はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
牧知花&はさみのなかま名義の作品、たっぷりあります(^^♪

番外編 甘寧の物語 その1

2024年02月22日 09時55分53秒 | 番外編・甘寧の物語
甘寧《かんねい》は、字を興覇《こうは》といって、もともとは、益州のちょうど南東部に位置する、江水のほとりに栄えた巴郡臨江《りんこう》の人物である。
北方を吹き荒れる暴虐の嵐に揉まれることのすくない土地に生まれ育ちながらも、甘寧の気性はたいへんに荒く、短気で、武を好む気質であった。


ちょうど街道沿いに臨江があったこともあって、街はゆたかで、甘寧がのぞめば、たいがいのものは手に入った。
ただし、手に入るものは、甘寧が汗水たらして稼いだ金で得たものではない。
甘寧の手にするものは、たいがいが恐喝まがいの行為で得たものだった。
さもなくば、甘寧とその一党の威勢をおそれた土地の権力者が、上納金のようにして、一党にあたえたものである。


甘寧は、若いころから無頼のやからと徒党をくんで、臨江の周辺を我が物顔で闊歩《かっぽ》していた。
巴蜀といえば、のちの貿易でも有名になるように錦が名産であるが、甘寧も、このきらきらと日に照り映える美しい衣が大好きで、とくに派手な色合いの服を好んで身につけた。
手下たちにも、それぞれに好みの衣をまとわせて、みなで大路をずらりと並んでうろつくのである。
さらには、それだけではつまらないと物足りなさをおぼえるようになる。
甘寧は鍛冶屋にとくべつに注文して鈴をつくらせ、一党全員に、腰にぶらさげるように命じた。
田舎町のことであるから、派手な錦をまとい、腰にがらんがらんと派手な鈴の音をさせてあるく甘寧たちを知らない者はいなかった。


河のほとりに住んでいるから、交通手段として、船は重要なものである。
甘寧は、船出をさせるときに決まって儀式をした。
纏《まと》っていた高級品の錦の衣をぱっと役者のように脱ぎ捨てて、いきなりぐるぐると糸のように手巻くと、惜しげもなく、舟の綱の代わりにするのである。
そうして、見る人々が唖然としているなかで、腰に佩《は》いている刀をすらりとぬくと、
「船出だ!」
と大音声で呼ばわり、さらには錦の衣でこさえた綱を、あざやかに切り捨ててしまうのだった。


かれらが歩けば、そのあまりの威勢のよさに、犬すらも振り返るという具合。
眉をひそめる者もいたけれど、退屈な田舎町では、甘寧の派手な言動は、むしろ娯楽のように受け止められていた。
甘寧は、つぎに何をするだろうか、というわけである。
そこが甘寧の得なところであった。
面倒見がよいから子分たちにも慕われ、知恵もはたらく。
そのため、いつしか自然と、町の用心棒のような仕事を請け負うようになっていた。


甘寧は、ただの乱暴者というだけではなかった。
むやみやたらに乱暴を働くことはこのまなかったのである。
北の地をさわがせている、黄巾党とかいう不埒なやからなんぞとは、俺たちはちがうのだぞと、いつも思っていた。
そのため、街の人からすっかり嫌われるということもなかった。


そうして、若く華やいだ時期を思う存分に楽しんでいた甘寧だが、年を経て分別がついてくると、いろいろと自分の将来について考えるようになっていった。
そこで、土地の名士のところに頭をさげて、さまざまな書物を借りてくると、片っ端からそれを読みふけりはじめた。


もともとが、飲み込みの早い性格であった。
だが、短気で、すこしばかり早とちりなところもあった。
名士の貸してくれた書物のわずかばかりの知識に啓発され、甘寧は思った。
『やはり男子たるもの立派な主君に仕えて、忠節を全うするのが本分だ。
あらゆる書物が美点だと褒め上げている性質は、俺は生まれながらに備えているのではないか?
義に厚く、人徳もそなわっていて、そのうえ気前がいい。
腕っぷしだってだれにも負けないし、知恵だって、われながらけっこうあるぞ。
俺ほどの人間ならば、おそらくはどこへ行こうと、たちまち重宝されるだろう』


臨江の町に、この甘寧の思い込みを真正面から糺《ただ》せる人間はいなかった。
それが、不幸だったのか、それとも幸運だったのか……それはわからない。
ともかく、甘寧は、これまで徒党を組んでいた手下たちに、おのれの志《こころざし》を告げた。
そして、とくに見どころのある者たちをつれて、まずは益州牧の劉璋のもとへ、意気揚々と向かったのであった。


つづく

※ いつも閲覧してくださっているみなさま、どうもありがとうございます(^^♪
本日より「番外編 甘寧の物語」スタートです。
だいたい今月末くらいまでの連載となりますv
趙雲、孔明といった面々は登場しませんが、たのしんでいただけたならさいわいです。
(飛鏡、天に輝くの序章として発表した作品のリメイクです)

ではでは、次回もおたのしみにー(*^▽^*)


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