2016年9月15日(木) 夜勤を前に

2016-09-15 12:43:17 | 日記
アトゥール・ガワンデ著 『死すべき定め』が
朝日新聞9月11日の書評欄に掲載された。
「医療は文学的」というフレーズがいいと思う。





■人生の終末描く、医療は文学 (【評者】中村和恵<詩人・明治大学教授・比較文学>) 

 医療は文学的なんだよと若い研修医がわたしにいった。十九歳の夏、脳下垂体腫瘍(しゅよう)の手術のため入院した病院でのことだ。手術時間も比較的短い良性腫瘍は重篤な患者さんたちの前では気楽なものに思えた。深夜緊急オペに駆けつける医師もいた。英文科一年生だったわたしは考えた。こんなに切実で具体的な実践の前で、文学なんてなに?
 『死すべき定め』の著者アトゥール・ガワンデも、医学生の頃そう考えたのだろう。「患者と医師」という授業でトルストイの短編「イワン・イリイチの死」を読んだとき、診断がつかないまま治療を続け病状が悪化していく主人公の悩みに共感できなかったという。進んだ医学知識と適切な制度があれば主人公は救えたはずと考えた彼は、人は衰え死ぬという不可避の事実に、現場で初めて直面した。
 現代医療の目標は病と死に抗(あらが)いつづけることだ。つまり死は医療の失敗であり、医師の敗北ということになる。だが人は死ぬ。死は正常なことだ。医療は死とどう折りあいをつけていったらいいのか。ガワンデはこの難問を検証していく。ここ二、三十年、高齢者医療と介護の分野での新しい実践がつづいている。だが単純な正解はない。
 死は当人だけでなく家族の問題でもある。アメリカで生まれ育ったガワンデだが父母はインド人移民で、ホスピスで逝った父の遺体は遺言でガンジス川に散骨される。人生は物語としてとらえられて初めて意味あるものに感じられるのだとガワンデは考える。終末医療はまさに文学的な試みなのだ。
 『脳外科医マーシュの告白』ではこうした問題をイギリスの脳神経外科医ヘンリー・マーシュが、長年の臨床経験からドキュメンタリー風に語る。NHS(国営保健サービス)傘下の病院で働くマーシュはじつに多忙。訴訟を起こす患者もいる。若手の養成は大変。国の医療システムは不備だらけ。仕事熱心のあまり離婚。ときにはキレる。
 だが脳深奥部を描写するマーシュの筆は輝きに満ち、手術への並々ならぬ意欲が伝わってくる。自身の手術の失敗も驚くほど率直に彼は語る。自分のうぬぼれ、麻痺(まひ)の残った患者と向き合うつらさ、息子の病での動転など、厳しい経験はことばによる解釈を経てつながり、知恵になる。患者にいかに語るかで、手術や延命治療をするしないの判断も違ってくるのだと、後輩たちに彼はいう。ほぼ回復の見こみはないと正直に告げるか、手術自体は可能というか。
 生と死の間に想像力で分け入り、他者の事情や内面を推察し分析し、現実の解釈を伝え、物語の終末をともに描く、ことばで。たしかに医療は文学的だ。









2016年9月14日(水) 156日目

2016-09-15 00:42:35 | 日記
今日は遅番(10:30~19:30)。

身体的にやや疲れ気味。
やっぱり9月に入ってからの急激な人員減が
現場に負担を与えているのは明らかだと思う。
自分もどこか身体を痛めそうな予感がする。

実際に今日も身体を痛めて休んでしまったヘルパーがいる。
こんな状態を放置しているようじゃダメだと思う。
どんどん不信感が募ってくるぞ。

明日からあさってにかけては夜勤。



【時間も金もないので、どうせ読めないだろうけど、面白そうな本】



『となりのイスラム 世界の3人に1人がイスラム教徒になる時代』
(著)内藤正典
ミシマ社


朝日新聞9月11日書評記事 ← 斎藤美奈子氏による書評

■共生への知恵を示す入門書

 たぶん、これまででもっともわかりやすく、実践的で、役に立つイスラムの入門書だと思う。遠くて不可解なイスラムではなく「となりのイスラム」。
 世界中に15億~16億人。いまや人口の4人に1人(将来的には3人に1人)を占めるイスラム教徒。「イスラム過激派によるテロ事件」みたいな文脈で語られることの多いイスラムだけど、著者の内藤さんはいうのである。〈いまの報道では暴力に関するものばかりですが、暴力に吸い寄せる宗教が一五億も一六億もの人を惹(ひ)きつけることなどありえません〉〈イスラム世界とヨーロッパとの決定的な違いは、「人が人に対して敵対しない」ということではないでしょうか〉
 えっ、そうなの?
 と思ったあなたは(私もでした)、本書を介して彼らをぐっと身近に感じ、異文化と共生する知恵と希望を手に入れるだろう。
 たとえば、イスラム教徒を食事に招待するときはどうするか。食肉についてのイスラムの厳しい掟(おきて)をクリアしたと称する「ハラール認証」マークのある店じゃないとダメなのか。いえいえ。和食なら豚肉を使うことは少ないだろうし、最終的には〈それを食べるか食べないかはイスラム教徒に委ねればいい〉。
 イスラム圏の人を受け入れる大学や職場に礼拝の場は必要か。それはあんまり必要ないけど、多目的トイレに足を洗うシンクがあるといいかも。お祈りの前に手足を清めるための。
 思えば『アラビアのロレンス』から『文明の衝突』にいたるまで、私たちは常に欧米経由の価値観でイスラムをとらえ、ときに差別し恐れてきた。その色眼鏡を外さないと、先には進めず争いも終わらない。
 ヨーロッパ各国で吹き荒れる排外主義の背景や、イスラム国の暴力がなぜ起きたかにも言及。誤解されがちな宗教体系から複雑な国際関係まで、これなら中学生にも理解できます。その解説力もスゴイです。