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はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
牧知花&はさみのなかま名義の作品、たっぷりあります(^^♪

赤壁に龍は踊る・改 一章 その12 説得 その2

2024年12月24日 10時10分50秒 | 赤壁に龍は踊る・改 一章
「孔明どの」
孔明から目線を外さず、孫権は静かに言う。
「そこまで言うのなら、貴殿らが戦えばよいではないか」
「戦うつもりでおります。たとえ地の果てに追いやられようと、われらは戦うことを止めませぬ」
「なぜに」
「知れたこと。われらが劉備は、漢王室の末裔だからです。
父祖の名誉のためにも、降伏はしない。だからこそ、当陽でも万を超す兵を相手に戦ったのです。
降伏するのは臆病者のあかし。われらには、偽の漢の丞相に屈する膝はない。
それは将軍もおなじではありませぬか。
何を悩まれます? 重臣の方々が、将軍に開戦を思いとどまらせようとしているからですか」
「ほかの者は関係ないっ」
不快さをあらわにして、孫権は言った。
「わたしが劉豫洲《りゅうよしゅう》(劉備)とはちがい、臆病者だというのか!」
「ちがうというのであれば、答えは明解ではありませぬか。開戦。ほかに選択肢はない!」
「しかし!」
「しかし、なんだというのです? 
将軍が降伏すれば、曹操はうまうまと血の一滴も流さず江東の地を手に入れましょう。
やつは荊州《けいしゅう》でそうしたように、この地の豪族らもうまく手なずけようとするでしょう。
しかし、将軍はどうでしょうな。そのあたりをどうぞご考慮ください」
「わしがどうなると?」
「それは、ご自身で考えられたがよろしいでしょう」
孔明が頭を下げると、孫権は忌々しそうに顔をゆがめ、
「更衣に行くっ」
と立ち上がって、去ってしまった。
そのあとを黄蓋と魯粛が追いかけていく。


残された孔明と趙雲は、孫権のいなくなったあと、しばらくたがいに黙って緊張の余韻をあじわっていた。
ほどなく、趙雲のほうが口をひらいた。
「あれでよいのか」
「よい。もう一押しだ」
いや、魯粛が追いかけていったからには、もう大丈夫かもしれないと、孔明は思った。
絹の衣の下は汗だくである。
もう秋も深いというのに、日の差さない奥堂にいながら、すこしも寒さを感じない。
「子龍、仮に将軍がこころを変えず、われらの首を曹操に送らんとしたなら、悪いがひと暴れしてくれないか」
「もちろんだ、おまえといっしょに夏口へ帰るぞ」
「いや、それではわたしがあなたの足かせになってしまう。
あなただけでも、なんとしてもわが君のところへ戻ってくれ」
「そんなことができるか。主騎の名が泣く」
「泣くだろうが、しかし、そこをあえて命ずる。なんとしても、夏口に帰れ。よいな」


趙雲がなおも反駁しようとしたところへ、足音がふたたび近づいてきて、孫権と魯粛、そして黄蓋が戻って来た。
黄蓋の顔は固く緊張していて、孫権の表情も、さきほどよりもっと蒼かった。
だが、その後ろに控えている魯粛の顔色を見て、孔明はほっと肩の力を抜く。
魯粛は黄蓋と孫権に気取られないようにしながらも、満面の笑みを見せていた。


「孔明どの、わたしの心は決まった」
孫権は震える声で言う。
更衣に立ったあと、魯粛はなにか決定的なことを孫権に告げたらしかった。
声が震えているのは、恐怖のためというより、怒りのためだということは、そのこめかみに浮いた青筋でわかる。
「開戦じゃ。劉豫洲にも、その旨、すぐに伝えてくれ」
「では」
「貴殿らと組み、曹操に目にもの見せてくれよう!」
孫権は目を怒りでぎらぎらさせて、吼えるように言った。


つづく

※ 孫権の説得に成功し、さて、使命を果たした孔明ですが、このあとは前作とちょっとだけちがう展開になっていきます。
どうぞおたのしみに!
そして、メリークリスマスですねー! と言っても、わが家はささやかに、いつもよりいい食事を作って食べるだけ……
みなさま、よいクリスマスをお過ごしください(^^♪


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