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はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
牧知花&はさみのなかま名義の作品、たっぷりあります(^^♪

臥龍的陣 涙の章 その52 龍、吼える

2022年11月10日 10時00分56秒 | 英華伝 臥龍的陣 涙の章
「詭弁だ! 間諜や刺客の効用を貴様と論議するつもりはない。貴様は戦を理由に、さも天命を与えるが如く平然と、無辜の民から子を、親を奪った。
それのどこに大義がある? 正義がどこにあるというのだ!」
「なんとくだらぬ甘い言葉か。もし儂が『壷中』のことを民に伝えたとしても、民は、それが自分たちのためになっているのであればと、同情はするであろうが、怒ることもなく、それを受け入れるであろう」
「ならば、なぜいままでそうしなかった。『壷中』を隠すために必死になっていたのはなぜだ? 
貴様は、自分のことばに嘘があることを知っているのだ。
表面では清流のふりをして仁君を気取りながら、裏ではその荊州の守り手である『壷中』を欲望のはけ口にし汚しつづけた。
まさにその身に沁み込んだ毒が、貴様の下劣さを証ししているようなもの。
すでにそのこと事態が、貴様の穢れた舌の吐き出す言葉を否定しているのだ! 
わたしは貴様に与えられた平和を、なにより恥に思うぞ!」

孔明の言葉に、劉表の顔が蝋のように白くなった。
「お前は、決して殺させぬ」
低くうなるような声で、劉表は言った。
「自害も許さぬ。狂うことも許さぬ。ありとあらゆる方法で引きむしり、人が近づくたびに、怯えて泣き叫ぶ宦官にしてくれよう。
それから玄徳に送り返してやる。
恥をしみこませた己が身を新野で晒し、とっくりと、いまの言葉を、儂に向けたことを後悔するがよい」

孔明はそのことばにむしろ、笑顔を見せた。
「やってみるがいい。わたしは龍に|喩《たと》えられた男だぞ。
只人である貴様如きに、わたしを潰せるはずがない」
「強がりを」
「貴様は叔父を殺した。そうしていまは、わたしの心を殺そうとしている。
だが、貴様が如何にわたしを殺そうとしても、わたしの心は、貴様になど手の届かぬ高みにある。
いいや、わたしだけではない、どんな人間の心も、貴様は得ることもできなければ、殺すこともできない。
貴様が他者の命や心の尊さを嘲いつづけるかぎり、貴様は永遠に生き地獄に生きるのだ!」
「黙れ!それほど望むのであれば、いますぐ辱めを与えてくれようぞ! 
おまえたち、この男の両の目をえぐってしまえ!」

少年たちはその言葉を受けて、無言のまま、孔明を引き立てて、部屋の中央へ引きずり出そうとする。
孔明は、おのれの腕を掴む少年たちに叫んだ。
「君たちは、己の身の上に疑問を感じないのか? 
なぜ、こんな下劣な男の言うがままになっているのだ! 
家族を奪われ自由を奪われ、誇りすら奪われて死ぬことが、君たちの望みではあるまい!」

しかし返答はない。
少年たちにとっては、劉表の命令は『作業』なのだ。
ひどく事務的に、淡々と孔明を引きずろうとする。
そこにはなんの熱もなく、だからこそ、少年たちの心の底辺に絶望を感じ取り、孔明はさらに憤る。

「なにが君たちを沈黙させているのだ? 恐怖か? それとも絶望なのか? 
外の世界のことを教えてやろう! 中原の曹操が、荊州を奪うべく明日にでも軍を進めてくるかもしれぬ。
なのに見たまえ、この男は州牧という地位にありながら、もはや自ら立ち上がることもできず、君らに守られるばかりなのだ。
こんな男にもはやなにも力なんぞない! 君らが怯える必要など、もうなにもないのだ! 
もはや誰からも救いがないと思っているのならば、それはあやまりだ。
わたしが君たちを救おう! わたしはそのために戻ってきたのだ。
もしも君たちがわずかな希望をまだ胸に残しているのならば、わたしの言葉に返事をするがいい。
わたしはかならず君たちに応えよう!」

これから、拷問を受けるとわかっている男のことばではない。
怯えが微塵も感じられない、堂々とした態度に、劉表の言葉どおり、引きむしろうとしていた少年たちも、うろたえているのが判る。

孔明の口を塞ごうと、手が伸ばされてくるが、孔明はそれを振り切り、なお叫ぶ。
「わたしには、この男にはない技術を持っている。
それは生き残るための技術だ。
こんな男の命令に唯々諾々と従って、死ぬことはない。わたしを信じろ!」

その様子を、なにが可笑しいのか、劉琮は足をばたばたさせて笑い転げて見ており 、劉表は、耳を貸すな、早くしてしまえ、と苛立って叫ぶ。
それを上回る大音声で、孔明は叫んだ。
「わたしは絶望などしない、絶対にしない! 
もしもわたしが絶望する時が来るとすれば、それはこの世が終わる時だ!」

つづく


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