、なんと総額26億円という遺産が手に入ることがわかりました。この夫婦にとってこれほど幸せなことはないように思えますが、ところがこれが引き金になって情況が変わってきたのです。妻が手に入れることになる遺産によって夫婦間の力関係が不安定になったことで口論が絶えなくなり、それが原因で子供たちもグレ始め、長女は他の中学校の不良番長と付き合うようになり、下の男の子も万引きを繰り返すようになってしまいました。その夫婦はというと、今度は子供たちがそのようになってしまった責任をなすりつけあい、とうとう離婚してしまったのです。
現在、大人になっているその子供たちがどのようになっているかは記すまでもありませんが、この家庭の場合は予期せぬ大金が転がり込むことによって大切なものを手放してしまい、幸せから背を向けられてしまったということです。
この社会ではもちろんお金がなければ生活できません。が、それよりももっと大切なものは心でしょう。夫婦間でいえばお互いのポジティブな信頼感とも言えそうです。
前出のショーン・エイカー氏はプレゼンテーションの中でこうも述べていました。
「感情や意欲を脳に働きかけるドーパミンには二つの役割があります。幸福感を引き起こすことだけでなく、あらゆる学習機能をオンにして、世界に対して違ったやり方で適応することです。つまり、”幸せだ!”と感じながら活動することで、学習機能をオンにするドーパミンが分泌されて、脳はより熱心に早く知的に動くのです。」つまり「成功すれば幸せ」なのではなく「幸せだと成功する」というわけです。その研究結果を具体的に数字で表すならば、「ポジティブな状態にある場合、脳はネガティブな状態よりも31%生産性が高くなり、販売成績では37%上がる」そうです。
幸福感は心がもたらすものです。ですから私達は今以上のものを望む以前に、今こうして生きていることにまず満足し、目的に向かってベストを尽くしていけば自ずと良い結果の方が近づいてきてくる確率が高くなってくることでしょう。
結婚を決断する場合も、その条件がお金ではなく、お互いの長所を生かしながら信頼し合って、一歩一歩幸せな家庭に導ける可能性を持った相手を求めるほうが、よりそれに近づけるように感じます。