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はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
牧知花&はさみのなかま名義の作品、たっぷりあります(^^♪

地這う龍 四章 その17 英雄の帰還

2024年02月11日 09時51分26秒 | 英華伝 地這う龍



趙雲の行く手に、よく顔の似た、大男二人組があらわれた。
「おれは鍾晋《しょうしん》だ」
「こっちも鍾紳《しょうしん》だ」
似たような声で自己紹介する男たちに行く手を阻まれ、趙雲は小さく舌打ちをした。
というのも、これまでがんばってくれた馬が、そろそろ限界にきていることがわかったからだ。
あまり長くは戦えない。
第一、趙雲自身も疲れ始めていた。
張郃《ちょうこう》という気の抜けない相手と長く戦いすぎたせいである。
あいつさえいなければ、曹洪《そうこう》の首をとれたものを。
そしたら、この惨状に一矢報いることもできただろうに。
そう思うとむかむかした。


大男たちは二手にわかれて、趙雲を右と左で挟撃しようとする。
「もうすこしがんばってくれよ」
趙雲は、馬の首を軽く撫でてから、一気に動き出した。
鍾晋のほうが槍を突きだし、鍾紳のほうは矛を突き立ててくる。
とはいえ、両者の動きは連動しておらず、ばらばらだったのがさいわいした。
趙雲は、まず鍾晋の槍を避けると、自身の槍で薙ぎ払い、そのまま、矛を突き立ててきた鍾紳の刃をも受け止めてから、力任せに払った。
かれらが馬上で均衡を崩したのが見えたので、返す刀で鍾晋の首に斬りつけ、一方で、追いすがってくる鍾紳の胴に槍の柄を叩きつけ、馬から落とした。
鍾兄弟は、もう動かなくなった。


愛馬の足がだんだんゆるくなってきている。
すでに麋竺たちは長阪橋を超えたことだろう。
自分も早く合流しなければ。
曹操が自分を捕えようとしてくれたのは、幸運だったなと思う。
弓矢を射かけられていたら、きっとどこかで倒れていた。
『曹操に感謝する日が来ようとは』
そう思うと、おかしかった。


背後で、どどどどど、と騎兵の追撃してくる音が聞こえてくる。
振り返ると、それぞれ『張』『許』の文字の染め抜かれた旗がひるがえっている。
張、というのは、さきほどの張郃のことか、あるいは張遼のほうか、わからなかったが、許というのは、虎痴将軍《こちしょうぐん》と呼ばれている男のほうだろうと見当がついた。
どちらにしても厄介な追撃相手である。
まともに戦える体力が、さすがに残っていない。


前方にようやく長阪橋が見えてきた。
その橋の中央には、張飛が蛇矛片手に、勇壮な姿で立ちはだかっていた。
近づくと、張飛は大きく破顔した。
「よくぞ生きていたな、子龍! 兄者がお待ちかねだぞ!」
「みなは無事なのだな」
「あらかた、この先の安全な場所へ逃げておる。あとはおれに任せろ」
孔明のいない状況で、たったひとり橋の上にあり、なにか策でもあるのだろうかと趙雲はいぶかしんだが、自信満々の張飛の笑顔を信じることにした。


そして、転げるように橋を渡り、馬を降りると、生き残っていた兵たちや民衆から、大歓迎を受けた。
ちゃっかり生きていた、例の旅装の大男もいて、しきりに、
「すごい御仁だ、まったく、すごい御仁だ」
とほめちぎってくれていた。
おなじく、生き残っていた張著《ちょうちょ》が差し入れてくれた水をおおいに飲んでから、身づくろいする間もなく劉備の元へと向かう。
足取りはふらふらで、視界もぐらぐらしている。
だが、劉備の無事を確かめるまでは、倒れることはできなかった。


劉備は楠木《くすのき》のもとに座っていた。
趙雲の留守のあいだ、陳到が劉備の身辺を固めていたようだ。
陳到はめずらしく涙でぐしゃぐしゃの顔をして、趙雲が身体を引きずって歩いてくると、肩を貸して助けてくれた。


「子龍、よく生きて戻ってくれた!」
劉備は感激で声をふるわせている。
その腕には、阿斗がすやすやと眠っていて、趙雲はこころから安堵した。
麋竺《びじく》も麋夫人《びふじん》も、劉備に会うことができたのだ。
守ろうとしたものを、守りきれたという達成感があった。
劉備はことばが出ないらしく、小刻みに震えていた。
しばらく滂沱と涙をながし、趙雲を見ている。


が、なにをおもったか、とつぜんにその腕の赤ん坊を地面に投げ捨てようとした。
振りかぶったところで、控えていた陳到と、麋竺が劉備の腕をがっしり掴む。
「御乱心か、わが君っ!」
「ええい、放せ、この赤ん坊のせいで、天下無双の士を殺してしまうところだったのだぞ!」
「いいえ、赤ん坊に罪はございませぬっ、我が妹が命を賭けて救った和子です! 
どうぞお心をお鎮めくださいっ」
麋竺もまた、泣きながら抗議する。
すると、劉備は、涙を隠さないまま、叫んだ。
「子供は何人でも作れる! だが、天下無双の勇士は得るのはむつかしい……まして、純忠の士なら、なおさらだ! 
子龍よ、おまえはわしのなによりの宝だ。
その宝を、このつまらぬ赤ん坊のために失うところであった。それがわしには、許せぬのだ」


趙雲は、顔を真っ赤に染めて叫ぶ劉備を見上げ、やがて視界が大きく揺れていくのを感じた。
涙がぽたぽたと地面に落ちる。
これほどまでに、劉備は自分を大切に思ってくれているのだということが、心からありがたかった。
「勿体なきお言葉……!」
声が詰まる趙雲の手を取って、劉備は涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔をして、言った。
「よく生き残ってくれた! つらい戦いであったろうに、ありがとうっ!」
趙雲はその言葉を聞くまで、興奮状態であったこともあり、自分がつらいとか、苦しいとか、そんなことはみじんもおもっていなかった。
だが、劉備のことばで、緊張がほどけた。


つらい戦いをしのいだのだ。
身を削るような戦いだった。
よく生き残れた。
なにより、わが君が喜んでくださっているのが、うれしい。


「この子龍、これからも一身を賭して、わが君にお仕えする所存です」
おのれの手を熱く握る劉備の手を、自分もがっちり握り返し、趙雲は言った。
その目からとめどなく涙があふれてきて、止める術を知らなかった。




つづく


※ いつも閲覧してくださっているみなさま、ありがとうございます(^^♪
ブログ村に投票してくださった方、サイトのウェブ拍手に昨日18時頃拍手を送ってくださったみなさまも、ほんとうにありがとうございます!(^^)!
とても励みになっています!
まだまだ「毎日更新」をあきらめておりませんよー。
いろいろあがいておりますので、近々続報をお届けできるかと思います。
精進してまいりますので、今後も応援していただけますとうれしいです!

さて、長坂の戦い、終盤に近付いております。
しかし、まだまだ話は終わらない……!
明日は張飛のエピソードです。
どうぞ次回もおたのしみにー(*^▽^*)

地這う龍 四章 その16 いまは地に這うもの

2024年02月10日 10時09分17秒 | 英華伝 地這う龍
趙雲もまた、自分めがけてやってくる武者の姿に気づいたようである。
雑兵《ぞうひょう》を片付ける手を止めて、振り返る。
その返り血を浴びた顔には、人間らしい表情の揺れはない。
「貴殿は、平狄将軍《へいてきしょうぐん》の張郃《ちょうこう》どのであったな」
混乱の中心にあってなお、声が震えるわけでもなし。
その胆力に、張郃はおもわずごくりと唾をのんだ。
「そうだ。常山真定《じょうざんしんてい》の趙子龍、久しいな」
「先へ急ぐ。そこをどいてもらおう」
「たわけたことを! これより先には進ませぬ! その首、土産に置いていくがよい!」


言いざま、張郃はぶぅん、と槍で趙雲を薙ぎ払おうとした。
だが、趙雲は難なくそれを避ける。
張郃は舌打ちしつつ、槍をかまえ直して、今度は首もとめがけて槍で突く。
しかし、趙雲は自身の槍で、その攻撃を払った。
だが張郃はあきらめない。
つぎは胸元、次は腹、それがだめなら、また首元……と攻撃をつぎつぎと思いつく限り繰り出して見せるのだが、趙雲はこちらの心のうちが読めているのではないかというほどあざやかに、すべてをかわしてみせた。


激しい撃ち合いのなかで、さすがの張郃も認めずにはいられなかった。
おれがいま戦っているのは、すでに人の域からはみだした、なにかなのだ。
化け物、武神、魔人……そんなことばが、ぱっと浮かんではつぎつぎ消えていく。
もはや、さきほどまでたっぷりあった余裕は、みじんも残っていない。


張郃の背後では、曹洪《そうこう》が逃げようとしているところで、張郃が自分を助けに来てくれたと信じているらしく、
「すまぬっ、恩に着るぞ!」
と叫んでいた。
その声が震えているのは、恐怖から脱することが出来た安堵ゆえか、それとも嫌っていた男が助けに来てくれたという感激ゆえなのか。
わからなかったし、いまの張郃にはどうでもよいことであった。
何としても、目の前のこの怪物を倒すのだ。


汗が噴き出て顔じゅうを濡らす。
趙雲の攻撃のほうがあいかわらず優勢で、張郃の上半身の鎧に守られていないところが、ところどころ傷がつきはじめていた。
槍を持つ手がだんだんしびれてきている。
趙雲の攻撃があまりに強く、重かったために、それを受け続けた結果、手がしびれてきたのだ。
『こいつだって、疲れているはずだ。勝機はある!』
自分を励まし、なおも撃ち合いをしようとした、そのときであった。


銅鑼《どら》が激しくたたかれた。
撤退を合図する銅鑼だ。
なぜだ?


ちっ、と舌打ちをして目線だけ銅鑼のほうを見れば、曹洪自らが鳴らしている。
おれを助けるつもりなら、見当違いだぞ、といらだっていると、曹洪が無情に言った。
「曹丞相の命である、その武者を生け捕りにせよ、殺してはならぬっ」
「なんだと!」
おもわず声が出た。
と同時に、曹操の悪い癖が出たのだと、瞬時に察した。
曹操はともかく才覚のある士に弱い。
目の前で、そのきらびやかな才能を見せつけられると、乙女が美青年に恋するように、手中にいれねばと思い込んでしまうのだ。
自分のときも、その曹操の『恋』によって救われているだけに、なお心情は複雑だった。


「矢を射掛けるな、かならず生け捕りにせよ、逃すなっ!」
こいつを無傷で捕らえようとするのは、ムリだ。
張郃は声を大にして曹操に叫びたかった。
だが、当の曹操は高台の天蓋のなかにいて、こちらの声の届かないところにいる。
「お引きください、儁乂《しゅんがい》さまっ、曹丞相のご命令ですぞ!」
あくまで冷静な劉白《りゅうはく》が、張郃に必死に呼びかけてくる。


そのあいだも、趙雲は銅鑼の音にかまわず、張郃に攻撃をしかけてきていた。
趙雲もまた、張郃を好敵手と認め、なんとしても倒そうとかんがえているのが、気配で分かった。
『水を差してくれるものだ』
張郃はおのれの思考をまぜっかえして、それから、渾身の力で趙雲の一撃を跳ね返す。
「この勝負、いずれ!」
そう言うと、隙を見て場を離れた。


「それっ、網をかけよ!」
曹洪が指示をすると、歩兵たちがいっせいに、どこから用意した者か、網や縄を趙雲にいっせいに投げた。
それを振り返りながら見て、ああ、こいつもおしまいかな、と張郃は肩で息をしながら思った。
だが、趙雲は、腰にある豪勢な鞘から剣を抜き放ち、自分に投じられた縄だの網だのを、まるで抵抗なく切り払って行った。
だめだっ、とか、逃げられるぞっ、とか、そんな怒号がひびいた。
曹洪がきいきいと叫んでいるのが聞こえる。
「おのれ、青釭《せいこう》の剣か! きさま、それをどこで手に入れた!」
曹操がじきじきに夏侯恩《かこうおん》に下賜していたところを、張郃は見ていた。
夏侯恩の、どこか内面の特徴の出来きっていない青臭い顔が浮かぶ。
あいつは死んだんだな、と醒めた心でおもった。


趙雲は、自分への捕獲の命令が出たと知ると、前方の網をすべて切り払い、こんどは南へ向けて走り出した。
趙雲自身の胆力もすさまじいが、馬の体力も尋常ではない。
蹄《ひずめ》の音を高らかにさせて、趙雲と馬は張郃から遠ざかっていく。


『あいつを捕えられるものは、この戦場にはおらんだろう』
趙雲が、行く手を阻む将たちを、またつぎつぎと倒していく姿を眺めつつ、張郃は苦く思った。
『やつのあざなのとおり、龍のようなやつだ。
いまでこそ地に這い蹲《つくば》っておるが、やがて飛翔してとんでもないところへ到達するであろうよ』
張郃は、自身の勘の良さを信じている。
だからこそ、趙雲が生き残ることも予感できたし、また、かれの未来までも予測できた。
「だが、ここにおれがいることを忘れるな! 次こそは、かならず倒す!」
つよく宣言して、それから、馬首を曹操のいる北へめぐらせた。




つづく


※ いつも閲覧してくださっているみなさま、ありがとうございます!(^^)!
タイトル回収の回でありました;
いま、原稿にルビを振る作業をしながら、これもなかなかに苦労した作品だったなと思い出しました。
いま取り組んでいる赤壁編も、かなりの難産ですが、なるべく早くみなさまに見ていただけるよう、努力して作っていきます。

それでは、次回をどうぞおたのしみにー(*^▽^*)

地這う龍 四章 その15 対決ふたたび

2024年02月09日 09時48分09秒 | 英華伝 地這う龍



張郃《ちょうこう》は、目の前にひろがる無残な光景に、いきどおりをおぼえていた。
かれは徹底して武将であったから、将兵が傷つくことには慣れている。
だが、いま目の前に転がっている死体の数々は、ほとんどが名もなき民衆だ。
老親をかばいともに倒れた親子、けんめいに逃げようとして背中から殺されている男、略奪の憂き目にあったうえで殺された女の姿もあれば、子供を腕にしっかりと抱いたまま、息絶えている母親の姿まであった。
これが劉備についていった民の末路なのだ。


「やつは悪鬼か、民を盾に自分だけ助かろうとは!」
苛立ちをこめつつ、のこされた劉備の兵が立ち向かってくるのを、なんなく屠《ほふ》る。
劉備の兵たちもまた、曹操軍をこれ以上進ませまいと、必死の攻撃を繰り出してきた。
あわれである。
十日以上、ほとんどろくに食べていないような兵と、気合も腹具合も十分な曹操の兵では、勝負になるはずもなかった。
だからこそ、どんな事情があれ、民を棄てた劉備のことがゆるせない。
なにが仁徳のひと、だ。
くだらぬ仁義を振りかざし、それがこの結果か!


かたわらにいた劉青《りゅうせい》が、ぼやいた。
「手ごたえがありませぬなあ、さきほどからあらわれるのは雑兵ばかり」
自身も功をねらい、また、張郃にも功をあげさせたい劉青は、さきほどから雑兵ばかりがあらわれ、大物と巡り合えないことを残念がっているようだ。
劉青とは、反対側で轡《くつわ》をならべている劉白《りゅうはく》が、土煙がもうもうと立ち込めている前方を見て、首をひねった。
張郃の軍の前方には、曹洪《そうこう》の軍がいて、容赦なく荒野の民を追い散らしている。
だが、そのさらに前線で、ひときわおおきな鬨《とき》の声があがっているのだ。
「なにか騒動が起こっているようです」
「劉備でも見つかったか」
「ちがうようです。見てまいります」
劉白はいうと、馬を走らせた。


曹洪の軍が打ち漏らした兵を片付けていると、劉白がもどってきた。
「なんであった、やはり劉備か」
言いつつ、劉備はおれが取りたかったなと張郃が思っていると、劉白は首を横に振った。
そのあいだにも、曹洪の軍の前方では、はげしく銅鑼が叩かれている。
なにかが起こっているようだ。
「白銀の鎧武者が、たったひとりで軍をひっかきまわしているのです」
「白銀だと、まさか」
新野で遭遇した、あの白銀の鎧武者……常山真定《じょうざんしんてい》の趙子龍ではないのか。
「ひっかきまわしているとは、どういう意味だ」
「まさに、言葉のままです。曹洪どのの部下の晏明《あんめい》が、討ち取られました」
「なんと」


晏明は曹洪じまんの武将で、けっして弱い男ではなかった。
劉白のはなしによれば、趙雲は、とつぜん人馬ともに廃屋のやぶから飛び出してくると、大胆にも大将、つまり曹洪の首を狙って攻撃を仕掛けてきた。
上役を守らんと、晏明が壁になって、曹洪を守ろうとしたのだが、いったいどんな魔術か、鉄球をつかってその頭を叩き潰そうと躍起になる晏明にたいし、趙雲はおそろしいほど俊敏な身のこなしで鉄球を避けていった。
それどころか、腰に佩《お》びた剣を抜き放ったとおもったそのつぎの瞬間には、晏明は袈裟懸けに斬られて、はげしく血をふきながら馬から落ちていた。
あまりのことに、泡を食った曹洪は、銅鑼を鳴らして兵に撤退を命じ、自分の周りを固めようとした。
ところが群がる兵をものともせず、趙雲はまわりにいる敵兵すべてを、つぎつぎと槍の餌食にしているというのである。


「まさに魔神のようなはたらきです。
劉備の将に、これほどの男がいたのかと、みな感嘆し、眺めているばかりで、手を出せませぬ」
「ばかな、眺めている場合かっ」
張郃は舌打ちすると、馬腹を蹴って、趙雲が暴れている前線へ急いだ。


曹洪は、ほうほうのていで逃げようとしているところで、張郃はそれとはすれ違いに趙雲に向かっていくかたちとなった。
劉白のいうとおり、趙雲は槍を魔法の杖のように自在にあつかっていて、かれが狙いを定めると、まずまちがいなく、兵が命をうばわれていた。
闇雲にひとを殺めんとするその姿は化け物といってよく、白銀の鎧はすでに朱に染まっていて、ぞっとするほどまがまがしく見えた。


張郃は劉青と劉白に、
「手を出すな、こいつはおれがやるっ」
と下知し、夢中になって曹洪を追いかけている趙雲めがけて、突進していった。


つづく


※ いつも閲覧してくださっているみなさま、ありがとうございます(^^♪
そして、ブログ村およびブログランキングに投票してくださったみなさま!
どうもありがとうございました、とってもうれしいです!(^^)!
たいへん励みになりますー! 今日もしっかりがっつり創作に励みます!

さて、長坂の戦いもだんだんクライマックスを迎えんとしております。
次回をどうぞおたのしみにー(*^▽^*)

地這う龍 四章 その14 囮

2024年02月08日 09時49分27秒 | 英華伝 地這う龍



夏侯恩《かこうおん》のむくろのそばに、青釭の剣が落ちていた。
趙雲がめずらしそうに、それを手に取ってしげしげとながめていたので、夏侯蘭《かこうらん》は言う。
「それは夏侯恩が曹操から下賜された宝剣で、青釭《せいこう》の剣というやつだ。
鉄でもなんでも、水のように斬ってしまうといわれている」
と言いつつ、無念そうな顔をしてたおれている夏侯恩を見下ろす。
「この御仁には、過ぎた宝物だったようだな。子龍、それはおまえが持つがいい」
「ちょうど俺の剣が刃こぼれしてきたところだ。ありがたく頂戴するとしよう」


そういって、趙雲が鞘ごと宝剣を手に入れていると、麋竺《びじく》がやってきた。
「おおい、無事か!」
と、夏侯蘭と玉蘭たちを見つけて、麋竺は声をはずませた。
「なんと、我が妹をたすけてくれたのは、そなたたちであったか!」
「子仲《しちゅう》さま、ご無事で!」
玉蘭《ぎょくらん》の声に、麋竺は嬉しそうにうなずいた。


「夫人の怪我はどうです」
趙雲が尋ねると、麋竺はすぐに顔をこわばらせた。
「傷は深い。とはいえ、ここからわが君の待つ長阪橋の向こうへはすぐの距離。
なんとかわが君のもとまで持つであろう。
わたしはなんとしても妹をわが君に会わせてあげたい。
子龍よ、われらを守って長阪橋へ」
と、みなまで言わさず、趙雲は首を横へ振った。
「軍馬の音が迫ってきている。
けが人をかかえて南へ行くにしても、みなでまとまっていたなら、たちまち追いつかれてしまうだろう」
「ど、どうする」
「子仲どの、奥方様と阿斗さま、それからここにいる阿蘭たちを頼んでよろしいか。
俺はもうすこし北へ行って、やつらをかく乱してくる」
「かく乱? どうやって!」
驚きうろたえる麋竺に、趙雲はすがすがしいほどの笑みを見せた。
「おれが阿斗さまを抱えて逃げ回っていると、敵に思わせるのだ。
そうすれば、敵は必死になっておれだけを追いかけてくるだろう。
そのあいだに、あなた方は逃げるのだ」
「ばかな、そんなことをしたら、死ぬぞ」
「死なぬ。おれは軍師と、きっと生きて帰ると約束をした。
わが君にも帰って来いと命令を受けておる。
むやみやたらに死を急ごうというわけではない、安心してくれ」


そうこうしているあいだにも、不気味な地鳴りが迫ってきていた。
夏侯恩をここまで案内してきた夏侯蘭だからこそ、わかる。
あれは、曹操の本隊の足音だ。
泣きたい気持ちになってきて、夏侯蘭はぐっとそれをこらえて、幼馴染に言った。
「俺からも言わせてくれ、子龍、生きて帰れよ」
「もちろんだ。負けはせぬ。では、子仲どの、阿蘭、後を頼んだ!」
そう言うと、趙雲は愛馬にまたがり、北へと、単騎で突進していった。


つづく

※ いつも閲覧してくださっているみなさま、ありがとうございます!(^^)!
そして、ブログ村にてフォローをしてくださった方、うれしいです!
ブログには「なろう」に載せていない作品もありますので、どうぞ楽しんでいただけたならと思います(^^♪

でもって、本日は短めの内容ですみません;
明日は張郃どののエピソードが入ります。
ではでは、また次回をおたのしみにー(*^▽^*)

地這う龍 四章 その13 夏侯蘭の奮闘

2024年02月07日 09時57分17秒 | 英華伝 地這う龍
夏侯蘭《かこうらん》に迷いはなかった。
兵をかき分けると、玉蘭《ぎょくらん》たちと夏侯恩《かこうおん》のあいだに滑り込み、夏侯恩の刃を、みずからの剣の刃で受け止めた。
がきん、と凄まじい、耳をつんざく音がする。
夏侯恩がおどろきに目を見開く。
その目線を受けて、夏侯蘭は、にやりと精一杯の意地で笑って見せた。
ぎり、ぎり、ぎり、と青釭《せいこう》の剣とやらの刀身の先が、おのれの刃を削っていく音がする。


だが夏侯恩の姿勢が、どこかへっぴり腰なのが幸いした。
夏侯蘭は力任せに夏侯恩をはじき返すと、すぐさま剣を持ち直し、夏侯恩とその兵士たちの前に立った。
弾かれ、倒れた夏侯恩は、怒りで顔を真っ赤に染めて、叫ぶ。
「夏侯蘭、きさまっ、裏切るのか!」
「もとより、貴様らに力を貸すつもりはなかったさ!」


夏侯蘭に手柄を立てさせてやろうという、狼心《ろうしん》……司馬懿の親切心が、みごとに仇となったのだ。
いや、ほんとうに親切心だったろうか。
あの手紙の内容は見てない。
もしかしたら、知りすぎた自分を消すために、前線に送れ、という内容だったのでは……まさか。


「なにをしている、者ども! こやつらを殺せ!」
夏侯恩の叫びと同時に、いっせいに武器をかまえて、曹操の兵が向かってくる。
兵の数は三十は超えているだろう。
俺はもともと死んだも同然の身だった。
それを助けてくれた二人のために、いま、死ぬのなら惜しくはない。


「玉蘭、阿瑯《あろう》っ、おれに構わず、逃げろっ!」
背後のふたりの返事を待たず、夏侯蘭もまた、みずから敵兵に突っ込んでいった。
だが、敵があまりに多すぎた。
あっという間に囲まれる。
騙されていたと知った夏侯恩の兵は、怒りに燃えていた。
たちまち、夏侯蘭は、かれらの繰り出す槍だの剣だのの餌食となった。
致命傷こそ避けられたが、からだじゅう切り傷だらけ。
一人斃《たお》すごとに、傷がまた増えていった。


痛いとか、つらいとか、考えている暇すらない。
必死で抵抗しながらも、しかし、死というものの巨大な手につかまれているような感覚があった。
俺はここで、死ぬのかな。
だが、夏侯蘭が敵を引き受けているあいだに、逃げればよいものを逃げないで、泣きながらこちらを見つめている玉蘭と阿瑯の姿が目に入った。
「逃げろっ、早くっ!」
その声に促されるようにして、ようやく玉蘭たちは足をうごかしはじめた。
あいつらのために死ねるのなら、よいか。


ざくっ、と嫌な音がして、二の腕が斬られる。
剣を落としそうになって、けんめいに手首に力をこめた。
自分を斬ろうとする男の目をまっすぐ見つめる。
獣じみた興奮に染まる、その目の血走った男の目を。
かつての自分もきっと、こんな顔をして戦場にいたのだろう。


「死ねぇっ」
男の雄たけびがして、袈裟懸《けさが》けに斬られそうになる、その直前。
振りかぶった男の腕が、消えた。


いや、消えたのではない、吹っ飛んだのだ。
男は、腕ごと斬られて、呆然としてうごかなくなっていが、やがて、おおきな悲鳴をあげながら、その場に倒れた。
あまりの電光石火の攻撃に、三十ほどいた敵兵も愕然として、すぐに次の行動に移れないでいる。
それを見逃さなかったそいつ……趙雲は、ぶうん、と槍を振り回すと、つぎつぎと目の前の兵たちを薙ぎ払い、突き刺し、弾き飛ばしていった。
まさにあっという間の出来事だった。
あれほど群がっていた兵の大半は死ぬか、あるいは逃げるかして、いなくなった。
残ったのは夏侯恩と老兵のみ。


「お逃げください、ここはそれがしが!」
老兵が前に出ようとするのを夏侯恩がきりきりとした声で遮った。
「黙れ、このわたしに逃げろというか! 
そこな将、名乗れ、わたしが討ち取ってくれように」
「常山真定《じょうざんしんてい》の趙子龍。そちらも、名のある方とお見受けしたが?」
「夏侯元譲《かこうげんじょう》の弟で、夏侯恩じゃ! いざっ」


夏侯恩は頼みの青釭の剣でもって、趙雲に挑みかかった。
だが、趙雲にも、その剣筋のわるさがすぐにわかったのだろう。
馬上で難なく、ひょいっと身をひねって、その剣をかわすと、あっと驚いた顔をしている夏侯恩の心臓めがけて、正確無比に刃を突き立てた。
どんっ、と地面に落とされた夏侯恩は、そのまま激しく血反吐をはいた。
老兵が、つづけて突進してきたが、これもまた趙雲の敵ではなかった。
かれもまた、一瞬のうちに薙ぎ払われ、地面に伏したところへ、刃を突きたてられ、絶命した。


趙雲は馬から降りると、満身創痍の夏侯蘭のもとへやってきた。
その表情は、さきほどまで三十以上の敵をほぼひとりで斃したとは思えないほど静かで、落ち着いていた。
肩で息をしているものの、疲れているふうではない。
つくづく、おれも恐ろしい幼馴染みをもったものだと、苦笑いとともに夏侯蘭はおもう。
趙雲が手を差し伸べてきたので、夏侯蘭はためらわず、その手を取り、起き上がらせてもらった。


とたん、
「蘭さん、生きているのね!」
「小父《おじ》さん、よかった、よかったよう!」
そう言いながら、玉蘭と阿瑯が泣きながらこちらに駆けよって来た……


つづく

※ いつも閲覧してくださっているみなさま、ありがとうございます(^^♪
見てくださる方がいるからこそ、やる気もでるというもの。
つづきもなんとか制作を進めようと思います!

さて、長坂の戦いも山場です。
最後までお付き合いいただけるとさいわいです(#^.^#)
ではでは、次回をおたのしみにー(*^▽^*)

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