テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

翼よ!あれが巴里の灯だ

2010-08-28 | ドラマ
(1957/ビリー・ワイルダー監督・共同脚本/ジェームズ・スチュワート、マーレイ・ハミルトン、バートレット・ロビンソン、マーク・コネリー、パトリシア・スミス、アーサー・スペース、チャールズ・ワッツ/138分)


 操縦席に迷い込んだ蠅がリンドバーグの話し相手になるのは覚えていたけど、途中でいなくなるのは忘れてた。ずっと一緒に居ると勘違いしていたなぁ。

*

 子供の頃に吹き替え版をテレビで観て大好きになった映画であります。子供心には心躍らせる冒険談として写ったでしょうし、世界初の大西洋単独横断飛行の実話というのも魅力的だったに違いない。
 チャールズ・リンドバーグが1927年5月に成し遂げた史上初の快挙を、後の本人の回想録を元にワイルダーとウェンデル・メイズが脚本を書き、同じ年に「昼下りの情事」と「情婦」も作ったワイルダーが監督をした。ビリーさん、なんともエネルギッシュなおっさんであります。しかもどれも一級品!
 プロデューサーはスタージェスの「老人と海」も製作したリーランド・ヘイワード。孤独な闘いに挑戦する男の物語が好きな人なんでしょうな。

 回想形式の得意なワイルダーが、遺憾なくその巧さを発揮した映画でもあります。
 スタートは、翌朝に巴里(パリ)へ飛び立つ予定のリンドバーグが宿泊しているニューヨークのホテルを雨の外から捉えた映像から。ホテルのロビーではジャーナリストがひしめき合っており、上階のリンドバーグの部屋の前には彼の睡眠を邪魔させまいと支援者が椅子に腰掛け警戒している。ところが、部屋の中のリンドバーグはベッドに横になってはいるものの、神経が高ぶっているのか寝付くことが出来ない。愛機「The Spirit of St. Louis(=原題)」の事も気になっている。明日、ちゃんと飛んでくれるだろうか?

 リンドバーグがNYの空港を飛び立つのは上映時間の半分を過ぎた辺りからで、それまでは眠れぬリンドバーグのモノローグを織り交ぜながら、今回の冒険に至るまでの最近の出来事を回想として紡いでいきます。翌年製作の「老人と海」でも大半が老人と大魚との闘いのシーンなので台詞は老人の独り言かモノローグが殆どだったのですが、「翼よ!」でも後半はリンドバーグの空の一人旅なのでモノローグが上手に使われています。
 前半のエピソードは回想にせずに時系列に描いてもよかったはずなのに、後半のモノローグ主体の語りに合わせるように、あえて回想形式にしたのではないか。勝手な想像ですが、ワイルダーの意図を感じました。ま、もともと回想が好きな監督ではありますがね。プロデューサーも多分、今作の成功に自信をつけて「老人」に着手したんじゃないでしょうか。

*

 航空郵便のパイロットとしてオンボロ機で天候を気にしながら飛ぶ毎日。ある日、エンストの為に配達途中で機を捨て、仕方なく列車に乗ることになる。たまたま乗り合わせた乗客からヨーロッパの冒険家がアメリカに向けて横断飛行を計画していることを知り、自分も挑戦してみようと思う。誰も成し遂げたことのない飛行機による3000キロの大西洋横断。
 新しい飛行機を買うための資金を募り、飛行機会社に乗り込むも、パイロット選びは売り手側の専権事項との条件に契約を解消、支援者達にお金を返そうとするが、カリフォルニアの航空機会社が良い飛行機を短期に作ってくれると言うのでリンドバーグは早速西海岸に飛ぶ。
 サンディエゴのその会社でつきっきりで製作に関わり、他のチャレンジャーの情報を得ながら、90日間の予定納期をひと月近く早めて飛行機は完成する。
 長距離飛行に備えてガソリンをなるべく沢山積めるように操縦席の前にもガソリン・タンクを作った。その為に前に窓は無いが、潜望鏡のような装置で前方確認は出来るようにする。大体、地上のように激しい車の往来がある訳でもないので、それで充分なのだ。翼は通常よりも3m長くし、機体を軽く保つために余分な計器類は付けない。無線機も付けず、パラシュートも、六分儀も要らないとリンドバーグは言う。方向は陸地の上では地図で確認できるし、海上では波の様子や風向きでアバウトな微調整が出来るからと。勿論、太陽や星の位置も利用できる。

 出発前夜から降り続いた雨の為に滑走路はぬかるみ、ニューヨークにも付いて来ていた飛行機会社の責任者は出発は明日にしてはどうかと延期を提案する。いったん飛び立てば30時間以上は一人で操縦せねばならないし、前夜も眠れなかったリンドバーグにしてみれば、まる二日以上起きていることになる。明日に延ばせば、ゆっくり眠れるだろうし、体調も万全で望めるはずだからと。
 しかし、リンドバーグは迷いもなく飛行機に乗り込んでいった。アメリカ側からの別のチャレンジャーはテスト飛行中に墜落死し、フランスの二人組は大西洋上で行方不明のままだった。他に幾人の挑戦者が準備をしているかは分からない。出発を強行した裏には、そんな思いもあったのかも知れないが・・・。



 後半は、眠気と戦いながらのハラハラ、ドキドキの連続です。
 出発の時点で、滑走路の泥濘のために離陸が遅れ前方の立木や電線に引っかかるのではないかというハラハラ・シーンがあり、無事に飛び立った後もすぐに眠気が襲ってきて、さてさてどうなるんだろうとの緊張感が継続する。
 実は前半のエンストした郵便飛行機を乗り捨てるシーンでも、無人の飛行機が旋回を始め、パラシュートで降下しているリンドバーグに何度もぶつかりそうになるという、その意外性によって印象的なハラハラが経験できます。

 冒頭にも書いたように出発と同時に操縦席に迷い込んだ蠅に気付き、しばらくは独り言の相手をして貰いますが、海上に出る頃には蠅君も居なくなり、モノローグでの語りとなる。
 機体のバランスを保つ為のガソリンの注入タンクの切り替え操作。眠気との闘い。(北回りの飛行ルートなので)機体に氷が張り付く為の重量オーバーでの墜落の危険、そして発生する操縦トラブル。
 飛行に入ってからは現実が緊張感のあるものなので、回想は懐かしい思い出のモノが多くなります。いわゆる緩急を付けた編集でしょうか。空中サーカス団に入っていた時のエピソードを観ながら、ワイルダーがコレを作ってなかったらジョージ・ロイ・ヒルが作っただろうなぁなんて思いました。
 ニューファンドランド島、アイスランド、パリの凱旋門などなどの上空からの実写は、ワールドワイドなスケールが感じられる、冒険談に相応しいワクワクさせる景色でした。

 賞関係ではアカデミー賞の特殊効果賞(視覚)にノミネートされただけというのは驚きですが、この年はワイルダーさんは「情婦」の方がメジャーな扱いだったようです。

 「老人と海」のスペンサー・トレイシーと並んで、こちらの一人芝居のジミーさんも熱演。リンドバーグの人となりを個性的に描くという姿勢は見えませんで、ジミーさんそのままの人物像がピッタシストーリーに填ったようです。
 マーレイ・ハミルトンは曲芸サーカス団に誘ってくれる空に魅せられた友人の一人という役でした。





・お薦め度【★★★★★=大いに見るべし!】 テアトル十瑠

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8 コメント

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オカピーさん (十瑠)
2014-01-30 11:50:54
>mayumiさん

「素晴らしき哉!人生」を捩ったタイトルでブログを続けられているベテランさんです♪
そして、クーパーさんの大ファンであられます。

>ワイルダーの絶頂期なり

50歳を超えたばかりですから、絶頂期であり、円熟期の始まりでもあったんでしょうねぇ。
返信する
弊記事までTB&コメント有難うございました。 (オカピー)
2014-01-29 21:15:40
>前半のエピソードは回想にせずに
恐らくそうだと思いますね。いきなり蠅が出てきてモノローグを使うより、無理がない感じがします。
蠅の効果も抜群ですが・・・仰るように記憶より早く出てまうんですね(笑)

同じ頃「情婦」と「昼下りの情事」と本作を作っていたとはワイルダーの絶頂期なり。
1940年代のサスペンス期も素晴らしいのですが。

>mayumiさん
なかなか通な方ですね。
キング・ヴィダーだともっと重く、下手するとかったるくなったかも。映画ファンになりたての頃よくこんがらがったヘンリー・キングのように冗長にはならないと思いますが。
返信する
mayumiさん (十瑠)
2011-02-08 09:13:30
>もっと重々しい作品になったんじゃないか

ありえますね。(笑)
リンドバーグはお金に釣られたのか、ヘイワードの熱意にほだされたのか?
いずれにしてもイイ映画が出来て観客の一人として喜ばしいことです。
返信する
名作ですね (mayumi)
2011-02-08 01:00:59
回想シーンを多用して、話を単調にさせないところなど、やっぱりワイルダーはうまいですね。ところどころ軽妙で飽きさせません。
リーランド・ヘイワード!そうそう、このプロデューサーですよ。キング・ヴィダーから映画化権をさらっちゃったのは(笑)。でもヴィダーが作ったら、もっと重々しい作品になったんじゃないかな、と思います。彼の作風からいって。
返信する
「4年前の旧マイ記事」 (十瑠)
2010-08-29 21:05:43
以前、読ませて貰った記憶が。
ホントに、ワイルダーの他の映画や「激突!」の話が一杯ですな^^

リンドバーグ夫人の「海からの贈り物」も、その後書店に探しに行ったのに無くて、多分book-offにはあるはずだと頭にメモったのに、そのまんま東(←古ッ!)でした。
も一度、
返信する
まごうことなき、いい映画です! (vivajiji)
2010-08-29 15:50:49
観たあと嬉しくなって勇気りんりんもらって
人間ってやっぱりいいじゃんっ!映画は
とても良いと思いますね~
ほんとうにワイルダーは語り口の巧い監督さん
大好きな映画のご紹介記事感謝です。

4年前の旧マイ記事持参しました。
コメント欄、プロフェッサーと
スピルバーグの話ばかりしてますが。(笑)
返信する
宵乃さん (十瑠)
2010-08-29 12:44:41
毎度。コメント&TBありがとうございます。

>孤独を紛らわせ、気力を取り戻している感じ・・

なるほど。自然と旧い記憶が甦ってくる感じもあるけど、それは孤独を紛らわそうとする無意識からくるのかも知れませんね。

>「みんなの想いをのせて飛んでいるんだ!」

ひょうひょうとしているけど、そんな男に見えないこともない。飛行機完成の記念写真を撮る時に、そんな風な言葉を発したような・・・。

数十年前に観た時からいつまでも勇気をくれる映画であります
返信する
この作品を撮った年に (宵乃)
2010-08-29 12:02:29
「昼下りの情事」と「情婦」も撮ったんですか!?
改めてワイルダー監督の偉大さを思い知りました・・・。

後半の回想シーンは、リンドバーグが孤独を紛らわせ、気力を取り戻している感じがしてよかったです。熱血風に言うと「みんなの想いをのせて飛んでいるんだ!」みたいな(笑)

>実は前半のエンストした郵便飛行機を乗り捨てるシーンでも、無人の飛行機が旋回を始め、パラシュートで降下しているリンドバーグに何度もぶつかりそうになる

このシーンはすっかり忘れてました!
再見する時は、冒頭から気を抜かずに観ますね~。
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