テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

インテリア

2006-09-03 | ドラマ
(1978/ウディ・アレン脚本・監督/ジェラルディン・ペイジ、E・G・マーシャル、ダイアン・キートン、メアリー・ベス・ハート、クリスティン・グリフィス、リチャード・ジョーダン、サム・ウォーターストン、モーリン・ステイプルトン/93分)


 「ボギー!俺も男だ(1972)」(←未見)の風采の上がらない容貌から、些細なことをアレコレといじくり廻す自虐的なコメディ作家とのイメージがあったウディ・アレン。「アニー・ホール(1977)」でオスカーも獲り、その後の作品も批評家の評判は宜しいのでかつてのイメージは消していたのですが、どうにも食指が動かない人でした。
 今年3月、TVで放映された「ギター弾きの恋」が良くできた映画だったので俄然気になる作家になり、よくお邪魔するブログで最近この作品が取り上げられていたのでレンタルしてみました。ツ○ヤの旧作半額サービスで、ちょいと寄ったつもりだったんですがね。

 『♪あなた色にわたしを変えて・・・』なんていう歌謡曲が昔あったような気がするが、この映画に出てくる奥さんは、旦那さんはもとより3人の子供も自分色に染めていないと気がすまない女性だ。仕事はインテリア・デザイナー。勿論、自宅のインテリアも海辺の別荘も全て自分色に揃えている。
 高嶺の花だった女性と結婚した旦那は奥さん好みの男になることに何の躊躇もないし、子供たちも幼いうちはお母さんの言うことを聞いていただろう。しかし、時は移り子供も大きくなり自我に目覚める。仕事を始め、彼氏が出来、結婚もする。実業家として社会で働くご亭主もいつまでも奥さんの言いなりになるわけがない。これが世間一般の常識だが、どうやらこの奥さんには家族の変化が受け入れられなかったらしい。
 娘の旦那のシェービング・フォームの種類にまで口を出すようになった妻に、ついに夫は別居を提案する。他人(ひと)の心には無頓着なくせに自分が拒絶されることには酷く傷つくという妻の性格を知っている夫は、“試験的別居”という言葉を使うが、聞いている娘達はそれが最後通告であると分かっている。

 映画は、旦那の別居の提案から精神に不調を来した奥さんが、数ヶ月の療養所生活を経て退院した後からスタートする。奥さんの名はイブ(ペイジ)。ご亭主はアーサー(マーシャル)。還暦前後の夫婦である。
 子供は三人。いずれも女性で、長女レナータ(キートン)は詩人で旦那のフレデリック(ジョーダン)も小説家。フレデリックの才能をレナータは認めているが、本が売れないので旦那本人には不満が溜まっている。政治関係の仕事(ジャーナリストか?)をしているらしいマイク(ウォーターストン)と暮らしている次女ジョーイ(ベス・ハート)も、創作意欲はあるが思い通りにできなくていつもイライラしている。三女フリン(グリフィス)だけは独身で、TV映画の女優をしている。

 久しぶりにジョーイのマンションにイブがやって来るが、高価な花瓶を抱えて来て、『玄関にどうかしら?』などと相変わらずの言動。今までも勝手に選んだ電気スタンドを持ち込まれたり、フローリングも何回か変えられていたので、マイクはうんざりする。シンメトリーに束ねられた髪型がまさに完璧主義者のイメージで、ジョーイとの会話も含めて冒頭のこのイブ紹介のシーンは極めて印象深い。
 ギリシャ旅行から帰ってきたアーサーに元気になったところを見せ別居解消を願っていたイブだが、優しく応対してくれるものの、アーサーからはそのような話はない。再び落ち込んだイブは今度はガス自殺を図るのだった・・・。

 と、こんな感じで深刻な話が続きます。イブはある種の精神障害なのでしょうが、そういえば「普通の人々」の主婦もイブと同じように家族の内面に無頓着な女性でしたな。
 イブは最後までアーサーとの復縁を望んでいて、娘達は何とか母が自立することを期待している。アーサーとの復縁はイブ自身が構築してきた世界の建て直しであり、それなくしては彼女の人生は無になってしまうのだ。

 殆どのシーンが室内で展開され、背景は何もない壁、或いは整然と配置されたインテリアが並ぶ。飾りのBGMは何もない。本音を吐き合う会話が流れ、バスト・ショットかクロース・アップで表情を追ったという画作りが続き、アレンはタイトル通りに登場人物の内面のみに興味があるようだ。
 観る方も体力がいるが、作る方も相当神経を使ったでしょうな。この時アレン43歳。作家としての意気込みが感じられる画でした。

 レナータやジョーイの創作活動に関する心理、母親に対する心理は分ったようでその実充分な自信もない。この辺は宿題にしときましょう。フリンは独身ということで夫婦の葛藤もないために中盤以降しか出て来ない。
 どのシーンにも神経が行き届いているが、特に面白くなるのはアーサーが再婚予定の彼女パール(ステイプルトン)を連れてきてから。文学や映画の話題についていけないパールをジョーイは俗人として見下しているが、心なしかパールが出てくるシーンにはミドル・ショットが増えてきて、陰鬱なムードも少なくなる。比較的冷静に受け止める長女と拒む次女。はたしてパールの出現は家族の崩壊となるのか、それとも再生か。
 イブのペイジは文句なく凄い演技だったが、ステイプルトンも存在感があったなぁ。

▼(ネタバレ注意)
 イブは一命を取り留め、後遺症もなく退院する。その後イブは宗教に救いを求めるようになる。

 中盤以降はどのシーンも見応えがある。アーサーが初めてパールをレナータの家に連れてくるシークエンス。イブに誘われて行った教会でアーサーが正式に離婚を申し出て、再婚相手がいることがばれるシーン。そして、アーサーとパールの結婚式の夜のシークエンス。

 きめ細かすぎてココには書ききれないが、登場人物それぞれの描き分けは見事なもんでありました。

 海辺の別荘での結婚式。殆どの家族が寝静まった頃、こっそりやって来たイブをジョーイが見つける。それまで娘達の中で一番同情的であった次女が母に辛辣な言葉を投げかける。イブは部屋の中に入らず外へ出て、そのまま海に向かう。あわてて後を追うジョーイ。

 入水自殺をするイブを追って本人も溺れかかるジョーイを助けるのがパール。実は彼女が登場人物の中で最も常識的であり、現実的な対応が出来る人間であったという描き方。
 アレンのバランス感覚の健全さにホッとしましたな。
▲(解除)

 1978年のアカデミー賞では、監督賞、脚本賞の他、主演女優賞(ペイジ)、助演女優賞(ステイプルトン)などにノミネートされ、NY批評家協会賞、LA批評家協会賞ではモーリン・ステイプルトンが助演女優賞を受賞したとのこと。

 E・G・マーシャルは「十二人の怒れる男(1957)」での陪審員4番が最も印象深い。モーリン・ステイプルトンは「大空港(1970)」。確か盗癖のある女性の役だったかな?
 サム・ウォーターストンはもうすぐTV放映のある「キリング・フィールド(1984)」のジャーナリスト役が忘れられない。「華麗なるギャツビー(1974)」が彼を最初に観た作品だった。アレンの「ウディ・アレンの 重罪と軽罪(1989)」にも出ているらしい。

・お薦め度【★★★★★=大いに見るべし!】 テアトル十瑠

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4 コメント

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Unknown (オカピー)
2006-09-04 18:42:34
早速実行されましたね。

最初に観た時はまだ映画について修行中といった感じの20代前半でしたので、端正な面持ちに腰を抜かしました。こんなアメリカ映画は観たことがないと。

しかし、クロースアップ、バストショットに時に挿入される波。正に70年代のベルイマン・タッチですなあ。ベルイマン・タッチの現代版チェーホフ。これがこの作品に対する私の結論です。
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Unknown (viva jiji)
2006-09-04 18:55:08
ご覧になりましたのね。

良かったでしょう!

身が引き締まる思いで私も先日鑑賞しました。

泣いたり笑ったり怒ったりウヒヒ・アハハ映画も確かに楽しい。

でも私は本作のような傑作でたまに脳内を「清浄化」してもらいます。(笑)



TBはキラワレたようです。ハハハ。(笑)
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オカピーさん (十瑠)
2006-09-04 21:58:40
子供に付き合ってレンタルショップに行ったら見つけてしまいました。これは『観ろよ』という合図かと・・・。



あの波、意味合いは違いますが、「津軽じょんがら節」を思い出しましたね。ラストの波と寝静まっている家族の寝顔とのカットバックは強烈でした。



ベルイマンは「野いちご」しか観てないんですよ。機会が少ないのも勿論ですが、深そうなテーマが二の足を踏ませています。20代の初めに観たきりなので、必ずもう一度観ようとは思ってますが。
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viva jijiさん (十瑠)
2006-09-04 22:16:41
オカピーさんとこにはTBも出来ないし、コメントにURLも入れられないんですよ。viva jijiさんとこにはコメントにURLが入るから、まだコミニュケーションがやりやすいです(笑)。



イイ映画だとは思いますが、メインのあのお母さんが病的で観るのが辛い部分もあります。時間を置いて観ると又今回とは違うものが見えてくるでしょうね。

ウディ・アレンの顔は見たくないけど、彼の出演作品も見なきゃいけなくなりましたな。
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