テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

摩天楼を夢みて

2017-01-19 | ドラマ
(1992/ジェームズ・フォーリー監督/アル・パチーノ、ジャック・レモン、エド・ハリス、アラン・アーキン、ケヴィン・スペイシー、ジョナサン・プライス、アレック・ボールドウィン/100分)


 NYの下町にある不動産会社の支社を舞台にした人間ドラマであります。
 登場人物は、若い支社長(スペイシー)と営業マンが4人。
 アル・パチーノ扮するローマはやり手で営業成績も優秀。
 ジャック・レモン扮するシェリー・レビーンは最年長のベテランだが今月は未だ一件も契約が取れていないし、現在娘が入院していてそっちの方も気掛かりだ。
 エド・ハリス扮するデイヴ・モスは会社のやり方に不満たらたらで、ろくな営業情報も顧客情報も無いといつも愚痴をこぼしている。
 気が弱くて自分はこの仕事には向いてないと言っているのはアラン・アーキン扮するアーロナだ。

 ある雨の降る夕方、営業ミーティングとして集まったローマ以外の三人の前に一人の男が現れる。アレック・ボールドウィン扮する、スーツをバシッと決めた男。
 彼は、この営業成績の振るわない支社の連中に喝!(本当は活)を入れるためにやってきた社内でも有数のやり手営業マンなのだ。

 レビーン、モス、アーロナの三人は、若造のくせに本社の大幹部のような物言いに反撥も覚えるが、この1週間の成績で最下位になった者は首だと宣言され動揺は隠せない。
 モスはアーロナを連れ出して、元同僚で今は退社して起業した男に倣って辞めようと持ちかける。但し、ただ辞めるのではなく、金になりそうな会社の情報を盗んでしまおうと。
 レビーンは、支社長の金庫にある有望な物件情報を金で買うからくれないかと支社長に持ち掛け断られる。
 そんな中、ローマだけは会社の向かいにあるバー&レストランで偶々知り合った男に最新物件の販売に成功する。

 さて、翌日。
 会社の前にはパトカーが止まっていて、会社の中に入れば、夕べのモスとアーロナの相談事項が実行された気配。さて、真犯人は誰か?そして彼らの運命は?
 てな具合の、最後は謎解きの要素も加わる面白いドラマであります。

 なんでもそうですけど、営業マンというのはホントにつらいもので、自己暗示でも掛けなければやってけない商売だと思いますね。ましてや不動産なんてバブルの時ならまだしも、不景気になれば自殺者も出る程の過酷な職種でありましょう。アレック・ボールドウィンを見ながらドナルド・トランプはこんな奴だろうと思ってしまいましたな。

 十数分も観ていれば分かりますがコレは舞台劇の映画化。
 原作も脚本もデヴィッド・マメットという劇作家で、なんとリンゼイ・クローズの元ご亭主らしいです。

 1992年のアカデミー賞とゴールデン・グローブでアル・パチーノが助演男優賞にノミネート。
 ヴェネチア国際映画祭ではジャック・レモンが男優賞を受賞したそうです。





・お薦め度【★★★★=友達にも薦めて】 テアトル十瑠

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3 コメント

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誤字がありました (十瑠)
2023-01-30 11:55:05
舞台は前提的ですが

舞台は限定的ですが
返信する
この映画は (十瑠)
2023-01-30 11:53:07
ブログ友だちが推薦していたのでタイトルを覚えていたら、偶然DVD中古販売店で見つけたものでした。
舞台劇の映画化らしく、舞台は前提的ですが、タイトな展開にドキドキしたもんです。
出演者すべてイイ演技でしたね。
返信する
Unknown (風早真希)
2023-01-28 18:26:21
「アメリカ上陸作戦」に関するコメントへの早速のご返信、ありがとうございます。

アラン・アーキンと言えば、テレンス・ヤング監督の「暗くなるまで待って」で、私が大好きで、大好きでたまらないオードリー・ヘプバーンを極限まで、恐怖のどん底に追い詰めた、クールで冷酷な悪役の演技は絶品でしたね。

今回、アラン・アーキンが出演していた「摩天楼を夢見て」のレビューをされていましたので、私にとっても思い入れのある作品ですので、コメントを述べてみたいと思います。

この映画「摩天楼を夢みて」は、デヴィッド・マメットのピューリッツァー賞受賞の戯曲「グレンギャリー・グレン・ロス」をジェームズ・フォーリー監督が、名だたる名優、演技派俳優を揃えて映画化した作品です。

舞台はニューヨークには違いないが、邦題のあまりにもひどい「摩天楼を夢みて」というような、華やかさだの浮かれた感じといったものは全然なくて、詐欺すれすれのきわどい商売をしている、不動産会社のセールスマンたちの話です。

六人の不動産会社の社員と一人の客----登場人物はほとんどこれだけ。
場所も不動産会社のオフィスと向かいのバーくらいのものだ。
人物も空間も小さく限定しているところ、たくさんのセリフのぶつけ合いで進行していくところなど、かなり演劇的な構成になっていて、映画を観ているというより、あたかもブロードウェイの緊迫した舞台劇を観ているような気分になってしまいます。

この映画は、とにかく、"厳しい美しさとおかしみの漂う人間ドラマ"になっていると思います。

うらぶれた不動産会社の支店にある日、BMWに乗って本社の幹部(アレック・ボールドウィン)が激を飛ばしにやって来る。
若くてハンサムだが、名乗ることもせず「クソッたれというのが俺の名前だ」「お前は韓国製の車。俺はBMW----それが俺の名前だ」と言い放つ。

そして、「今夜すぐにセールスして歩け。一等はキャデラック・エルドラド、二等はナイフ・セット、三等は----クビだ」と容赦ない。
汚いスラングを連発し、「それでも男か」と罵倒する。

中年のセールスマンたちのプライドの、特に性的な部分を痛めつけて挑発していく。
いかにもアメリカの二、三流企業にいそうな泥臭いエリートだ。

いつもはバリバリのハリウッド型二枚目を演じているアレック・ボールドウィンが、珍しくテンションの高い長ゼリフをこなしているのに、まず驚く。

あっけにとられたセールスマンたちが、「顧客情報が弱くて----」と、言い訳すると、その幹部はもったいぶった手つきで、金のリボンをかけた箱を見せつける。

その箱の中には、グレンギャリーという開発地に関する重要情報が入っているのだ。
彼は「黄金の情報だ。成績の一番いい奴だけにこれをあげよう」と言って、去ってゆく。

この幹部の激は、セールスマンたちの心に大きな波紋を広げることになる。
キャデラック・エルドラドか、クビか。天国か地獄か。
「男」になるか、「クズ」になるか、という厳しい生存競争で、四人のセールスマンたちがしのぎを削ることになる。

強烈なハッタリで、もっかトップを走っているリッキー(アル・パチーノ)、人当たりの良さと粘り強さで勝負するベテランのシェリー(ジャック・レモン)、冷ややかな皮肉屋のデイブ(エド・ハリス)、そして押しが弱いジョージ(アラン・アーキン)の四人だ。

これをコネ入社で、現場の苦労を知らない支店長のウィリアムソン(ケヴィン・スペイシー)が見張っているという構図なのだ。

何と言っても切ないのが、私が大好きな名優ジャック・レモン扮する、叩き上げのシェリーだ。
トップの座を後輩のリッキーに奪われたうえに、可愛い娘は病気で入院。まさに背水の陣だ。

プライドも何もかも捨て、支店長を買収して「黄金の情報」を得ようとするが、失敗してしまう。
仕方なく雨の中をとぼとぼとセールスに出かけていくが、得意の口車も通じず、あっさり断られてしまう。

ジャック・レモンが、深みのある哀愁を帯びた、素晴らしい演技を見せてくれる。
電話で不動産の勧誘をする時の、この男はもう何年もこの手口でやって来たのだなというのがわかる、もの慣れた喋り方。

そして、支店長との緊迫したやりとりの時の、反射神経の鋭さ。間の絶妙さ。
本当にジャック・レモンという役者は、どんな役を演じても、その人間の持つ弱さ、ずるさ、愚かさ、悲しみまでも全て体現出来る、凄い役者だなといつも思ってしまいます。

1992年度のヴェネチア国際映画祭で、主演男優賞を受賞したのも納得がいく名演だ。

アクの強いリッキー役のアル・パチーノも素晴らしい。
従来のアル・パチーノは、ジャック・ニコルソン同様、いかにも「うまいだろ、唸るだろ」と言わんばかりの演技が多少、鼻につくところもあるが、この映画では珍しく引いていて、しかも十分、陰影のある演技で非常に好感が持てましたね。

ほとんど詐欺師のようなソフトな老シェリーとハードなリッキーの仕事ぶりを見ていると、そしてその破綻ぶりも見ていると、みじめでたまらない気持ちになって来る。

この世の中から、一ドルでも余計にお金をもぎ取ることのしんどさに、胸がつぶれそうな気持になってきます。
シェリーとリッキーをついつい、「かわいそう」なんて思ってしまうのだ------。

ところが、この二人、「かわいそう」なんて思う私なんかより、実はずっとタフなのだ。
リッキーは逃げる客を引き留めるために、老シェリーを巻き込んで、土俵際、徳俵で踏ん張るような、インチキ芝居を打つのだ。
詐欺師同士の"あうんの呼吸"。プロフェッショナル同士の見事なコンビネーション。

結局、その芝居は失敗してしまうのだが、リッキーはシェリーに「見事だ。さすがベテランだ」と賛辞を送る。
失意のどん底のシェリーは、この一言に救われるのだ。
金のため、何もかも捨てた男に唯一残された、プロの誇り。
この映画の中で一番美しいシーンだと思います。

そして、インチキがバレて、一瞬目の前が真っ暗になりながら、次の瞬間には、もうちゃっかり次のカモを狙って電話をかけている----このリッキーの立ち直りの早さも、おかしくて、タフで、美しい。

この映画の凄いところは、登場人物をみじめさのどん底まで追い詰めておきながら、我々観る者の甘い同情だの憐みだのを、はじき返してしまい、逆に我々に「こいつらに、負けた」と思わせてしまう。

そういう人物像を生み出した、この原作者でもあり、自身で脚本も書いた、デヴィッド・マメットはただ者じゃないなと思います。

最初はジャック・レモンとアル・パチーノにばかり目が行きますが、他のエド・ハリスとアラン・アーキンのセールスマン、そして支店長のケヴィン・スペイシーや客のジョナサン・プライスまでもが一人一人、非常にはっきりとした輪郭を持った人物として浮かび上がって来るのだ。

まったくもって、俳優全員が、何かに感染したかのように、ほとんど最高の、しかも、しっかり分を守った演技を見せつけるのだ。

俳優と俳優との間にある空気が、こわばったり、ゆるんだり、冷えたり暖まったりというのが、いちいち目に見えるようだ。

その「緊張と緩和」のリズムが心地良いのだ。
演劇的な構成なのに、ちっともスタティックじゃなく、ちゃんと映画的に動いているのだ。

いちいち発言者にカメラが行くという、本来、私が嫌っているカメラワークなのだが、これが意外にも成功しているように思う。
「緊張と緩和」のリズムを非常にうまく伝えているなと感心してしまいます。

どうでもいいような映画もどっさりありますが、時々、フッと、こういうプロの凄みを見せつけるような傑作が出て来るから、アメリカ映画はやっぱり見逃せませんね。
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