テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

おくりびと

2009-09-24 | ドラマ
(2008/滝田洋二郎 監督/本木雅弘、広末涼子、山崎努、余貴美子、吉行和子、笹野高史、杉本哲太、峰岸徹、山田辰夫/130分)


 <ネタバレ有ります>

 今年2月の米国アカデミー賞において外国語映画賞を受賞した話題の映画が、地上波でノーカット放送。これは観ぬわけには参りませぬな。ネットでは毀誉褒貶相半ばする映画でもあり、先入観を持たずに観ましたが、これは久々の佳く出来た日本映画でありました。

 念願のチェロ奏者となって楽団に入った主人公が、突然のオーナーによる解散宣言で失職、ウェブ・デザイナーをしている妻と共に故郷の山形に帰って演奏者以外の仕事を探すことになるが、新聞広告で見つけた「旅のお手伝い」という旅行関連らしき仕事は意外にも・・・という、皆さんご存じのお話です。「旅のお手伝い」は安らかな冥土への旅立ちのお手伝いでしたね。

 近年流行の自己再生もの。しかも“納棺師”という職業柄、沢山の人の死が描かれ、そこには様々な家族模様、人生模様もうかがえる。加えて、“納棺師”の仕事に感謝する人もおれば、謂われのない差別を口にする人もいて、主人公の再生物語に少なからぬ影響を与える。映画の脚本は初めてだという小山薫堂の構成が秀逸ですね。

 オープニング・クレジットの前に若い女性(?)の納棺の儀式が出てきまして、実はそれは男性だったというオチがつく、ちょっと間違うと下品なコントのようなシーンがあり(これは中盤に出てくるシーンのさわりでした)、その後もどことなく滑り気味のユーモアを交えながらの語りが続いて、どうなるものかと観ていましたら、死後2週間を経過した老婆の遺体と対面する辺りから、徐々に引き込まれていきました。

 故郷で久しぶりに会った同級生や、冠婚葬祭関係だと濁していた妻にも、やがて新しく就いた仕事が“納棺師”という死人を相手にするモノだと知れる。同級生には『も少しましな仕事を探せ』と言われ、妻には『汚らわしい』と身体を触ることさえ避けられる。
 “納棺師”の仕事に意義を見いだしつつあった主人公も、妻に実家に帰られ、顧客のあからさまな差別的発言に一度は辞めようとまで思うが、ある事件をきっかけに妻や同級生の理解を得ることが出来る。人の死は別世界の特別なことではなく、誰にも訪れる身近なものなのだ。厳かに、そして思いやりを持って仕事をこなす“納棺師”を、最後には妻も誇りをもって認めるのだった。

 『夫は納棺師なんです』

 生き別れた父親まで出してはこないだろうとの安易な予想は覆されましたが、ベタな展開もあの妻の台詞の為だったんですねぇ。但し、直前の余貴美子のエピソードは作り過ぎな印象が残りました。
 あの後、彼女は一度は帯広に帰るんだろうな。
 湿っぽくない別れが幾つも描かれ、自然と涙腺が緩んできました。歳のせいではないですよね





 主人公の小林大悟に本木雅弘、妻の美香に広末涼子、山崎努は大悟の勤める会社NKエージェントの社長、余貴美子はNKの事務員、杉本哲太は故郷の同級生で、その母親が吉行和子、笹野高史は吉行和子が切り盛りしている銭湯の常連客でした。

 2008年の日本アカデミー賞で、作品賞、監督賞、脚本賞 、主演男優賞、助演男優賞(山崎)、助演女優賞(余)、撮影賞(浜田毅)、照明賞(高屋齋)、録音賞(尾崎聡、小野寺修)、編集賞(川島章正)を受賞。その他主演女優賞、音楽賞(久石譲)、美術賞(小川富美夫)にもノミネートされたそうです。

 滝田洋二郎監督については殆ど知りませんでしたが、かつてはピンク映画などで下積みを経験したそうで、外国語映画賞受賞の騒動の時にはワイドショーのコメンテーター、山本晋也が滝田の助監督時代のエピソードも披露していました。
 「陰陽師」シリーズや「壬生義士伝 (2002)」も手がけ、「お受験 (1999)」、「病院へ行こう (1990)」、「木村家の人びと (1988)」なんちゅうのも彼の作品とのこと。内田裕也主演の「コミック雑誌なんかいらない! (1986)」も、タイトルだけは記憶にあります。
 それと、何でもいいからチェロの曲を聞きたくなりましたネ

・お薦め度【★★★★=友達にも薦めて】 テアトル十瑠

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4 コメント

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あの奥さんの発言が…。 (万葉樹)
2009-09-24 19:19:16
広末演じる妻の「汚らわしい」発言(生まれてくる子供が虐められるなど、自分の偏見を子供に転化しているあたり、母親として情けない)には気色ばんでしまうけれど、終盤、夫の真摯な仕事ぶりに心うたれて励ます方に回るのは、よかったですね。

仕事人だけでなく、夫として、また未来の父親としての威厳を確立しようとする物語だったといえるのかもしれませんね。

日本人にある職業差別観を暗に批判しているようにも感じました。

あってもなくてもいいような艶めいたシーンは、ピンク映画監督時代に培ったサービス精神だったのでしょうか?
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「汚らわしい」 (十瑠)
2009-09-24 21:04:33
モチーフとなったという本は本木君が数十年前に出逢ったものらしいですから、この仕事に対する偏見というのは昔の話なのかも知れませんね。最近の人は「汚らわしい」なんて言葉使わないような気がしますから。

>あってもなくてもいいような艶めいたシーンは、ピンク映画監督時代に培ったサービス精神だったのでしょうか?

食べる事に関するエピソードと同じく、アレもまんざら唯のサービスカットではないように思いました。悲惨な死を目にした後の大悟が、死の対極にある生の営みの一つとして、性を求めたのは偶然ではないでしょう。
涼子ちゃんにはあんまり興味はなかったですが、それなりに艶っぽいのは嬉しかったです
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TB&コメント有難うございました。 (オカピー(プロフェッサー))
2009-09-25 01:06:29
性格が素直で、常識があり、通常の理解力がある人であれば、面白いであろうし、良く出来た映画と思うのではないでしょうか。
近年の邦画の中では充実した出来栄えでしたね。「ゆれる」みたいに鑑賞力を試されるような作品も面白いですけど。

>滝田洋二郎
上に十瑠さんが挙げた作品は全部見ているなあ。
世間で評判の悪い「陰陽師」なんかも楽しんだ観た口です(二作目は今一つ)。

>性を求めたのは偶然ではないでしょう。
そうですね。食と性は生そのものですから。
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おはようございます (十瑠)
2009-09-25 08:27:37
「allcinema-online」のコメントより、「CinemaScape-映画批評空間-」のコメントの方が真っ当な意見が多かったのが面白かったです。

「釣りキチ三平」は漫画の方を殆どみているんで(親戚の子が単行本を全部持ってました)、ちょっと興味を持ってます。
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