(1957/シドニー・ルメット監督/ヘンリー・フォンダ、マーティン・バルサム、ジョン・フィードラー、リー・J・コッブ、E・G・マーシャル、ジャック・クラグマン、エドワード・ビンズ、ジャック・ウォーデン、ジョセフ・スィーニー、エド・ベグリー、ジョージ・ヴォスコヴェック、ロバート・ウェッバー/95分)
子供の頃に見ていた「日曜洋画劇場」で印象深い裁判映画が二つある。スタンリー・クレーマーの「ニュールンベルグ裁判(1961)」と、もう一つがコレだ。厳密には法廷シーンは冒頭にしかないが、12人の陪審員たちの討論は複数の検事と弁護士による裁判のようだし、観客には知らされていない事件の内容も彼らのやりとりで徐々に分かってくるので、推理劇の面白さもある。更には、討論の流れと共に12人の陪審員の性格や考え方、仕事、家庭環境まで推測でき、社会の縮図としての人間ドラマにもなっている。【原題:12 ANGRY MEN 】
元々はレジナルド・ローズの脚本によるTVドラマで、高い評価を得たためにTV版と同じルメット監督によって映画化されたとのこと。プロデューサーは映画版の脚本も書いたレジナルド・ローズと、陪審員8番を演じたヘンリー・フォンダ。フォンダは前の年にヒッチコックの「間違えられた男」で無実の罪に苦しむバンドマンを演じたので、この陪審員はそのバンドマンのような気がしましたな。
白黒カメラは「波止場(1954)」でオスカー受賞のボリス・カウフマン。先月紹介した「ハスラー(1961)」と同じケニヨン・ホプキンスが音楽の担当で、今回は地味~な味付けでした。
ニューヨークの下町。18歳のスラム育ちの少年が同居している父親をナイフで殺害したという容疑での裁判で、同じアパートの下階に住む老人が事件の直前に争う二人の声を聞いたと証言し、電車の線路を隔てて向かいのアパートに住む婦人は少年が父親を刺したのを目撃したと証言した。
事件の発生は深夜。少年は父親とケンカした後、外に飛び出して映画を見ていたと言い、午前3時にアパートに帰って来たところを逮捕されている。凶器となった珍しい形の飛び出しナイフは日頃少年が持ち歩いているのと同じモノで、小さい頃から傷害沙汰で警察のお世話になっている少年は、ナイフ使いの名人でもあった。父親の胸に刺さっていたナイフの指紋はふき取ってあり、逮捕された少年はナイフは映画に行く途中で落としたと言う。当夜の警察の尋問に、少年はさっきまで見ていた映画のタイトルも出演者の名前も答えられなかった。
6日間にわたった裁判の後、選ばれた12人の陪審員は審議に入る。ルールでは評決は全員一致が原則だが、どうしても決まらない場合は不成立という結論もある。
別室に入った直後から雰囲気は有罪だった。この夜、ヤンキース戦のチケットを買っていた陪審員7番(ウォーデン)は審議はすぐに終わるだろうと思っているし、広告マンの12番(ウェッバー)もあまり真剣味はない。挙手によって意見を纏めることとなったが、誰もが有罪と思っていたところ、8番の男が一人無罪に手を挙げた。
『無罪に確信を持っているわけではない。有罪となれば少年は死刑だ。一人の人間の生死が掛かっているんだから、少し話し合いをしようじゃないか。』そう彼は言うのであった・・・。
ミドルショットで始まった序盤から、議論が白熱してくるに従ってクロースアップが多くなってくる。議論の中で事件の概要が紹介されるが、再現シーンなどはなく、カメラは裁判所内の一つの部屋から出ることはない。暑い夏の日の夕刻で、クーラーは無く、扇風機も止まっている。所々場面展開がスムースでない部分もあるが、久しぶりに見ても非常に面白い映画だった。
▼(ネタバレ注意)
初見時の子供心にはヘンリー・フォンダとリー・J・コップの対決が強い印象を残していたが、その他の人物も個性的で面白い。
地元高校のアメフトのコーチをやっている1番(バルサム)は議長役。何人かルールを守らない者がいるので一度は議長を降りようとするが、スポーツマンらしく最後までやり通す。
初めて陪審員をしたという2番(フィードラー)は、一般サラリーマンの代表のような人。裁判の経過を面白がっているが、議論は真剣だ。
裸一貫で宅配会社を作った3番(コップ)は、一人息子との仲が上手くいっていない。彼が最後まで有罪と言い張る。
株の仲買人をしている4番(マーシャル)は、沈着冷静な判断をする人。汗をかかない特異体質だが、ある一瞬のみ額に汗する。
普通のサラリーマンに見えた5番(クラグマン)はスラム街の出身だった。ナイフの使い方で重要な発言をする。
塗装職人の6番(ビンズ)は老人に優しい正義漢。
ヤンキースファンの7番は口八丁、手八丁のセールスマン。
8番は建築家デイビス。“疑わしきは罰せず”に則って発言している。
9番の老人マカードル(スィーニー)は、8番の最初の理解者だった。終盤で、殺害現場を見たという婦人について重要な発言をする。
偏見から抜けきらない10番(ベグリー)は、終盤で総スカンをくう。
時計職人の11番(ヴォスコヴェック)はヨーロッパから渡ってきたユダヤ人。犯人に対して何の利害関係もない12人が審議するという制度の素晴らしさをとく。
広告マンの12番(ウェッバー)は寒い冗談が多いが、最後のは少し受ける。
▲(解除)
室内劇なので全て演技派の役者といっていい。
バルサムとウォ-デンは、この19年後「大統領の陰謀」でも共演している。
コップはエリア・カザンの「波止場」でのマーロン・ブランドとの対決が印象深い。
マーシャルは「インテリア」の父親役。
クラグマンは、ラリー・ピアース監督の「さよならコロンバス(1969)」でアカデミー助演男優賞にノミネートされている。
ビンズは先に挙げた「ニュールンベルグ裁判」にも出ているし、ヒッチコックの「北北西に進路を取れ(1959)」にも出ているらしい。
ベグリーは、P・ニューマン主演の「渇いた太陽(リチャード・ブルックス監督/1962)」で助演男優賞を獲った。
1957年のアカデミー賞では、作品賞、監督賞、脚色賞にノミネートされ、これが映画初監督のルメットは、ベルリン国際映画祭で金熊賞を受賞した。
子供の頃に見ていた「日曜洋画劇場」で印象深い裁判映画が二つある。スタンリー・クレーマーの「ニュールンベルグ裁判(1961)」と、もう一つがコレだ。厳密には法廷シーンは冒頭にしかないが、12人の陪審員たちの討論は複数の検事と弁護士による裁判のようだし、観客には知らされていない事件の内容も彼らのやりとりで徐々に分かってくるので、推理劇の面白さもある。更には、討論の流れと共に12人の陪審員の性格や考え方、仕事、家庭環境まで推測でき、社会の縮図としての人間ドラマにもなっている。【原題:12 ANGRY MEN 】
元々はレジナルド・ローズの脚本によるTVドラマで、高い評価を得たためにTV版と同じルメット監督によって映画化されたとのこと。プロデューサーは映画版の脚本も書いたレジナルド・ローズと、陪審員8番を演じたヘンリー・フォンダ。フォンダは前の年にヒッチコックの「間違えられた男」で無実の罪に苦しむバンドマンを演じたので、この陪審員はそのバンドマンのような気がしましたな。
白黒カメラは「波止場(1954)」でオスカー受賞のボリス・カウフマン。先月紹介した「ハスラー(1961)」と同じケニヨン・ホプキンスが音楽の担当で、今回は地味~な味付けでした。
*
ニューヨークの下町。18歳のスラム育ちの少年が同居している父親をナイフで殺害したという容疑での裁判で、同じアパートの下階に住む老人が事件の直前に争う二人の声を聞いたと証言し、電車の線路を隔てて向かいのアパートに住む婦人は少年が父親を刺したのを目撃したと証言した。
事件の発生は深夜。少年は父親とケンカした後、外に飛び出して映画を見ていたと言い、午前3時にアパートに帰って来たところを逮捕されている。凶器となった珍しい形の飛び出しナイフは日頃少年が持ち歩いているのと同じモノで、小さい頃から傷害沙汰で警察のお世話になっている少年は、ナイフ使いの名人でもあった。父親の胸に刺さっていたナイフの指紋はふき取ってあり、逮捕された少年はナイフは映画に行く途中で落としたと言う。当夜の警察の尋問に、少年はさっきまで見ていた映画のタイトルも出演者の名前も答えられなかった。
6日間にわたった裁判の後、選ばれた12人の陪審員は審議に入る。ルールでは評決は全員一致が原則だが、どうしても決まらない場合は不成立という結論もある。
別室に入った直後から雰囲気は有罪だった。この夜、ヤンキース戦のチケットを買っていた陪審員7番(ウォーデン)は審議はすぐに終わるだろうと思っているし、広告マンの12番(ウェッバー)もあまり真剣味はない。挙手によって意見を纏めることとなったが、誰もが有罪と思っていたところ、8番の男が一人無罪に手を挙げた。
『無罪に確信を持っているわけではない。有罪となれば少年は死刑だ。一人の人間の生死が掛かっているんだから、少し話し合いをしようじゃないか。』そう彼は言うのであった・・・。
ミドルショットで始まった序盤から、議論が白熱してくるに従ってクロースアップが多くなってくる。議論の中で事件の概要が紹介されるが、再現シーンなどはなく、カメラは裁判所内の一つの部屋から出ることはない。暑い夏の日の夕刻で、クーラーは無く、扇風機も止まっている。所々場面展開がスムースでない部分もあるが、久しぶりに見ても非常に面白い映画だった。
▼(ネタバレ注意)
初見時の子供心にはヘンリー・フォンダとリー・J・コップの対決が強い印象を残していたが、その他の人物も個性的で面白い。
地元高校のアメフトのコーチをやっている1番(バルサム)は議長役。何人かルールを守らない者がいるので一度は議長を降りようとするが、スポーツマンらしく最後までやり通す。
初めて陪審員をしたという2番(フィードラー)は、一般サラリーマンの代表のような人。裁判の経過を面白がっているが、議論は真剣だ。
裸一貫で宅配会社を作った3番(コップ)は、一人息子との仲が上手くいっていない。彼が最後まで有罪と言い張る。
株の仲買人をしている4番(マーシャル)は、沈着冷静な判断をする人。汗をかかない特異体質だが、ある一瞬のみ額に汗する。
普通のサラリーマンに見えた5番(クラグマン)はスラム街の出身だった。ナイフの使い方で重要な発言をする。
塗装職人の6番(ビンズ)は老人に優しい正義漢。
ヤンキースファンの7番は口八丁、手八丁のセールスマン。
8番は建築家デイビス。“疑わしきは罰せず”に則って発言している。
9番の老人マカードル(スィーニー)は、8番の最初の理解者だった。終盤で、殺害現場を見たという婦人について重要な発言をする。
偏見から抜けきらない10番(ベグリー)は、終盤で総スカンをくう。
時計職人の11番(ヴォスコヴェック)はヨーロッパから渡ってきたユダヤ人。犯人に対して何の利害関係もない12人が審議するという制度の素晴らしさをとく。
広告マンの12番(ウェッバー)は寒い冗談が多いが、最後のは少し受ける。
▲(解除)
室内劇なので全て演技派の役者といっていい。
バルサムとウォ-デンは、この19年後「大統領の陰謀」でも共演している。
コップはエリア・カザンの「波止場」でのマーロン・ブランドとの対決が印象深い。
マーシャルは「インテリア」の父親役。
クラグマンは、ラリー・ピアース監督の「さよならコロンバス(1969)」でアカデミー助演男優賞にノミネートされている。
ビンズは先に挙げた「ニュールンベルグ裁判」にも出ているし、ヒッチコックの「北北西に進路を取れ(1959)」にも出ているらしい。
ベグリーは、P・ニューマン主演の「渇いた太陽(リチャード・ブルックス監督/1962)」で助演男優賞を獲った。
1957年のアカデミー賞では、作品賞、監督賞、脚色賞にノミネートされ、これが映画初監督のルメットは、ベルリン国際映画祭で金熊賞を受賞した。
・お薦め度【★★★★★=大いに見るべし!】
バルサムとか準主役級が居たのも充実している要因でしょうね。
50代前半の十瑠の勢いが記事にも表れています(自画自賛)
何やら今となっては意味もよく解らないことを、十瑠さんの迷惑も顧みず、色々と書きなぐっていましたねえ。当時40代の若気の至りです(笑)。
短い作品ですのでさっさと再鑑賞すれば良いのに、ブログ開設後およそ15年も放っておいたんですねえ。
ヘンリー・フォンダ以外主役級の俳優はいず、名脇役揃い。演技が充実しているので素晴らしい作品になりましたね。良い脚本でもツボを外した演技をすれば絵に描いた餅になってしまう。
やはりこの映画は凄かった。最後の雨上がりの道もすがすがしかった。
年齢的には随分オリジナルと違うけど・・・。
作品としても好評のコメントが多いし、見てみたいですね。
今回は“ネタバレ”として登場人物について書いてみましたが、有罪が無罪となった議論の一つ一つも別途に書いてみたい気もするくらいです。
オカピーさんのベスト・セレクションにも挙がっている「情婦」。なんか、ますます見たくなっちゃったなぁ!
我が家のレコーダーは基本容量が少ないので、追っつかない分をDVDに落としています。
500GBは羨ましい
ありがとうございました。
私も大好きです!
十瑠さんと同じく、子供の頃に吹き替えで観て腰を抜かすくらい感動したのでした。私も初見ではヘンリー・フォンダとリー・J・コップの対決が強い印象でしたが、少し大人になってから見返すと、陪審員それぞれの個性の描き分けに魅了されました。
私の場合は、本作と『情婦』が法廷物では忘れがたい記憶。
最近、我が家はデジタル・レコーダーに替えました。500GBの大容量が魅力で、早くも30本以上の映画が記録されております。
当然、本作も撮ってあるのですが、DVDに焼くかどうかは未定ですね。保存版を作ると、それで安心して観なくなるこどが多いので^^;
TB ⇒ TV
でした。TBは恐らくブログの影響でしょう(笑)。
そう言えば「アラバマ物語」も同じ理由で失敗したのでした(泣)。
デジタル放送は原則的にDVD-Rには記録できません。記録できるのは、DVD-RWかDVD-RAMということになりますが、価格が倍くらいします。出来るDVD-Rは高いので価格メリットがなく、それなら書き換えのできるDVD-RW若しくは-RAMのようが良いということになります。
デジタル放送はコピーシステムが強くて、コピーは一度しか出来ずHDDからDVDには移動しかできません。DVDに移動したものはHDDから消えてしまいます。機械によっては、移動に失敗すると一巻の終わりという悲劇もあるようで、このシステムには色々批判もあるようです。
いずれにしても、現在お持ちのDVDは2011年7月以降でも使えますのでご安心を。但し、TBと録画機は買い換えないといけませんね。政府の陰謀です。
アスカパパの『特別な思い入れ』お伺いに参ります!
私にとっては、何度も観た特別に思い入れのある映画です。
そうかぁ。丁度半世紀前の映画なんですねぇ。
ホントに久しぶりで、古めかしさを感じたらイヤだなぁと思っていましたが、全然そんな所がなくって安心して楽しめました。
あれだけ顔のアップがあったのに判別つかないというのは論外としても、女性が欲しいというのは半世紀も経てば確かに出てきそうなコメントです。ま、女性が被害者の事件ならあり得たのかな。
三谷氏のパロディには女性も出ているようですけど・・・。
いいえ、分かりません。
DVD-Rに+と-が有るのは知っていますが、とりあえず家ので使えるのを買っています。ひょっとして、今録画している安いDVD-Rは将来デジタルTVでは再生できなくなるって事ですか?
2011年までとにかく今のアナログTVが持つように祈ってますが、過渡期には色々と面倒な事もあるようですね。
「アラバマ物語」も懐かしいですが、記事にしてしまっているので此処に挙げるのを忘れてしまいました。
後ほど、TB記事読みに伺います。
さすがに、この辺の名作ともなると即コメントが返ってきますな~
>リメイクはど~~よ??
って、リメイクがあるってこと? それとも、リメイクしたらどう? ってこと?
後者だったら、『そりゃ、やめた方がいい。』
かっきり50年前の名品!
法廷の場面はチョピっとしかないけれど
後世に語り継がれる大傑作!
all cinemaでのコメントで、
オバサン、びっくらこいてしまったのがあるの。
「12人の中に女性も一人ぐらい入れて欲しかった」
だと。
・・・題名・・・変わっちゃうだろ・・が!
もう1コ。
「12人の俳優の顔の判別がつかなくて・・・」
・・・観るな・・・って!
あれだけ個性的で役柄にピッタシ連中の“ドコが!”判別つかんかのぉ~~~!
S・ルメット監督がそんなこと聞いたら、大泣きに泣くよ~~!!
今回は「法廷映画ベスト・セレクション」というのをTBしてみました。勿論本作はベスト1であります。もう一つのベスト1もありますが。
最後になって初めて名前を聞くのが良いですね。暑い晩に涼しい人情の風が吹く。良いなあ。
あまりに強烈でその夜は
アクションがないのに、息詰まる感じ、汗ばむ感じがすごかったですね。
私にとって「名作は子供が見てもわかる」・・という良き見本でした。
リメイクはど~~よ??